30 秒で見る金
金(Gold、化学記号 Au)は長期的にはジュエリーと投資が需要の中心、直近では中央銀行買い・ETF・地政学ヘッジ需要が価格を押し上げる貴金属です。主要生産国は中国(約 12%)・ロシア(約 10%)・オーストラリア(約 9%)。ジュエリー・中央銀行・地金 ETF・電子機器に需要が分散。2024 年は中央銀行買いと投資需要が価格上昇を支え、ジュエリーは高価格の影響で数量ベースでは弱含み。直近取得月(2026-05)の WB Pink Sheet 価格は 4,587 USD/トロイオンス(インフレ調整前の名目価格)です。重要鉱物指定対象外。産業サプライチェーン上の供給途絶リスクは相対的に低い一方、価格・金融市場・制裁・ESG / トレーサビリティリスクが中心。リチウム・黒鉛のように産業サプライチェーンを止める鉱物ではないが、中央銀行準備・制裁・ドル離れ・地政学リスクを映す「金融・地政学の鉱物」として、重要鉱物とは別の意味でサプライチェーン・インテリジェンス上の監視対象
- 化学記号: Au
- 主要用途: ジュエリー、投資(地金・ETF・コイン)、電子機器(半導体ボンディング)
- 鉱山生産国 TOP3: 中国(約 12%)・ロシア(約 10%)・オーストラリア(約 9%)
- 地理的集中度(TOP3 合計): 30%
- 日本の輸入依存度: 金は地金・スクラップ・加工品で輸出入があり、貿易統計上の見え方は品目により異なる。国内では菱刈鉱山やリサイクルによる供給もあり、リチウム・黒鉛のような全量輸入型の重要鉱物とは構造が異なる
- 重要鉱物指定: 米 Critical Minerals List: ✗ / EU CRMA: ✗ / 日本 経済安保: ✗(金融資産・準備資産として別扱い)
※ 本記事のデータソース: 価格は World Bank Pink Sheet 月次(DB 蓄積)、生産・埋蔵量は USGS Mineral Commodity Summaries 年次、用途・サプライチェーン構造は World Gold Council 2024 を基に編集部再分類(OTC 投資を含む/含まない、中央銀行買いを投資に含める/分けるなど、集計定義により比率は変動)、政策は各国一次ソース。詳細は §13 参照。
金のプロファイル
金(Gold、Au)は耐食性・展性・電気伝導性に優れる貴金属。古代から価値の保存手段・装飾品として使用、現代では中央銀行準備資産・投資商品・電子機器(半導体ボンディングワイヤー)に使用。
- 化学記号: Au(原子番号: 79(Au)、密度: 19.32 g/cm³)
- 主要用途分野: ジュエリー、投資(地金・ETF・コイン)、電子機器(半導体ボンディング)
- 物理化学的特徴: 化学的安定性(腐食しない)・展性(1g で 1m² の箔に可能)・電気伝導性・反射率
- 歴史的経緯: 紀元前 4000 年から使用、19 世紀ゴールドラッシュ(カリフォルニア・豪・南ア)で量産化、20 世紀の金本位制廃止後も中央銀行準備資産、21 世紀は地政学ヘッジ需要拡大
金の価格動向
金の WB Pink Sheet 月次価格は、観測期間(1960-01 〜 2026-05)で 35 → 4,587 USD/トロイオンス(インフレ調整前の名目価格)(+12906.0%)と推移しました。観測期間中の最高値は 5,020 USD/トロイオンス(インフレ調整前の名目価格)(2026-02)、最安値は 35 USD/トロイオンス(インフレ調整前の名目価格)(1970-01)です。主な価格変動要因は、米実質金利・ドル動向・地政学リスク(戦争・通貨不安)・中央銀行買い・インフレ期待です。長期の価格推移はインフレ調整前の名目価格ベースであることに注意。
グローバル生産・埋蔵量分布
金の主要生産国 TOP10 と埋蔵量 TOP10 を USGS Mineral Commodity Summaries(2026(2024 年実績・2025 年推計) 版)から整理します。生産集中度(簡易 HHI)は 約 400(中程度)、上位 3 国合計シェアは 30%です。鉱山生産は世界に分散(上位 5 国で 40% 程度)、精錬は中国・スイス・南ア・カナダ等に分散。鉱山生産に加え、リサイクル金が年間供給の約 3 割規模を占め、供給面で大きな役割を持つ。集中度の参考値(上位 10 カ国ベース HHI)は約 400 と低めだが、残余国も多国に分散していることを踏まえると実態は低〜中程度。
生産量 TOP10(2026(2024 年実績・2025 年推計))
| 順位 | 国 | シェア | 生産量 |
|---|---|---|---|
| 1 | 中国 | 11.5% | 377 トン |
| 2 | ロシア | 9.5% | 310 トン |
| 3 | オーストラリア | 8.7% | 284 トン |
| 4 | カナダ | 6.1% | 200 トン |
| 5 | アメリカ | 5.0% | 163 トン |
| 6 | ガーナ | 4.5% | 149 トン |
| 7 | メキシコ | 4.3% | 140 トン |
| 8 | カザフスタン | 4.0% | 130 トン |
| 9 | ウズベキスタン | 3.9% | 129 トン |
| 10 | ペルー | 3.3% | 108 トン |
埋蔵量(reserves)TOP10
| 順位 | 国 | 埋蔵量 |
|---|---|---|
| 1 | オーストラリア | 1.3 万トン |
| 2 | ロシア | 1.2 万トン |
| 3 | 南アフリカ | 5,000 トン |
| 4 | インドネシア | 3,600 トン |
| 5 | カナダ | 3,200 トン |
| 6 | 中国 | 3,200 トン |
| 7 | アメリカ | 3,000 トン |
| 8 | ブラジル | 2,500 トン |
| 9 | カザフスタン | 2,300 トン |
| 10 | ペルー | 2,200 トン |
※ USGS では、鉱物によって 埋蔵量(reserves)と資源量(resources)、また 鉱石量(gross weight)と金属含有量(contained metal)が分けて示されます。本記事の表は USGS 公表値の表記単位(reserves ベース)に準拠しています。国別比較は同一定義で確認してください。
需要動向・主要用途
金需要はジュエリー・中央銀行買い・地金/コイン・ETF・電子機器に分かれる。2024 年は中央銀行買いと投資需要が価格を支える一方、高価格でジュエリー数量は弱含み(※集計定義により比率は変動 — OTC 投資の扱い等)
| 用途 | シェア | 備考 |
|---|---|---|
| ジュエリー | 49% | 中国・インドが二大市場 |
| 中央銀行買い | 20% | 2022 以降急増(PBOC・トルコ・印・新興国) |
| 投資(地金・コイン) | 18% | 地政学・インフレヘッジ |
| ETF・投資商品 | 6% | — |
| 電子機器(半導体) | 5% | ボンディングワイヤー |
| 歯科 | 1% | 減少傾向 |
| その他産業 | 1% | — |
構造的拡大要因: 新興国中央銀行の脱ドル化(2022 露制裁以降)、地政学緊張、米財政不安・実質金利動向
景気循環要因: FRB 金融政策、ドル指数、インド結婚シーズン(ジュエリー需要)
サプライチェーン構造
金のサプライチェーンは鉱山採掘(世界分散)+ リサイクル(年間需要の 30% 以上)→ 精錬(中・瑞・南ア・加)→ 中央銀行・投資・装飾・産業の流れ
⛏ 1. 鉱山採掘
主要企業: Newmont(米、世界最大)、Barrick Gold(カナダ)、Agnico Eagle、Gold Fields(南アフリカ)、AngloGold Ashanti、住友金属鉱山(菱刈鉱山、日)
主要国・集中度: 世界分散 (TOP5 40%)
上位 5 社で世界の約 25%、世界 2000+ の中小鉱山が分散供給
🧪 2. 精錬
主要企業: Valcambi(瑞)、MKS PAMP(瑞)、Rand Refinery(南ア)、Royal Canadian Mint、MKS PAMP、田中貴金属(日)
主要国・集中度: 🇨🇭 + 🇨🇳 + 🇿🇦 分散
LBMA Good Delivery 認定精錬所が標準。スイスは世界最大級の金精錬ハブだが、精錬・流通は中国・南アフリカ・カナダ・日本など複数国にも分散
💰 3. 中央銀行・投資・装飾・産業
主要企業: 各国中央銀行(FRB・PBOC・RBI・トルコ等)、World Gold Council、ジュエリーブランド(Tiffany・Cartier 等)、半導体メーカー(金ボンディング)
主要国・集中度: 中央銀行・投資・装飾
中央銀行買いが 2022 年以降急増(特に PBOC・トルコ)、ETF 残高変動が短期価格動因
⚠️ 金のリスクの所在: 金のリスクは「供給途絶」より「金融・制裁・トレーサビリティ」です。金は鉱山生産が比較的分散し、リサイクル供給も大きいため、リチウムや黒鉛のような単純な供給途絶リスクは相対的に低い。一方で、ロシア産金・紛争金・マネーロンダリング・LBMA Good Delivery 認証・中央銀行買い・ETF フローが価格と流通に大きく影響する。なお、中国も世界 #1 鉱山生産国・消費国(ジュエリー・投資・中央銀行)として存在感は大きい
各国の重要鉱物政策
金は重要鉱物指定対象外、ただし中央銀行準備資産として金融政策上重要
| 国/地域 | 重要鉱物指定 | 主要施策 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 経済安保 16 物資未指定 | 日銀の金準備(約 846 トン、2021 年 3 月買い増し後の水準)、菱刈鉱山(住友金属鉱山)の国内生産維持 | 日本銀行 参照 |
| 🇺🇸 米国 | Critical Minerals List 対象外 | USGS Critical Minerals List 対象外(金は重要鉱物リストに含まれない)。一方で米国の金準備(約 8,133 トン、世界最大の国家準備)を保有し、うち Fort Knox に約 4,583 トン(残りは West Point・Denver 造幣局・NY 連銀等に分散)、ドル基軸通貨維持戦略の一環として位置付け | USGS / Federal Reserve 参照 |
| 🇪🇺 EU | CRMA 未指定 | ECB + 加盟国中央銀行の金準備(合計約 10,000 トン) | ECB 参照 |
| 🇨🇳 中国 | 戦略物資(脱ドル化) | PBOC 金準備積み増し(2022 以降月次公表で 2,000 トン超)、上海金取引所(SGE)で人民元建て金市場育成 | PBOC 参照 |
| 🇷🇺 ロシア | 戦略物資・準備資産 | 中央銀行金準備(2,300 トン超)、対露制裁で外貨準備代替 | Bank of Russia 参照 |
サプライチェーン リスク評価
金のサプライチェーン上のリスクを 5 軸で評価します。
| 軸 | レベル | 具体的事象 |
|---|---|---|
| 地理的集中 | 低 | 世界に分散、上位 5 国で 40%、リサイクル比率も高い |
| 地政学 | 低 | 供給リスクは低、需要側の地政学要因で価格変動 |
| ESG | 中 | アマゾン熱帯雨林違法採金(小規模採鉱・水銀汚染)、コンゴ紛争鉱物 |
| 代替可能性 | — | 投資・宝飾用途では他資産(プラチナ・ビットコイン・国債)が候補、産業用は代替可能 |
| 価格変動 | 中 | 金融変数(実質金利・ドル・地政学)で変動、長期的には上昇トレンド |
補完・代替鉱物
投資・装飾用途は代替候補多数(プラチナ・ビットコイン・国債・ジュエリー材料)、産業用途は限定的代替
| 用途 | 代替候補 | 代替可能性 | コスト・性能トレードオフ |
|---|---|---|---|
| 中央銀行準備資産 | 米国債・他通貨 | 中 | 脱ドル化トレンドで金優位、ただし金利収益なし |
| 投資商品 | ビットコイン・株式・REIT | 中 | ビットコインは高ボラ、金は安定性 |
| 半導体ボンディングワイヤー | 銅ワイヤー・銀ワイヤー | 中(実用化済) | コスト削減で銅・銀採用、ただし高信頼性は金 |
| ジュエリー | プラチナ・パラジウム・銀・サステナブル素材 | 中 | — |
日本企業への影響
日本の金サプライチェーンはリサイクル + 菱刈鉱山(住友金属鉱山)+ 海外輸入。電子機器・宝飾品需要は安定、中央銀行準備資産としても重要
- 菱刈鉱山: 住友金属鉱山運営、世界有数の高品位金鉱山(鉱石 1 トンあたり 30g 以上、世界平均の 10 倍)
- リサイクル: 廃電子機器・廃ジュエリーから年 300 トン規模を回収、世界トップクラス
- 電子機器需要: 半導体ボンディングワイヤー、田中貴金属・松田産業が主要プレイヤー
- 投資需要: 個人投資家の地金購入増、田中貴金属が個人向け流通リード
日本の輸入依存度: 金は地金・スクラップ・加工品で輸出入があり、貿易統計上の見え方は品目により異なる。需要の相当部分を輸入で賄う一方、国内鉱山(菱刈)とリサイクルで一定の自給があり、リチウム・黒鉛のような全量輸入型の重要鉱物とは構造が異なる
関与する主要日本企業: 住友金属鉱山(菱刈鉱山)、田中貴金属工業(精錬・電子)、三菱商事・三井物産(取引)
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よくある質問(FAQ)
Q. なぜ金は重要鉱物に指定されないのですか?
A. 金は供給が世界に分散し、リサイクル循環が確立(年間需要の 30% 以上)しているため、産業サプライチェーン上の供給途絶リスクは相対的に低めです。各国の重要鉱物リストは EV 電池・半導体等の戦略産業向け鉱物を優先指定するため、金は対象外となっています。ただし、価格・金融市場・制裁・ESG / トレーサビリティ等のリスクは存在し、中央銀行準備資産として金融政策上の重要性も高いため、「金融・地政学の鉱物」として別軸での監視対象です。
Q. なぜ 2022 年以降中央銀行買いが急増したのですか?
A. 2022 年の対露制裁でロシア中央銀行のドル建て準備が凍結され、各国(特に中国 PBOC・トルコ・印・サウジ・新興国)がドル準備の代替として金を積み増しました。「脱ドル化」「BRICS 新通貨構想」と並ぶ準備資産多様化の流れの一環で、WGC データで 2022-2024 年は年 1,000 トン超の中央銀行買いが継続しています。
Q. 菱刈鉱山とは?
A. 鹿児島県北部にある世界有数の高品位金鉱山。住友金属鉱山が運営し、鉱石 1 トンあたり 30g 以上の金を含有(世界平均 1-3g の 10 倍以上)。1985 年稼働、累計生産 250 トン超、現在も年 5-6 トン規模を生産。日本の国内金生産の大半を担っています。
Q. 金価格の主要変動要因は?
A. (1) 米実質金利(10Y TIPS、金は利息を生まないため実質金利低下で買われる)、(2) ドル指数(金とドルは逆相関)、(3) 地政学リスク(戦争・通貨不安)、(4) 中央銀行買い(PBOC 月次データ)、(5) ETF 残高変動。2022-2025 年は地政学 + 中央銀行買いで歴史的高値圏。
Q. 金は将来も価値を保存できますか?
A. 歴史的に見て金は 5000 年間価値を保ち続けています。ビットコイン等の新興デジタル資産との競合はあるものの、(1) 中央銀行準備資産としての公的需要、(2) 装飾需要(中国・インド)、(3) 産業需要(電子機器)、(4) リサイクル循環、と多重需要構造で安定性は高い。長期インフレヘッジ・地政学ヘッジ資産としての価値は維持される見込み。
データソースと注記
- 価格時系列: World Bank Pink Sheet 月次データ(1960-01 〜 2026-05)。シリーズキー:
WB_PINK_GOLD。SCI 内fred_indicators_cacheに蓄積 - 生産・埋蔵量: USGS Mineral Commodity Summaries(2026(2024 年実績・2025 年推計) 版、Public Domain)。本記事では国別生産量の整合性を保つため USGS MCS 2026(2024 年実績)を基準年として集計しています(2025 年は推計値が併記されています)。最新版が公表された場合、数値は順次更新します
- 用途別需要: World Gold Council 2024 を基に編集部再分類(OTC 投資を含む/含まない、中央銀行買いを投資に含める/分けるなど、集計定義により比率は変動) の最新統計。出典は本文中の図表注釈に明示
- 政策情報: 各国政府・規制当局の一次ソース。各国政策は頻繁に更新されるため、最新状況は出典先で確認
- 地理的集中度(HHI): 簡易版(シェアの 2 乗和、データなし国を除いた残余込み)。USGS の上位国シェアを基に計算した参考値
- サプライチェーン構造: 鉱山 → 精錬 → 加工 の各段階で集中度が異なるため、本記事は段階別に解説
- 本記事の役割: 調達担当者向けの俯瞰把握用。個別取引・契約判断には別途一次ソースとの照合を推奨
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