本記事では徹底財務分析ということで、海運業界の主要3船社である、「日本郵船」「商船三井」「川崎汽船」を財務面から紐解きながら、それぞれの会社の特徴と違いを明らかにしていこうと思います。
また、記事の後半は日本の主要3船社に対して、海外の船社である「A. P. Moller Maersk(マースク)」「COSCO SHIPPING Holdings Co Ltd(コスコ)」「Hapag-Lloyd(ハパックロイド)」の3社を同様に財務分析し、日本船社と比較しています。こちらは有償パートとなりますので、ご関心のある方のみご覧ください。
世界の地政学的な不安定さや、それに伴うサプライチェーンや商流の変化が想定される今後に置いて、過去の実績から船会社のビジネスを理解し、今後の見通しや洞察を得ていきましょう。
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国内主要3社の概要
日本郵船
日本郵船は、1885年に設立された日本の総合物流企業で、コンテナ船、自動車船、LNG船、ドライバルク船などを運航しています。また、航空貨物や陸上輸送、ターミナル運営なども手掛け、顧客の多様な物流ニーズに対応しています。同社は、ゼロエミッション船の開発や代替燃料の導入に積極的で、環境技術の分野でも取り組みを強化しています。
商船三井
商船三井は、1884年に設立された日本の海運企業で、コンテナ船、自動車船、タンカー、LNG船など多様な船舶を運航しています。また、海洋事業やターミナル運営なども手掛けています。同社は、環境配慮型の技術開発を強化し、持続可能な物流サービスの提供に注力しています。
川崎汽船
川崎汽船は、1919年に設立された日本の海運会社で、コンテナ輸送、バルク輸送、自動車船、エネルギー資源輸送など多様な事業を展開しています。また、物流事業やターミナル運営にも力を入れ、グローバルな物流ネットワークを構築しています。
国内主要3社の売上高/営業利益率と事業セグメントの比較
まずは、各社の2013年度から2023年度までの売上高と営業利益率の推移、そして、直近年度(2023年度)における各社のセグメント別売上高比率を見ていきます。これにより、ここ10年間の大まかなビジネストレンドを掴んでいきます。
売上高の規模感は違えど、売上高、利益ともに類似したトレンドを形成しています。2014年度を一つのピークとして、2020年までは売上高が継続的な下降傾向となっており、営業利益率も1%前後を推移(年によっては赤字となる年も)していることから、ビジネス環境としては向かい風の時期を長く経験することになります。
この時期は「船のスペースの供給」>「荷物の輸送需要」という構造が続いた時期であり、海上輸送運賃がなかなか上がらないといった市場環境でした。
大きな転換点となった2020年~2021年は、ご存知の通り「コロナ禍」となった影響により、消費及び購買需要が劇的に増加。需給の関係も急激に「船のスペースの供給」<「荷物の輸送需要」へと傾き、海上輸送運賃は大きく上昇しました。
それにより、3社共に利益率が急激に改善し、各社6~10%台まで営業利益が改善しています。一方で売上高も増加はしているものの、2014年前後のピーク時と比較しても各社同程度からそれ未満ということで、売上高自体が劇的に伸びた訳ではなかったということももう一つの特徴と言えるでしょう。
これは構造的な話にはなりますが、2014年時と異なるのは、コロナ禍で供給がタイトになったコンテナ船はOcean Network Express(通称ONE)という形で3社から切り離され、2017年から独立した法人として成り立っているためです。
ONEの売上高は2022年度が3.91兆円と今回取り扱っている3社それぞれを上回る規模になっており、これだけ見てもコンテナ需要がどれ程高まっていたかをうかがい知ることができます。ONE設立以前は、コンテナ船事業の収益性は高くなく各社低迷している状況かつ、海外のコンテナ船社は船隊規模も大きく競争力を十分に持っていない状況でしたが、それを高めるために3社合弁でONEを設立した直後、いきなり主役に躍り出た形となります。
続いて2023年度における日本の主要3船社のセグメント別売上高比率を見ていきましょう。ここには各社の特徴が出ています。
ここには各社の色が顕著に出ています。左の円グラフが売上高のセグメント別比率、右の円グラフが利益のセグメント別比率となっています。
日本郵船は自動車船、ドライバルク船、LNG船といった「不定期船」のビジネスセグメントが売上高50%強を占めており、コンテナ船やターミナル運営を含む「定期船事業」と共に、船の運航が中心であるものの、「物流事業」や「航空運送事業」の比率も既に35%程度と大きな比重がありここを強化する動きもある総合物流企業としての色が濃く出ています。一方で利益を見ると「物流事業」と「航空運送事業」の利益は売上に比べるとかなり圧縮され、利益の85%以上を「不定期船」と「定期船事業」の2事業で稼ぎ出しています。
商船三井は日本郵船で統合して表現されていた、「ドライバルク事業」「エネルギー事業」「自動車船・港湾・ロジスティクス事業」がそれぞれセグメントとして分割されており、「コンテナ船事業」を含めて船会社としての事業が大半を占めます。中でもエネルギー事業への投資が加速しており、LNG船を多数保有しています。利益構造では売上高では3.5%に過ぎないコンテナ船事業が、利益ベースでは21%と自動車船事業やエネルギー事業と遜色無い利幅を叩き出しており、コンテナ市況の活況が伺えます。
川崎汽船も商船三井同様船会社としての事業色が濃く、「ドライバルク」「エネルギー資源」「製品物流」の3セグメントです。川崎汽船は日本初の自動車専用線をサービス投入した経緯もあり、自動車船事業が強い傾向があり、自動車船事業を含む「製品物流」のセグメントが半分以上を占めています。利益構造で見るとより「製品物流」の占める割合が増え、利益の91%が製品物流セグメントから上がっている状況です。
国内主要3社のバランスシートと財務状況比較
前項で触れた通り、各社の売上高の構造にはそれぞれ特徴があるため、バランスシートの観点からもそれぞれの違いや特徴があるのかを見ていきたいと思います。以下は国内主要3社の2023年度のバランスシートを図示したものになります。
3社とも船を中心としたビジネスのため、大きな構造上の共通点として資本の使い方として固定資産が大きな比率を占めるところに特徴があります。船会社は船やターミナルといった大きなアセットを自社で所有しており、この稼働効率がビジネス上の要点となりそうです。
また、純資産がとても大きな比率を占めていることもかなり特徴的です。財務上はかなり安定的な状況と言えるでしょう。これはコロナ禍以後3社とも大きな収益を上げており、純資産として積み上がっていることが背景にあります。参考までに2013年度の各社のバランスシートの状況は以下です。
見てお分かりの通り純資産の比率は1/3程度で今よりも財務的に安定性に欠ける状況でした。これはある種本来的な財務構造であり、船という何年も稼働する大きな固定資産を造船するために、銀行から多額かつ長期の借入をすることで、固定負債が積み増されているという背景があります。また、借方も現在より流動資産比率が多くなっていたことも分かります。
以下のグラフは10年間の時系列による純資産合計と負債合計の推移です。
2021年度から純資産合計が大きく伸びているのがお分かりいただけると思います。このように2020年頃までは財務的にはやや不安定な状態が続いており、船会社の株価は当時低迷していましたが、急激な市場環境の変化で盤石な財務体制となったことから、現在の株価急騰の下支えになっています。
有利子負債/株主資本で見るD/Eレシオは川崎汽船が2018年~2019年において、5倍というかなり高い水準でした。日本郵船と商船三井は2倍程度で維持している様子がうかがえます。現在はかなり低い倍率で抑えられていますね。
このように海運会社の財務基盤はBeforeコロナとAfterコロナで大きく変化したポイントであると言えます。
国内主要3社の収益性分析と比較
ここからはビジネスの実力を測る収益性分析の観点で見ていきたいと思います。
以下は2023年度におけるROE,ROA,PER,営業利益率,売上総利益率の5項目を3社で比較したものです。基本的に5つとも数字が大きい方が良いとされる指標です(PERは大きいと割高とも捉えられますが、期待値の大きさとも判断できます)。
2023年度決算のROEとROAの観点から見ていくと、どちらも商船三井>日本郵船>川崎汽船となっています。ですが、10年間で見てみると売上高の変動が大きいため、ROE,ROA共に変動が激しくなっています。ただ、3社の競争する市場は主要な船型こそ違えど同じ市場の影響を受けるため、大きくは変わらず同じトレンドを追いかけていますし、そこまで大差無いという捉え方で良いでしょう。
収益効率性の観点では、売上総利益率は日本郵船>川崎汽船>商船三井、営業利益率は川崎汽船>日本郵船>商船三井となっています。2021年度や2022年度までとはいかずとも、2023年度も海上運賃は低くない水準で推移しており、低迷期に比べれば船舶の稼働もそれなりに高かったことが想定されます。
そんな中での大手船会社の売上総利益率は各社15~16%前後、営業利益率は7~8%というのはベンチマークできる実力値と言えるのではないでしょうか。とはいえ、他業界と比較しても粗利率が高い業界とは言えなさそうです。
PERは川崎汽船>日本郵船>商船三井となっており、川崎汽船が相対的に高い値になっています。期待値でPERが高くなるのは成長企業に多いパターンであるため、川崎汽船は日本郵船や商船三井と比較して、やや株価が割高と評価されることになるでしょう。
2023年の損益計算書を図示してみても、各社セグメント構造は違うものの、大きなバランスの違いはなさそうです。しかし、売上の大きな企業ですので1%,2%の違いが大きな収益の差に関わってきます。
収益や費用にどのような項目があるのか、補足として日本郵船2023年度の損益計算書から確認してみましょう。
収益には主に貨物運賃と貸船料があり、オペレーターとしての運航料が8割、船を貸しての収益が2割というのが大まかな構造です。費用側としてはその運航にかかる運航費として貨物費や燃料費、港費が貨物運賃の40~50%程度計上されています。
運航のためのアセットの費用は船員費と船舶の減価償却費で貨物運賃の10%程度。借船料はかなり大きく収益の60%程度となります。
ここで気づくのが、貨物運賃収入に対するコストが、運航費+船費+借船量だとすると、運賃収益自体は赤字であり、貸船料があることでなんとか黒字になっていると解釈できそうです。ここ数年は海上運賃が高騰していると叫ばれていますが、全体で均してみるとそこまで収益性が高くはないんですね。
さて、長期トレンドの視点に戻りたいと思います。収益効率性の観点をより深掘りします。
売上高原価率を見ていきます。コロナ禍までの長い期間、売上高原価率は平均して90%強とかなり高い水準を推移していました。ここから販管費が引かれていくので時期によっては赤字が出る等、ビジネスとしてはかなり厳しい時期が続いていました。そこからコロナ禍で85%程度の水準まで改善していますが、他の業界等と比較すれば、原価率は高いビジネスであると言えるでしょう。
売上原価の中には、船の運航に必要な諸経費として、船自体の所有や維持管理に関するコストや借船料、燃料費や港湾の利用費が含まれ、設備投資として大きな金額を必要とするビジネスであることは明らかです。そう考えると、これらのアセットを効率良く稼働させる必要が出てきますし、船がどんどん大型化して1航海で得られる利益を最大化する方向性に動くことも頷けます。
続いて売上高販売管理比率です。日本郵船は9%程度で横ばい、商船三井と川崎汽船は2013年の6%から直近は8%程度と緩やかに右肩上がりになっていることがわかります。
日本郵船の水準が高くなっているのは、数字として明確に開示されているわけではないものの、おそらく物流事業の売上高比率が高く、販管費が高くなっている可能性があります。物流事業領域は競合が多く、最近でこそ自動化が進んでいますが、まだまだ労働集約的な側面もあるため、比較的付加価値が出しづらいことが想定されます。そのため、価格競争になりやすく販管費の比率が高くなったと推察します。商船三井と川崎汽船の販管費率の増加は、有価証券を見る限りだと直近年度においては、役員報酬や賞与による影響が伺えました。
国内主要3社の固定資産回転率比較
ここまで、海運業は貸借対照表の構造から固定資産の活用効率が重要と強調してきましたが、その固定資産の回転効率を評価していきたいと思います。具体的なイメージを持つため日本郵船の2023年度有価証券報告書から、固定資産の項目を見てみましょう。
投資有価証券が最も多く直近年度ではおよそ1.8兆円、続いて船舶が8,000億円弱とこの2つが固定資産の大きな比重を占めていることが分かります。
投資有価証券等から生まれる配当利益は営業外収益として経常利益に加算されます。例えば、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の収益は、ONEが日本郵船の持分法適用会社に当たるため、ONEの損益のうち、(記事執筆時現在)日本郵船の持分である38%が営業外収益として経常利益に計上されます。
上記を鑑みると、日本郵船単体として資産を効率的に活用できているかどうかは、無形固定資産が大きな規模ではないため(ただ、潮流として無形資産への投資が重要になりつつあると思っています)、これまでについては、有形固定資産をベースにして、収益効率を評価するのが良いでしょう。
上図は国内海運3社の有形固定資産と有形固定資産回転率を示したグラフです。10年を通じて有形固定資産の金額は商船三井>日本郵船>川崎汽船となっています。金額ベースでは商船三井は川崎汽船の2倍です。売上高は日本郵船>商船三井>川崎汽船の順ですので、有形固定資産回転率は商船三井が他2社の半分程度となっており、有形固定資産の稼働効率が悪いように見えます。この深掘りは番外編で以下の「決算資料から探る 日本郵船・商船三井・川崎汽船の所有船舶と稼働効率の比較」で行っていますので詳細はこちらの記事でご確認ください。
続いて無形固定資産の状況です。無形固定資産はシンプルに金額ベースで見るのが良いと思いますが、日本郵船、商船三井に比べて明らかいに川崎汽船の金額が低いです。詳細を見てみましょう。(上グラフは連結の無形固定資産を描写していますが、無形固定資産の詳細は単体でのものが細かく記載されているため、以下は単体の項目と金額について触れます 注:グラフと以下の引用数字が一致しません)
各社左が2022年度決算、右が2023年度決算の数字です。
昨今のグローバル企業において無形固定資産として大きいのは「のれん」であり企業買収するとのれんが大きく乗ってくるのですが、日本の海運企業はあまりのれんは乗ってきていません。船会社としての買収は船団強化のための統合くらいのイメージですがそういった動きは現状の景況感では起こっていないようです。昨今ではインテグレーターとして物流の川上から川下までM&Aを通して機能を強化する動きが多いですが、そういった側面でものれんは日本郵船で乗っていますが、大きくなは無い状況です。
明らかな傾向としてあるのはソフトウエアに対する投資です。商船三井が100億円台、日本郵船が20億円台、川崎汽船は5億円台とそれぞれオーダーが異なり、ソフトウエアに対する捉え方の違いを感じます。確かに商船三井はシステム投資も積極的に行っているイメージはありますね。この辺りの投資は中長期的な生産性の差に現れてくるのではないかと思います。
国内主要3社のキャッシュフロー分析と比較
続いてはキャッシュフローの比較です。実際のキャッシュの使い方を見ていくことはとても重要で、ここにも各社の色が反映されてきます。
まず営業キャッシュフローの観点で見ると、コロナ禍の直近3~4年で大きくプラスとなっていますが、逆に言えば、2020年までの間は営業キャッシュフローの水準は直近と比べて相対的に低く、フリーキャッシュフローもマイナスの年が散見されるため、やはり非常に厳しい市況が続いていたんだなと、財布の状況からも伺えます。
続いて投資キャッシュフローは3社の色が反映されています。まず商船三井は緑色の投資活動によるキャッシュフローが毎年のようにマイナス側に触れており、投資意欲の旺盛な企業であることが分かります。直近もエネルギー事業の船団を巨額の投資をしながら拡大しており、積極的な支出をする傾向にあります。日本郵船は2016~2018年の間はフリーキャッシュフローがマイナスに触れているものの、それ以外の年はプラスであり、毎年の営業キャッシュフローの中から投資をするという一定の規律があるように見えます。最後に川崎汽船ですが2社と比較すると投資に積極的ではありません。なかなか営業キャッシュフローの観点でも投資余力を見出すのが難しい時期が続いてしまっていた、かつ、D/Eレシオのグラフでもあったように、デットでの調達が膨らんでしまっていたので、財務活動によるキャッシュフローに現れていますが、それらの返済にキャッシュを当てているように見えます。一方中長期的な競争力を作っていく上ではやはり投資は重要ですので、今後の投資傾向には注視したいです。
国内主要3社のCCC分析と比較
最後にキャッシュコンバージョンサイクルから資金効率を確認していきます。3社の10年間のCCCが以下のグラフに表現されています。
まず海運業において、運航に利用するための物品はあるものの、製造業の様な販売するための在庫をたくさんもっておく概念はありません。例えば運航するための燃料等も在庫の概念に入りますが、消費されるものであるため総じて棚卸資産回転期間は短くなります。(各社10日前後)
仕入債務も同様に運航するための物品仕入れに対する支払いのサイクルになりますが、よくあるのが翌月末払いで30~40日前後になるでしょうか。
売上債権回転期間は海運ならではの代理店を利用したビジネスモデルを紐解くと具体がつかめてきます。荷主と船会社が輸送契約を締結した後、運賃の収受はまず代理店が行い、荷物の引き渡し後、代理店と船会社間で生産するという流れになっている模様です。となれば、主要な事業の航路のリードタイムが売上債権回転期間を左右するという言い方もできるかもしれません。
引用:代理店を利用した貨物運送の流れ(例) EY新日本有限責任監査法人 海運業 第4回:海運業における取引フローと留意事項 https://www.ey.com/ja_jp/corporate-accounting/industries/automotive-transportation/industries-automotive-transportation-shipping-2020-07-30-04
3社ともにCCCが長期化しており、運転資金効率は悪化しています。日本郵船と川崎汽船は売上債権回転期間が長期化していることが要因となっており、商船三井は2018年と2019年を境として仕入れ債務回転期間が短くなってしまった(早く払ってしまっている)ことでそれぞれCCCが悪化しているようです。前者は例えば喜望峰周りの輸送の増加や船の遅延が増えることにより長期化することも想定されます。
日本主要3社のまとめ
ここまで日本の主要3社を財務面から比較してきました。最後に各社の特徴が表れている部分を以下の表にまとめます。
日本郵船 | 商船三井 | 川崎汽船 | |
売上・利益・セグメント | 事業ポートフォリオは多角化しているが、利益は海運業がメイン | 各海運事業セグメントで満遍なく利益を上げている | 売上高・利益共に製品物流が牽引 |
利益率・資本効率 | 事業を多角化しているものの、利益率・資本効率共に引けを取っていない | 利益率で2社に劣る。今後投資が花開くか | 強みを生かしているため、2社と比べ規模は劣るものの利益率は高い |
固定資産 | 資産規模は有形も無形も商船三井と同水準で資産効率も良い | 有形固定資産(船舶)への投資が盛んだが、足元の資産効率は低い | 資産効率は良いが投資が少ない。 |
キャッシュフロー | 営業キャッシュフロー内で投資をバランスしている | 投資を積極的に進める | ここまでは投資に消極的 |
財務分析はあくまでも過去の実績の評価であるため、今後について何か明確に指し示すものではありませんが、各社の色が分かりやすく比較できるため、今後に向けてもどのような意思決定をしていくかの傾向を掴む上では参考になります。
特に船会社はコロナ禍で各社キャッシュを蓄えることには成功し、株主還元以外にどの様な切り口で投資するかはここから大きく方向性が分かれることになるでしょう。読者の皆さんには是非3社の中期経営計画に目を通していただいたり、実際に何に投資をしたのかを実績として確認いただくと、今後の海運業界が見通せるのではないかと思います。
海外主要3社の概要
さて、日本だけではなく、海外の企業にも目を向けていきたいと思います。日本と海外の船会社に財務面での特徴の違いはあるのでしょうか?
A. P. Moller Maersk A/S
A.P.モラー・マースク(以下、マースク)は、デンマーク・コペンハーゲンに本社を置く総合物流企業で、世界130か国以上で事業を展開しています。1904年の設立以来、コンテナ海運業界で世界トップクラスの地位を築き、近年では物流サービスやターミナル運営など多角的な事業を展開しています。マースクは、顧客のサプライチェーン全体を統合的にサポートする「グローバル・インテグレーター」を目指し、海運、ロジスティクス、ターミナル運営などのサービスを提供しています。
COSCO SHIPPING Holdings Co., Ltd.
COSCO SHIPPING Holdingsは、中国遠洋海運集団(COSCO SHIPPING)の子会社で、世界有数のコンテナ輸送会社です。同社はコンテナ輸送とターミナル運営を主力事業とし、世界の主要港湾をカバーする広範なネットワークを構築しています。
Hapag-Lloyd AG
Hapag-Lloydは、ドイツを拠点とする大手コンテナ輸送企業で、世界的な航路網と250隻以上の船舶を運航しています。同社は輸送効率の向上と環境負荷の低減に注力し、業界での競争力を強化。主要航路における安定したサービス提供を通じて、2023年も持続的な成長を達成しました。