ドナルド・J・トランプ大統領は、2025年7月7日大統領令に署名し、本来2025年7月9日に失効する予定だった一部の関税率を2025年8月1日まで延長すると決定しました。さらに大統領は、複数の国に対して新たな「相互関税率」を通知する書簡を送付しており、これらの関税は2025年8月1日に発効します。

トランプ政権が2025年4月に打ち出した「相互関税率」は、各国が米国に対して実質的にかけている関税・非関税障壁を正当化根拠とし、アメリカが逆に相手国への輸入品に追加関税を課す仕組みです。IDE研究所によれば、例えば日本が米国産品に46%の関税をかけているとして(米通商代表部の試算)、その半分の24%を日本からの輸入品に課す、という方式が紹介されています。米通商代表部(USTR)も、相互関税は二国間の貿易赤字を埋めるために理論的に必要な追加関税率であると説明し、実質的には「貿易赤字額÷輸入額」による公式に基づいて算出される仕組みだとしています。つまり、アメリカから見た貿易赤字が大きい国ほど高い関税をかけるという方式で、貿易不均衡の是正を名目とした「お返し関税」です。

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2025年7月7日発表の内容概要

2025年7月7日、米国大統領ドナルド・トランプ氏は複数国に対して新たな関税率を課す方針を発表しました。具体的には、対象国への輸入品に8月1日から以下のような追加関税率を適用するとしています(トランプ氏が各国首脳に送付した書簡より)。

  • 日本:25%(従来の自動車向け25%関税は据え置きで、累積して50%にはならない)。
  • 韓国:25%(大統領直轄の交渉対応を強化中)。
  • チュニジア、マレーシア、カザフスタン:25%。
  • 南アフリカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ:30%。
  • インドネシア:32%。
  • セルビア、バングラデシュ:35%。
  • カンボジア、タイ:36%。
  • ラオス、ミャンマー:40%。

加えてトランプ氏は「各国が関税を引き上げれば、米国も25%に上乗せする」と警告しています。7月7日の発表では、7月9日とされていた交渉期限を8月1日まで延期する大統領令も出され、交渉余地を残しつつ、期限切れ後には上記の関税を強硬に課す姿勢を示しました。

日本にとっての影響

Japan exports post first drop in 8 months
Japan exports post first drop in 8 months
引用:Reuters:https://www.reuters.com/business/japan-exports-post-first-drop-8-months-us-tariffs-hit-autos-2025-06-18/(2025-7-8参照)

この追加関税措置はこれまで実行猶予があった関税案が8月1日に実行に移されるため、特に自動車産業に大きな衝撃を与えます。日本の自動車や部品の対米輸出は莫大で、2024年の対米輸出21兆円の約28%を自動車部門が占めていました。実際、5月の日本の輸出は1.7%減となり、アメリカ向け輸出は前年同月比11.1%の大幅減(自動車が24.7%減、部品が19%減)となっています。グラフを見ると、2025年前半には米国向け輸出の前年比成長率が約−11%に落ち込んでおり、輸出企業が関税コストを吸収していることを示唆します。日本の輸出企業は、自動車メーカーを中心に現地販売価格を上げずにコストを吸収する方針で、短期的には自社利益を削って対応しています。

自動車以外では、産業機械や半導体関連機器、農産物なども影響が懸念されます。例えば、トランプ政権は過去に「日本はアメリカの自動車関税を撤廃せず、アメリカは日本の農産物市場を開放した」と主張しており、2019年には日米貿易協定で日本は米農産物の市場開放を大幅に拡大する譲歩をしていました。今回の措置により、日本側は車に偏った譲歩をした以上の「二重の負担」を迫られる可能性も指摘されています。農業や工業分野でも、米国向け輸出に追加関税がかかれば、価格競争力に打撃となるでしょう。

日米通商交渉と今回の関税修正の関連

日本政府は今回発表を受けて、再度交渉による関税撤廃を目指しています。6月の先進7か国首脳会議(G7)後にも米国との包括合意に至らず、今回の25%という関税率を受けて石破首相は「誠に遺憾だ」と述べました。

一方、過去の交渉では日本側が大きく譲歩してきた経緯があります。トランプ前政権下の2019年、報復関税の最終段階となる自動車関税を回避するため、日本はTPP相当の米国産農産物市場開放を約束しました。今回のように相互関税制度を再導入したトランプ氏が「自動車は50%に上げず25%で据え置く」と言及したのは、過去の譲歩を踏まえた“二重払い”の解消を示唆しています。

各国への修正内容と背景

今回の発表は日米以外にも広範囲に及んでおり、各国・地域に以下のような意味合いを持ちます:

  • 中国:7月7日発表では新たな関税率は示されませんでしたが、米中は5月に中国から米国への関税を30%、米国から中国への関税を10%に90日間限定で引き下げる暫定合意をしており、今後大枠の交渉が継続される見込みです。
  • 欧州連合(EU):発表によるとEU向けの追加関税措置の通知はまだ行われていません。ロイター報道では、フォンデアライエン欧州委員長とトランプ氏の電話会談後、EUは交渉期限までに軽微な通商合意の可能性を模索中で、「7月9日までに包括合意はあきらめるが譲歩は求める」姿勢とされています。米国がEUに対して正式に高関税を課すかは引き続き注視が必要です。
  • 韓国:7月7日の書簡で韓国にも25%の関税適用を通告しました。韓国政府はこれを「実質的に交渉期間の猶予延長」と捉え、交渉強化を表明しています。米韓自由貿易協定(KORUS)下で実効関税率はほぼゼロに近いとはいえ、今回の措置は経済界に大きな衝撃を与えました。
  • メキシコ・カナダ(USMCA加盟国):現時点で今回発表の対象には含まれていません。メキシコとカナダはすでに米国とUSMCA(新NAFTA)を結んでおり、4月から一時停止中の対米輸出への25%関税も、USMCA原産品には免除される措置がなされていました。ただし先行して4月には、メキシコからの移民対策として一時的な25%関税がかけられた経緯もあり、米政権はこちらを延長する可能性に言及しています。
  • その他:アルゼンチン、インドなどの大国グループ「BRICS」には「反米政策なら追加で10%上乗せ」と脅しをかけるなど、今回の措置は米国の貿易戦略における「交渉カード」「牽制球」の一つとも言えます。ミャンマーやラオスのような新興市場・発展途上国にも極めて高い関税率(40%)を課すことで、対米貿易黒字国に対する姿勢を鮮明にしています。

今後の日本の産業界・輸出企業・サプライチェーンへの影響

上記の関税引き上げは、日本の産業界やサプライチェーンに具体的なダメージを与えます。ロイター分析では、上記措置前に5月の輸出額が8カ月ぶりに減少した主因として、主要自動車メーカーが追加関税を吸収した点が挙げられています。例えば、群馬県高崎市協和産業の鈴木社長ら自動車部品メーカーは、トランプ関税の「サプラチェーンへの強い圧迫」を実感しており、医療機器への多角化も追加関税に見舞われました。

トヨタや日産はサプライヤーへの支援策を検討しており、トヨタは「供給網維持のために努力する」と声明、日産も「短期的には輸入価格据え置きで対応する」としています。しかし中小部品メーカーは従来通り米国市場に依存する構造を抱えており、長期化すればコスト転嫁圧力から企業統合や撤退の動きが加速すると見られています。実際、銀行など金融機関も「米国での販売減少が地域経済を直撃する」と懸念を示しています。

自動車以外の分野でも余波はあります。精密機械や電子部品産業では円高・中国競争も重なり、追加的なコスト上昇は経営を圧迫します。農業界でも、米国産小麦や牛肉・豚肉の市場開放を受け入れてきた経緯があるため、報復措置で日本産農産物への影響を恐れる声が出ています。政府は緊急経済対策に自動車産業支援などを盛り込み、関税コストを緩和する方針ですが、中小企業・地方経済への波及に警戒が必要です。

今回の関税修正の重要性と読み解き方

トランプ大統領の関税戦略は世界経済に大きな波紋を広げています。例えば、これまでの関税発動時には市場が大幅下落しており、アルジャジーラは4月の相互関税発表で世界の株式市場が2日間で6.6兆ドル失われる歴史的暴落に見舞われたと報じています。今回もロイターは主要株価指数の急落や円安・ウォン安を伝え、「関税発表で米市場が3週間ぶりの大幅下落(S&P500約0.8%安)」と伝えました。これらは、市場参加者が対外債権・利益への影響を非常に警戒している証拠です。

最近の国際経済ニュースと合わせて考えると、こうした関税措置は単なる対米貿易問題にとどまらず、世界のサプライチェーン再編や貿易ルールの揺らぎにもつながります。例えば、米中交渉では関税一部凍結で米中貿易のデカップリングを防ごうとしていますし(90日間の休戦合意)、欧州も新たなFTA模索やデジタル課税構想を進めています。日本企業は、今回の関税変更をきっかけにサプライチェーンを多角化したり、現地生産・現地調達を加速させる動きが必要です。同時に、経済新聞・専門家の分析によれば、今回の措置を「交渉カード」と見るか、「経済安保戦略の一環」と見るかで今後の対応が変わります。日本としては、最新の国際情勢を注視しつつ、米国側の求める「公平・均衡」の中身を冷静に検証し、外交交渉や企業戦略に反映させることが求められています。

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