本記事では自動車製造業界の主要3社である、「トヨタ自動車」「本田技研工業」「日産自動車」が海外拠点でどの程度生産・販売を行っているのかを整理し、各社の海外展開の差を明らかにして行きます。
世界の地政学的な不安定さや、それに伴うサプライチェーンや商流の変化が想定される今後に置いて、過去の実績から自動車メーカーのビジネスを理解し、今後の見通しや洞察を得ていきましょう。
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本記事のデータの引用は特段の断りがなければ、各社のIR資料より引用しております。詳細は各社の公開情報をご覧ください。
記事中のデータは生産・販売台数は2023年の情報として記載し、売上高等の決算情報は2024年度(2023年4月-2024年3月)の情報として記載していますが、2023年のデータが中心となっています。
自動車生産・販売台数の比較
上のグラフは各社の国内と海外の販売台数の6年間の推移を示したグラフです。
トヨタの海外販売台数は2020年にコロナの影響で一時的に減少したものの、6年間のトレンドで見れば2018年の831万台から2023年の893万台へと3社の中では唯一海外販売台数を増加させています。国内販売台数は2022年までは下降傾向でしたが、2023年に盛り返しておりコロナ前の水準となっています。
本田は海外・国内共に販売台数は縮小傾向となっています。海外は2018年の449万台から2023年は340万台と6年で100万台販売が減少しており、国内も同様に75万台から59万台へ減少しています。
日産も同じく海外・国内共に販売台数は縮小傾向となっています。特に海外の販売台数減少が大きく、2018年の504万台から2023年は289万台と6年で50%近くまで減少しており、販売台数は本田と順位が逆転してしまいました。国内も62万台から48万台へ減少しています。
上のグラフは各社の国内と海外の生産台数の6年間の推移を示したグラフです。
トヨタの生産台数も販売台数と基本的なトレンドは同じです。海外の生産台数は2020年の一時的な落ち込みはあるものの、2018年の634万台から2023年の721万台へと生産台数を増加させています。販売台数の6年間の増加が60万台程度なのに対し、生産台数は90万台近く伸ばしているため海外生産能力の高まりを感じます。国内生産台数は上下はあるものの、2018年と2023年は同水準となっています。
本田は海外生産台数を2018年の447万台から2023年の347万台へと100万台減少させており、また、国内生産台数も89万台から72万台へと販売数の減少と共に生産台数も減少傾向にあります。
日産は海外生産台数を2018年の479万台から2023年の273万台へと200万台以上減少させており、本田の2倍の海外生産規模を縮小していることになります。国内は2018年の93万台から2023年の72万台と20万台減少させています。
上のグラフは各社の日本から海外の自動車輸出台数の6年間の推移を示したグラフです。
日本から海外への自動車輸出はトヨタと日産は2018年と2023年で近い水準となっており、本田は半減しています。本田は海外需要分は海外で生産能力を維持することで日本からの輸出は減少させており、日産は海外需販売台数に満たない海外生産台数のため、そのギャップを国内需要に対して余分となっている生産能力を活かし、日本から輸出している様に数字上は見えます。
国内・海外生産比率を円グラフで見てみます。このように見るとトヨタが生産台数の多さのみならず、3社の中で最も国内生産の比重を高く持っており、国内自動車業界のサプライチェーンや雇用の創出に大きな影響力を持っていることが伺えます。そんな中でも6年間でやや海外生産の比率が増加してきています。
本田と日産はトヨタと比較すれば海外の生産台数の数が大きいですが、国内も比率的には同程度の減少となったため、5年で見たときにそこまで大きな変化はありませんでした。やはりどちらも海外生産台数の減少が大きく、国内生産比率がやや高まっています。
また、マクロな目線で言えば、日本の基幹産業である自動車メーカーもその事業の7~8割は海外で営まれているということであり、GDPに含まれる付加価値はメーカーの上げた収益の2~3割程度となります。
また、各社の国内生産台数を母数とし、海外への輸出台数を分子とした国内生産の海外輸出割合を見ると、各社上記のような数字となります。
トヨタと日産は国内生産台数のおよそ半分を海外へ輸出している一方で、本田は12%程度と輸出割合が他2社と比較して低いことが分かります。
輸出比率が高いトヨタと日産は為替相場の影響が直接業績に影響することになるため、特に円安傾向の昨今はニュースでも良くその点に触れられるでしょう。輸出比率の低い本田は、為替面で輸出による直接的な業績影響の割合は低くなりますが、海外拠点での調達や利益送金といった別の形で為替の影響を受けることになります。
地域別の詳細比較
上のグラフは自動車3社の2024年3月期決算における各地域毎の売上高の比較です。
3社共に最大の需要地となっているのは北米でトヨタが17.6兆円、本田が12.1兆円、日産が7.28兆円の売上となっています。各社間に5兆円ずつの売り上げの開きがあり、ニュースとなっている本田と日産の経営統合によって北米での売上はトヨタを上回る事になります。
欧州はトヨタが5.5兆円、本田が0.97兆円、日産が1.87兆円とトヨタの売上高が大きく、本田があまりシェアを持っていないことが分かります。
アジアの売上高はトヨタが7.6兆円、本田が5.01兆円、日産が1.61兆円となっており、本田の5.01兆円の内、四輪の売上が2.45兆円なのに対し二輪の売上が1.79兆円となっています。アジアでは需要の高い二輪事業を持つ本田が存在感を発揮しています。
上の円グラフは各社の売上の地域別比率を示しています。
トヨタの売上高は日本と北米が大きな比率を占めつつ、欧州、アジアも10%強、その他も合わせて10%弱と比較的バランスの取れた全方位的な売上構成比率となっています。これは日産も近い傾向で欧州、アジア、その他の比率はトヨタよりもやや低くなっています。本田は日本と北米で売り上げの70%強を構成しており、アジアが20%、欧州とその他がかなり低い比率の構成となっています。
上図はトヨタの各国毎の生産台数です。2023年においては実に23カ国でトヨタは自動車生産を行っています。中でも日本が431万台と圧倒的に多く、その他中国、米国、タイ、カナダが続きます。
最大の需要地となっている北米は米国、カナダは10年間で生産台数はほぼ横ばいとなっており、2023年で米国が123万台、カナダが62万台。メキシコは10年間で4倍程度増えていますが、それでも2023年時点で25万台とカナダの半分程度の生産量で規模はそこまで大きいわけではありません。
アジアでは10年間で中国の生産台数がほぼ2倍の175万台に。インドネシアやタイは10年間で生産台数を減らしており、インドネシアが28万台、タイが62万台。一方でインドは10年間で2倍程度に増加しており33万台となっています。
中南米と欧州はそれぞれ地域合計で10年間で10万台程度増加しています。
上図は本田の各国毎の生産台数です。2023年においては14カ国で本田は自動車生産を行っています。中国が127万台と多く、その後米国、日本、カナダが続きます。
本田の売上高は北米が最も大きいのですが、米国とカナダを合わせた生産台数に匹敵する台数を中国で生産しています。その分インドネシアやタイといった東南アジア諸国での生産数はそこまで多くないのが特徴です。フィリピンでの生産は2020年までは実施されていましたが、2021年以後は生産を停止しています。
また、欧州でもイギリスとトルコでそれぞれ数万台の水準で生産していましたが、2021年の出荷を最後に2022年以後は生産を停止しています。この様に本田は注力エリアとなっていない欧州や生産台数が数千台と少ないフィリピンやアルゼンチンの工場を停止し採算を合わせる動きを強めています。
上図は日産の各国毎の生産台数です。2023年においては11カ国で日産は自動車生産を行っています。生産台数は中国、日本、メキシコ、米国で同じような規模の台数を生産しており、次いで英国で30万台程を生産しています。
北米において日産は米国と同規模でメキシコに生産拠点を設けており、年間61万台を生産しています。他の2社は米国とカナダに生産拠点を集中させているのとは異なる特色です。
アジアにおいては中国と日本での生産がほとんどであり、タイにも9万台程度の生産を行っていますが東南アジアでの展開は限定的です。
欧州においては英国で33万台程度の生産を行っており、トヨタにおいて欧州で最も生産規模の大きいフランスの27万台を上回っています。日産は2017年頃スペインで10万台規模の生産を行っていましたが、徐々きに規模を縮小し2021年の生産を最後に2022年以降は生産を停止しました。