こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回は日本の品目別輸入金額成長率TOP10をご覧いただくことにより、
- 日本でバイオマス発電市場が急成長していること
- 実験に利用されるサルの価格が高騰していること
- 電池に関わるマテリアルの輸入が大変大きな金額になっていること
と言った、日本を取り巻く市場の変化を理解いただくことができます。早速内容を確認していきましょう!
貿易統計の見方
貿易統計を見る前に、基本的な貿易統計の見方をおさえておきましょう。
貿易統計は、「普通貿易統計」「特殊貿易統計」「船舶・航空機統計」の3種類がありますが、一般的によく見る情報で今回取り扱っているのは「普通貿易統計」です。
普通貿易統計は、我が国から輸出され又我が国に輸入された貨物について、金額及び数量を品目別、国(地域)別等に示した統計です。一般に「貿易統計」と言えば、この普通貿易統計をいいます。
引用:財務省貿易統計よくある質問
貿易統計の金額はどのような基準で計上されるのでしょうか。以下の様に説明されています。
輸出については、FOB価格(本船渡し価格)、輸入については、CIF価格(保険料・運賃込み価格)で計上されています(関税額等は含まれません。)。
引用:財務省貿易統計よくある質問
計上単位は1,000円で、1,000円未満の端数は切り捨てて集計しています。
ここに出てくるFOBやCIFという単語はインコタームズを呼ばれるものです。これは、貿易上の売主と買主の間でトラブルを生まないために、リスクの移転時点や運賃、保険を双方どこまで負担するのかの区分を定めたものです。ここでは、輸送に関わる諸費用も金額内に含まれているということだけおさえてください。詳しくはJETROのサイトに説明が記載されているのでご確認ください。また、金額単位は千円で整理されています。
外国通貨建ての貿易の場合、日本円にどのように換算しているでしょうか。
外国通貨建ての貿易の場合、税関長が公示する外国為替相場により、円に換算した金額を集計しています。
引用:財務省貿易統計よくある質問
なお、税関長が公示した外国為替相場は、こちらに掲載されています。
この記事では輸入金額の時系列変化を取り扱いますが、為替相場の影響を含んだ金額であることに留意しましょう。
なお、それぞれのHSコードに何が含まれているかの分類例規は税関のWebページに記載がありますので、ご関心がある方はご覧ください。
これらの注意点を理解した上で、いよいよランキングの詳細について紹介に移ります!
品目別輸入金額成長率TOP10
1位 HS14類 植物性の組物材料及び他の類に該当しない植物性生産品
- 2013年 輸入金額:95.7億円
- 2023年 輸入金額:777億円
- 輸入金額10年成長率:712%
14類が他を大きく引き離し、この10年間で圧倒的な伸びを果たしました。ただ、この項目名を見ても何が大きく輸入金額が増えているのかピンと来ません。この伸びを牽引しているのはHSコード140490200で「雁皮並びにナット(殼を含むものとし、粉砕してあるかないかを問わない。)及び種」に分類されるもので、バイオマス発電に利用されるパーム椰子殻(PKS:Palm Kernel Shell)を含みます。パーム椰子は上記の画像で、輸入されているのはその殻です。
※パーム椰子についてはENEOSバイオマスパワー室蘭合同会社のページに画像付きで紹介されているのでご覧ください。
自然エネルギー財団の調査によれば、バイオマス発電に利用される個体バイオエネルギー燃料の消費においてPKSが大幅に増加しており、これが輸入を牽引していることを示唆しています。バイオマス発電の今後の推移だけでなく、バイオマス燃料がどこから来ているのかについても、より注目して行くべきでしょう。
2位 HS75類 ニッケル及びその製品
- 2013年 輸入金額:2,378億円
- 2023年 輸入金額:6,040億円
- 輸入金額10年成長率:157%
続いて75類のニッケルです。10年前にも2,378億円あった輸入金額が6,040億円まで膨れ上がっています。ニッケルの用途は幅広く、ニッケル協会が以下の様に特徴を整理しています。
ニッケルを含んだ材料は日常生活で大きな役割を果たしており、たとえば調理器具、携帯電話、医療機器、輸送、建築物、発電など、例を挙げればほとんど限りがありません。ニッケル含有材料が選ばれるのは、他の材料に比べて耐食性が高く、耐久性に優れ、高温や低温での強度が高く、特殊な磁気電気特性を幅広く備えているからです。
ニッケル協会東京事務所 ニッケルの用途より引用
同サイトによれば、ニッケルの使用量は毎年約4%ずつ増加しているということで、今後も輸入量の拡大が見込まれます。
また、JOGMECによると、ニッケルの需要はおよそ70%と大半がステンレスに用いられています。また、ニッケルはリチウムイオンバッテリーにも用いられており、2018年のニッケル用途別需要では5%が電池となっていますが、2040年の予測ではステンレスが48%、電池が30%になると考えられており、電池の需要によるニッケルの消費が加速する見込みです。
3位 HS79類 亜鉛及びその製品
- 2013年 輸入金額:84.9億円
- 2023年 輸入金額:214億円
- 輸入金額10年成長率:153%
3位は亜鉛です。成長率はニッケルと同程度ですが、金額の桁が1〜2桁下がります。2013年の輸入金額84.9億円が10年で214億円となりました。
亜鉛は鉄に対する犠牲防食作用が強いという特性から、亜鉛メッキとして鉄鋼の防食に広く使われているのと、ニッケル同様に電池(亜鉛の場合は乾電池)にも利用されています。
亜鉛は鉄鋼需要とも密接に連動するのと同時に価格も大きく上昇しています。ニッケル同様に世界的に需要の高まるマテリアルは取引価格の推移にも注意が必要です。
4位 HS01類 動物(生きているものに限る。)
- 2013年 輸入金額:192億円
- 2023年 輸入金額:465億円
- 輸入金額10年成長率:143%
続いて4位は01類、動物(生きているものに限る。)です。生きた動物の輸入が増加していること、想像できた方どれくらいいらっしゃるでしょうか?この要因には大きな社会的背景がありました。
この01類において、最も輸入金額が大きく成長率が高いのが、HSコード010611000の霊長類です。その中で実験用のサル(カニクイザルやアカゲザル)が比重を占めると言われています。その実験用のサルの価格が高騰しているというのです。
新薬開発に欠かせない実験用のサルは、コロナ以後その需要が急激に増加したためか、日本における輸入でも2020年以後急激に輸入金額を押し上げる要因になっており、霊長類だけで10倍越えと、01類全体で見ても、増加の大半の要因を占める形になっています。
5位 HS97類 美術品、収集品及びこつとう
- 2013年 輸入金額:277億円
- 2023年 輸入金額:635億円
- 輸入金額10年成長率:129%
5位は97類の美術品、収集品およびこつとうです。こちらは、単純に日本の経済と社会の成熟と共に、輸入量が増えています。総額として牽引しているのはやはり「絵画」で、2013年の192億円から2023年は379億円まで伸長しています。
伸び率が大きかったのは、「銅版画、木版画、石版画」が輸入金額で言うと約5倍に成長しており、このジャンルの盛り上がりを感じる伸びになっています。また、「収集品及び標本」も約4倍の伸びを示しています。