国内動向
グリーンイノベーション基金事業「次世代船舶の開発」プロジェクト
グリーンイノベーション基金事業「次世代船舶の開発」プロジェクトは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、NEDOのグリーンイノベーション基金を活用し、ゼロエミッション船の実用化を目指したプロジェクトとなります。NEDOは経済産業省の所管となりますが、本プロジェクトの策定は国土交通省となります。
本プロジェクトには、3つの研究開発項目があります。
1.水素燃料船の開発
目標:水素燃料エンジン、燃料タンク・燃料供給システムを開発し、2030年までに水素燃料船の実証運航を完了
研究開発内容:[1]水素燃料エンジンの開発、[2]水素燃料タンク・燃料供給システムの開発
2.アンモニア燃料船の開発
目標:アンモニア燃料エンジン、燃料タンク・燃料供給システムの開発及び舶用アンモニア燃料供給体制の構築により、2028年までのできるだけ早期に商業運航を実現
研究開発内容:[1]アンモニア燃料エンジンの開発、[2]アンモニア燃料タンク・燃料供給システムの開発、[3]舶用アンモニア燃料供給体制の構築(バンカリング船開発)
3.LNG燃料船のメタンスリップ対策
目標:2026年までにLNG燃料船のメタンスリップ削減率60%以上を実現
研究開発内容:メタンスリップを劇的に低減させるエンジン技術を確立
そしてこれに関わる具体的なテーマと実施者は以下の通りとなります。

日本においては水素、アンモニアが研究開発の中心になっているようですね。海外ではメタノールや小型原子力等も研究開発が盛んで、この辺りは地域による差も出てきそうです。
また、水素やアンモニアについては生成過程でCO2を排出しているかどうかも重要であり、
- 化石燃料から生成しCO2を排出しているものをグレー水素/グレーアンモニア
- 化石燃料から生成しCO2を排出しているものの、そのCO2を貯留・回収・利用(CCUS)しているものをブルー水素/ブルーアンモニア
- 再生エネルギーを活用し、生成過程でCO2を排出していないものをグリーン水素/グリーンアンモニア
といいます。サプライチェーン全体での脱炭素に各社取り組んでいます。
国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト
こちらも国土交通省主導の2028年までに温室効果ガスを排出しない、「ゼロエミッション船」を商業運航することを目指したプロジェクトです。産官学が連携しこれに取り組んでいます。
本プロジェクトにあたり、2020年3月に117ページにも及ぶ国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップが策定されています。是非ご関心のある方はご覧いただければと思います。今回は概要説明資料からポイントを抜粋しています。

まず、国内での各使用燃料の普及時期想定ですが、「LNG燃料→風力推進→バイオメタン→水素・アンモニア/船上CO2回収→カーボンリサイクルメタン/バッテリー推進」となっています。また、石油系燃料油は2035年以降になくなる想定ですね。
LNG燃料は既にデュアルフューエル船等でも利用されています。風力推進については商船三井のウインドチャレンジャープロジェクトが著名ですね。今年2022年にも運航開始が予定されています。
日本郵船はLNG燃料船をアンモニア燃料船へ転換することが可能な船のコンセプト設計が完了したというリリースと、また、デュアルフューエルでメタノール燃料を利用できるケミカルタンカーが竣工したというリリースも出ています。各社開発が進んでいる様です。


この様に現時点での想定については描かれているものの、これを実際に運用していく上では、「燃料の安定供給」「研究開発の進捗」「経済合理性」といった観点から本当に目標が達成可能なのかどうかはまだ不明瞭と言えるでしょう。
新技術の開発については大きな資本が必要であるため、大手企業だけでなく、国としての資金支援や、研究基幹との技術的な連携も必要になってきます。商業的な成功との両立に向けて、まだまだ投資は加速し目が離せない状況です。
まとめ
今回はグローバルと国内で海運業界の脱炭素化に向けた取り組みや政策をご紹介しました。グローバルで見るとやはり欧州がルール策定をしているため、政策的な動きや各種イニシアティブの紹介が中心となりました。日本ももちろんそういった動きの中に参加はしていますが、何方かと言えばフォロワーとしての立ち位置であることに間違いはないでしょう。
また国内でも脱炭素に向けた技術開発には今後注目していきたいと思います。欧米の企業は中国・韓国造船と組むことも多くなると思いますが、国内造船企業もこの新たな波に乗ってプレゼンスを高められることに期待したいと思います。