債券とは何か?

債券は、国・地方自治体・企業などが資金調達のために発行する有価証券です。購入者はあらかじめ約束された期間ごとに利息(クーポン)を受け取り、償還(満期)時に額面金額が返ってくるのが特徴です。たとえば国が発行する「国債」では、政府が借金の形でお金を借り、利子を払ったうえで返済します。債券は株式と異なり、原則として満期時に元本が戻るため、比較的安定した収入源となります。ただし、発行体が破綻すると元本や利子が支払われないリスクもあります。

債券市場とは?

債券市場は「発行市場」と「流通市場」の2つに分かれます​。発行市場では企業や政府が新規発行する債券を投資家に売り出し、流通市場ではすでに発行された債券が投資家同士で売買されます。株式が証券取引所で取引されるのに対し、債券の取引は主に証券会社の店頭取引(店頭市場)で行われるのが特徴です。そのため債券は発行額が大きく、通常1億円単位で売買され、個人投資家の取引比率は低いのが現状です​。しかし年金基金や投資信託など機関投資家には重要な投資対象であり、債券は各国の金融システムに欠かせない存在です。世界全体の債券市場規模は2022年時点で約122兆ドル(約1京4000兆円)にも達し、株式市場規模を上回る最大級の金融市場と言われています​。

金利とは何か?

金利(きんり)とは、資金の貸借に対して貸し手が受け取り、借り手が支払う対価の割合のことです。たとえば銀行からお金を借りるときは借入金額に対して一定の比率で利子を支払い、逆に預金者は預金額に応じて利息を受け取ります。一般には「年利%」で表され、借り手にとっては資金調達コスト、貸し手にとっては投資収益の率となります。債券の場合には、発行時に決められた表面金利(クーポン金利)があり、定期的に利息が支払われます。一方、債券の市場価格は変動し、市場で買い手が求める金利水準に応じて価格が上下します。このとき、債券の利回り(=市場利率)は、実際の購入価格に対する利息分や償還額を含めた総合的な期待収益率を指します。一般に金利が1%上がれば、1年間あたりの利息負担や収益が1%分増えるとイメージしてください。

債券価格と金利の関係

Bonds and the Yield Curve
引用:Bonds prices and Yields (The Reserve Bank of Australia)
https://www.rba.gov.au/education/resources/explainers/bonds-and-the-yield-curve.html (2025/4/29参照)

債券価格と利回り(市場金利)は逆の関係にあります。図のように債券の価格が上がると利回りは下がり、価格が下がると利回りは上がります。たとえば、利率2%の債券(額面100円で年2円の利息)があるとき、市場の金利が3%に上昇すれば同じ100円を出してもらうためには3円払う別の債券が魅力的になります。その結果、元の2%債券は魅力が薄れ、価格が下がって利回りが3%に近づきます。逆に市場金利が1%に下がれば、2%債券は有利に見えるため価格が上昇し、利回りは1%に近づくまで下がります。つまり金利上昇時には債券価格が低下し、金利低下時には債券価格が上昇する「シーソーのような関係」があります。この性質から、債券投資では金利変動リスク(デュレーション)が重視されます。

債券市場が注目される理由

  • 安全資産としての役割: 国債(特に米国債・日本国債)は「リスクフリー資産」とされ、経済不安時には買われやすい性質があります。リスク回避の際、投資家は株式などから債券へ資金を移しやすく、その際債券価格が上昇・利回りが低下します。
  • 安定収入と元本保全: 債券は決まった利息収入が得られ、満期には額面が返ってくるため、収益の安定性が期待できます​。投資先の中では歴史が長く、市場規模も世界最大級(約122.6兆ドル)なので​、株価のように大きな変動が少ない投資手段と見なされています。
  • 指標金利としての役割: 債券利回りは金融政策や市場予想のバロメーターです。中央銀行の政策金利やインフレ見通しに応じて長期金利は変動し、住宅ローン金利や企業の調達コストにも影響を与えます。債券市場の動向を通じて、景気や物価の先行きをうかがうことができるため、経済の根幹を表す重要な指標です。

債券市場と金融政策(金利政策)の関係

中央銀行は金融政策で政策金利を操作し、経済・物価に影響を与えます。米連邦準備制度理事会(FRB)はフェデラルファンド金利(短期金利)をターゲットに据え、公開市場操作で需給を調整します。一方、日本銀行(日銀)は伝統的な短期金利操作に加え、長期金利にも直接介入する「イールドカーブ・コントロール(YCC)」を導入していました。具体的には、日銀は長短金利操作で10年物国債利回りを0%前後に誘導し、買いオペで金利を低位に抑えてきました。2022年12月には許容乖離幅(上限)を従来の±0.25%から±0.50%に拡大する対応がとられ、2024年3月には物価見通し改善を受けてマイナス金利を解除・YCCを廃止しました。通常、短期金利より長期金利の方が高い傾向(上向きのイールドカーブ)があります​。

Bonds and the Yield Curve
引用:Bonds and the Yield Curve (The Reserve Bank of Australia)
https://www.rba.gov.au/education/resources/explainers/bonds-and-the-yield-curve.html (2025/4/29参照)

中央銀行が金融政策を変更すると、利回り曲線全体がシフトしたり形状が変化します。たとえば、政策金利が上がると短期金利が上昇し、場合によっては長期金利も上昇基調になることがあります。2025年4月時点では、FRBは利上げ局面をほぼ終え、夏から利下げに転じると市場は見込んでおり、米短期金利先物は年内4回程度の利下げを示唆しています。

最近の米国債市場と金利動向

しかしその後はインフレ率の低下や景気減速懸念を受けて、10年債利回りはやや低下傾向に転じています。2025年4月末時点の米10年債利回りは約4.22%で、4月中旬の3週間ぶり低水準にまで下落しました。市場では今後数回の利下げが織り込まれており、特に2025年6月以降に動くとの見方が強まっています。一方、米国では国内総生産(GDP)や消費者支出などの指標発表を控え、市場は慎重な姿勢を示しています​。このように現在の米国債市場では、政策金利動向と経済指標発表の見通しが利回り変動の主な焦点となっています​。

最近の日本国債市場と金利動向

日本の長期金利は2020年代初めまでは超低水準で推移してきましたが、2022年末から変動幅が拡大しました。前述のとおり、日銀は2022年12月にイールドカーブ操作の幅を拡大し、2024年3月にマイナス金利を解除・YCCを廃止しました。これを受けて債券市場では金利上昇への期待が高まり、2025年2月には新発10年国債利回りが1.44%(2009年以来の高水準)まで上昇しました​。しかし、2025年4月初旬には米国の関税政策を巡るリスク回避で安全資産買いが進み、長期金利が急低下しています。4月4日には新発10年債利回りが前日比0.20%低下の1.16%となり、年初来上昇から一転して下落しました。同時に米10年債利回りも4%を割り込み、安全資産として日米国債が買われる展開となりました​。この動きで市場は日銀の今後の利上げ可能性を大幅に織り込み直し、年内の追加利上げ観測は急速に後退しました​。要するに、日本では引き続き緩やかな金利上昇基調が続いており、米国に比べてはるかに低水準(1%台前半)ながら、その変動は日銀政策に敏感に反応しています。

まとめ

債券市場は、発行者(国や企業)の借金(債務)を売買する場であり、金利はその「借りるコスト」です。一般に金利が上がれば債券価格は下がり、その逆もまた成り立ちます。債券市場は規模が大きく安全資産として重視され、金融政策や経済状況を映す鏡でもあります​。最近の動きを見ると、米国ではFRBの利上げ・利下げ動向に合わせて利回りが上下し、日本では日銀の政策変更や外部ショックに反応して金利が変動していることがわかります。今後も債券市場の動きは、両国の経済見通しや政策動向を理解するうえで重要な手掛かりとなります。