1. グローバルな不安定要因と経済安全保障の重要性

2020年代後半の国際情勢は大きく揺れ動き、世界経済と各国の安全保障に深刻な影響を与えています。例えば、米国ではトランプ前大統領の再登場リスク(いわゆる「トランプリスク」)により関税政策の再開や保護主義的な動きが懸念されています。中東では情勢が緊迫化し、エネルギー供給への不安が高まっています。中国と台湾を巡る軍事的緊張(台湾有事の懸念)や、米中両大国の対立激化、さらにはロシアによるウクライナ侵略の長期化といった事態が重なり、国際社会は先の見えない不確実性に直面しています。こうした地政学リスクの高まりは、経済活動にもこれまでにないレベルのリスクと不確実性をもたらしています。

日本にとっての影響も例外ではありません。エネルギーや食料、半導体など多くの分野で海外供給に頼る日本は、国際情勢の変化に大きく左右されます。2018年以降の米中間の関税応酬(貿易戦争)は世界のサプライチェーンを混乱させ、自由貿易体制の先行きに不安を生じさせました。また、2022年に始まったウクライナ戦争はエネルギー価格や穀物価格の急騰を招き、日本でも物価高や供給不安を引き起こしました。台湾海峡やホルムズ海峡など、日本のシーレーン(海上交通路)周辺で有事が起きれば、必要物資の輸送が滞り日本経済に深刻な打撃となりかねません。まさに「経済」と「安全保障」は切り離せない関係となっており、この文脈で注目されるのが「経済安全保障」という考え方です。

引用:日本の海上輸送ルート 日本海事広報協会 Shipping now 2024 https://www.jsanet.or.jp/data/pdf/allpage2024.pdf (2025/5/25参照)

以下では、経済安全保障の定義と重要性、日本が直面する具体的リスク(半導体やレアアースなどの供給網、食料供給の脆弱性)、そして政府や企業が講じている対策について、高校生にもわかるやさしい言葉で解説していきます。また、最新のニュースや事例も交え、現実に起きている経済安保上の課題を紹介します。

2. 経済安全保障とは?定義とその背景

経済安全保障とは一言でいうと、「国家の安全と繁栄を経済面から確保すること」です。つまり、外交や軍事といった伝統的な安全保障だけでなく、経済分野の政策を通じて自国の独立・生存・繁栄を守る考え方です。具体的には、エネルギー・食料・重要技術など、国民生活や国の産業に不可欠なものを安定して手に入れられるようにし、他国から経済的な弱みにつけ込まれない状態を目指します。

この概念が注目されるようになった背景には、近年の国際環境の変化があります。グローバル化が進んだことで各国経済は相互に深く依存するようになりましたが、その一方で経済的な結びつきが政治的な圧力手段として利用される例も出てきました。例えば2010年、沖縄県尖閣諸島付近で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件を受けて、中国が日本向けのレアアース(希土類)輸出を制限したことがあります。この出来事は、日本がある特定国に重要資源を依存しすぎる危険性を強く示しました。また、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大(パンデミック)は、医療物資や半導体不足を通じてグローバル供給網の脆弱さを浮き彫りにしました。ロシアのウクライナ侵略では、エネルギーや穀物の供給途絶・価格高騰が世界各国に波及し、「経済的な安定なくして国民の安全は守れない」という認識が広がりました。

こうした問題意識から、日本でも経済安全保障を政策の柱に据える動きが強まっています。2020年末には自由民主党が「経済安全保障戦略策定に向けて」という提言をまとめ、経済安全保障を「我が国の独立と生存及び繁栄を経済面から確保すること」と定義しました。そのうえで、二つの基本原則を示しています。一つは「戦略的自律性」の確保で、重要な物資や技術の供給において他国への過度な依存を減らすことです。もう一つは「戦略的不可欠性」の維持・強化で、国際社会にとって日本が欠かせない存在となる分野を育成し、自国の地位を高めることです。これらにより、経済面から日本の国家存立基盤を強固にしようという狙いです。

実際、岸田文雄政権は2021年に経済安全保障を担当する閣僚ポストを新設し、経済安全保障を政府の重要戦略に位置付けました。2022年5月には世界に先駆けて「経済安全保障推進法」という包括的な法律も成立しています。経済安全保障は今や日本の国家安全保障戦略の中核の一つであり、平和と繁栄を維持するために欠かせない視点となっているのです。

3. 半導体・レアアースなど供給網のリスクと対応策

引用:特定重要物資の安定供給確保の取り組みについて 内閣府 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/supply_chain/supply_chain.html (2025/5/25参照)

国際情勢が不安定化する中、サプライチェーン(供給網)の強靱化は経済安全保障の最重要課題の一つです。特に、ハイテク製品に不可欠な半導体(半導体チップ)や、先端技術・産業機械に必要なレアアース(希土類)やレアメタル(希少金属)といった重要鉱物資源は、日本経済の命綱と言えます。これらの供給が途絶すると産業や国民生活に重大な支障をきたすため、政府・企業ともリスク低減と安定確保に向けた対応を強化しています。

半導体不足と産業復活への取り組み

半導体はスマートフォンから自動車、家電、産業用ロボットに至るまであらゆる電子機器の「頭脳」ともいえる部品です。しかし、日本はその供給面で大きな課題を抱えてきました。かつて1980年代には世界トップだった日本の半導体産業は、現在では世界シェア約1割に低下し、最先端のロジック半導体(演算用の高性能チップ)を自国で製造できない状況に陥っていました。一方、世界の半導体生産は台湾や韓国、米国に集中しています。台湾はとりわけ重要で、世界トップ企業TSMCが最先端チップの大量生産を担っており、グローバルシェアの相当部分を占めています。もし台湾有事などでこの供給が止まれば、日本のみならず世界中で自動車や電子機器の生産がストップする可能性があります。

このリスクに対応するため、日本政府は国内における半導体生産基盤の再構築に乗り出しました。2021年以降、政府は「半導体・デジタル産業戦略」を策定し、半導体を国家事業として位置づけました。具体的な施策として、台湾TSMC社をはじめ海外の有力メーカーに日本での工場建設を促し、巨額の補助金で誘致しています。例えばTSMCはソニーと共同で熊本県に工場を新設し、2024年の稼働開始を目指しています。政府はこの工場に約4,760億円、さらに追加の第2工場には7,320億円もの補助金を投入する計画で、総額1兆円を超える支援となります。TSMC誘致の背景には、台湾海峡の緊張が高まる中で「有事の際に台湾から半導体が入らなくなる事態への備え」という思惑もあると指摘されています。台湾企業を国内に呼び込むことで、中国に依存しない半導体供給網を構築するとともに、万一の際の保険をかける狙いです。

さらに日本企業自身の半導体技術力を取り戻すべく、官民共同の新会社「Rapidus(ラピダス)」も2022年に発足しました。ラピダスはトヨタやNTTなど国内大手企業の出資で設立され、米IBMの協力を得て2ナノメートル世代の超最先端半導体を2027年までに量産する計画です。政府はラピダスにも9,200億円規模の支援を決め、国内に先端半導体の開発・製造拠点を築こうとしています。

他方、安全保障上の観点から先端半導体技術が中国などに流出しないよう、輸出管理の強化も進めています。日本は2023年7月より、最先端の半導体製造装置23品目を輸出管理リストに追加しました。これは事実上、中国向けの先端半導体製造装置の輸出を規制する措置であり、米国が2022年に始めた対中半導体規制に足並みを揃えたものです。具体的には、日本が強みを持つ露光装置など高度な製造設備について、政府許可なしには輸出できなくしています。先端技術が軍事転用され日本の安全保障を脅かすのを防ぐ狙いですが、中国はこれに反発し、対抗措置として半導体材料であるガリウム(Ga)やゲルマニウム(Ge)の輸出規制を打ち出すなど、米中間で“ハイテク冷戦”ともいえる様相です。日本企業への直接の影響は現時点では限定的とされますが、将来的に規制合戦がエスカレートすれば日本経済も打撃を受ける恐れがあり、慎重な舵取りが求められています。

このように、日本は半導体の「守り」(輸出規制・技術流出防止)と「攻め」(国内生産拡大・技術開発)の両面から、経済安全保障上の半導体リスクに対応しています。安定供給の確保と国際競争力の回復を図ることで、デジタル社会の基盤を自前で支えられるようにする取り組みが進んでいるのです。

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レアアース・重要鉱物への依存と脱却策

電子部品や電気自動車のモーター、風力発電のタービン、航空宇宙産業など、先端技術を支える様々な分野で必要不可欠なのがレアアース(希土類)やレアメタルと呼ばれる希少な金属元素です。例えば、ネオジムやジスプロシウムといったレアアースは高性能磁石の材料となり、ガリウムやリチウム、ニッケル、コバルトといった元素は半導体や蓄電池に使われます。しかし、これらの鉱物資源の生産や精製は特定の国に偏在しており、日本のように資源に乏しい国にとって大きな懸念材料となっています。

特に中国はレアアース分野で圧倒的な地位を占めています。世界のレアアース産出量の約70%弱は中国に依存し、精錬・加工分野でも中国企業が世界市場を牛耳っています。また、ガリウムは世界シェアの約98%を中国が産出しているとのデータもあります。このような状況下、中国は近年、自国の安全保障を理由に希少資源の輸出管理を強化し始めました。先述のとおり、2010年には日本向けのレアアース輸出を事実上止めたことがあり、さらに2023年には「ガリウム」「ゲルマニウム」などの戦略物資を輸出する際に政府許可を要する制度を導入しました。そして2024年には「レアアース管理条例」という包括的な規制を定め、レアアースの採掘から輸出までサプライチェーン全体を統制する動きを見せています。中国政府はこれらを「環境保護や安全保障上の措置」と説明しますが、実際には米国や日本による半導体規制への対抗措置としての性格が強く、資源を外交カードとして使う姿勢が明確になっています。

このような中国依存のリスクに対し、日本は以下のような多角的な対策を講じています。

  • 備蓄の拡充: 日本政府は希少資源の一時的な供給途絶に備え、国家備蓄を進めています。レアメタル34鉱種について、平時の国内消費量の60日分(一部は30日)を目標に官民協力で備蓄しています。備蓄制度自体は1980年代からありますが、近年の情勢を踏まえ見直しが行われています。リスクが高い鉱種はより長期間分を備蓄し、比較的安定しているものは目標日数を減らすなど柔軟に対応する方針です。非常時に備蓄を放出できる体制を整えることで、急場の「命綱」を確保しています。
  • 調達先の多元化: 中国一国への依存を減らすため、オーストラリアやアメリカ、東南アジアなど他の資源国との協力を強化しています。例えば、日本企業はオーストラリアのレアアース大手ライナス社との提携を進め、豪州産レアアースの安定調達を図っています。また、ベトナムやカザフスタンなど有望な鉱山開発地への投資や技術支援も行っています。米国とも鉱物資源のサプライチェーン強化で協議しており、日米で戦略備蓄を共有する構想も議論されています。こうした「フレンド・ショアリング」(友好国との連携)でリスク分散を進めています。
  • 代替素材の研究開発: 「無い物は作る」との発想で、希少元素に頼らない材料開発も推進しています。日本の文部科学省は「元素戦略プロジェクト」を立ち上げ、レアメタルを使わずに代替できる新素材の研究を支援しています。成果の一例が、酸化物半導体IGZO(イグゾー)からガリウムを減らしスズで代用したITZOという新材料です。IGZOはシャープがディスプレイに実用化した技術ですが、その発明者である細野秀雄氏らが中心となって開発したITZOは、ガリウム使用量を抑えつつ高い性能を維持できると期待されています。このように材料革命によって中国の独占資源への依存度を下げる取り組みが着実に進んでいます。
  • リサイクル(都市鉱山の活用): 使用済み電子機器や家電からレアメタルを回収するリサイクルも重要な対策です。私たちの身の回りの廃棄スマートフォンやパソコンの中には、実は大量の金属資源が眠っています。特に基板や電子部品にはガリウムやレアアースが含まれており、これらを都市鉱山として再利用する技術開発が進んでいます。効率よくレアメタルを分離・精製するリサイクル技術が確立されれば、資源の国内循環率を高めることができ、短期的な供給不安の解消に効果があります。
  • 国内資源・海洋資源の開発: 日本は陸上の資源は乏しいものの、排他的経済水域(EEZ)が世界第6位の広さを誇る海洋国家です。海底にはマンガン塊やコバルトリッチクラスト、海底熱水鉱床など、レアアースやレアメタルを含む資源が眠っていることが確認されています。例えば、小笠原諸島東方の海域では、高濃度のレアアースを含む泥(レアアース泥)が発見され、将来的に数百年分の需要を満たせる可能性があるとも報じられました。政府は海洋資源開発の研究に投資し、将来的に採掘・採取技術が実用化すれば、「海の底から資源を得る」道も拓けるかもしれません。これは長期的な取り組みですが、日本を資源供給国に変えうる潜在力として注目されています。

以上のように、日本はレアアース・レアメタルの確保について備蓄・調達先拡大・技術革新・リサイクル・国内開発という多層的な戦略で挑んでいます。一朝一夕に解決する問題ではありませんが、こうした努力を積み重ねることで、将来的に特定国への過度な依存から脱却し、産業の安定稼働に必要な資源を自らの手で握ることを目指しています。

4. 食料供給の脆弱性と対策

私たちの生活に欠かせない食料もまた、経済安全保障上の極めて重要な要素です。日本は先進国の中でも異例なほど食料の海外依存度が高く、食料自給率(カロリーベース)は近年38%前後と低迷しています。つまり、日本人が摂取するカロリーの約6割以上を輸入に頼っている計算です。この状態が続くと、もし海外から食料が届かなくなった場合に国民を養えない恐れがあるため、食料安全保障の脆弱性が指摘されています。

日本の食料自給率の現状と課題

戦後の日本は高度経済成長を背景に食生活が多様化し、安価な輸入農産物に頼る構造が定着しました。穀物では主食のコメ以外はほとんど輸入に依存しています。例えばパンや麺の原料となる小麦は約90%をアメリカ・カナダ・オーストラリアなどからの輸入で賄い、畜産飼料となるトウモロコシ大豆もほぼ海外依存です。また、国内で生産される牛肉・豚肉・鶏肉といった畜産物も、その飼料(エサの穀物や大豆かす)の約9割を輸入に頼っており、言わば「間接的な食料輸入」の状態にあります。さらに、農業生産に不可欠な化学肥料の原料や燃料(農機具の燃油)も輸入が大半で、川上から川下まで外国無しでは成り立たない構造です。

このような低い食料自給率は平時には安価な食料を豊富に得られるメリットがありますが、ひとたび国際市場でトラブルが起きると脆弱さが露呈します。実際、近年いくつかの事例が日本の食料安保に警鐘を鳴らしました。

  • ウクライナ危機による穀物価格高騰: ロシアとウクライナは世界有数の小麦やトウモロコシの輸出地域です。2022年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始すると、両国からの輸出が途絶し世界の穀物価格が急騰しました。国連食糧農業機関(FAO)の穀物価格指数は戦争直後の2022年5月に過去最高を記録し、特に小麦・トウモロコシ・大豆の国際価格は2020年4月から2022年4月の2年間で約2倍にも跳ね上がりました。これにより中東やアフリカの輸入国では深刻な食料危機が発生しましたが、日本でも小麦の調達コストが上がり、パンや麺類、食用油などの値上げにつながりました。幸い日本は直接ウクライナ産の穀物輸入は多くありませんでしたが、それでも「世界的な食料不足=日本の食卓への影響」を実感させられた出来事でした。加えて、ロシア産の窒素肥料やカリ肥料が入手しづらくなり、肥料価格も高騰して農家の経営を直撃しました。ある肉牛農家は「エサ代の高騰はBSE(牛海綿状脳症)騒ぎ以上の危機だ」と語るほどで、飼料価格の上昇が国産畜産にも深刻な影響を与えています。
  • 新型コロナによる物流停滞: 2020年からのコロナ禍では、一時的に国際物流が停滞し、海外依存の強い食品原料の調達に不安が生じました。幸い大きな供給寸断には至りませんでしたが、一部ではベトナム産の加工食品原料が届かず外食産業に影響が出るなど、サプライチェーン途絶リスクを意識させる場面がありました。また各国がロックダウン下で自国優先の輸出規制を発動するケースも見られ、平時の国際分業が非常時には当てにできなくなる可能性を示唆しました。
  • 気候変動による不作: 地球規模の気候変動も日本の食料供給に影を落としています。例えば日本では1993年に冷夏によるコメの大不作(いわゆる「平成の米騒動」)が起き、大量のタイ米を緊急輸入してしのいだ歴史があります。近年も異常気象で国内野菜の収穫が落ち込み、玉ねぎなどが品薄高騰になる事例が散発しています。将来、世界的な気候変動が深刻化すれば、輸入元の国々でも農業生産が不安定化し、日本への輸出余力が減るリスクがあります。

以上のように、「食べ物を安定して確保する」ことは国家の土台でありながら、現在の日本はその多くを海外に頼っているのが実情です。これを放置すれば有事の際に国民の食を守れない可能性があるため、政府は食料安全保障の強化に本腰を入れ始めました。

日本の食料安全保障強化策

日本政府は2022年、「食料・農業・農村基本法(食基本法)」を改正し、食料安全保障の確保を国の責務として明確化しました。これにより、「国民が安定して食料を入手できるようにする」ことが農政の柱に位置付けられました。具体的な対策や目標として、以下のような取り組みが進められています。

  • 食料自給率向上に向けた生産基盤強化: 農業従事者の高齢化や農地面積の減少に歯止めをかけ、国内生産を増やす努力が求められています。政府は2030年度までにカロリーベース自給率を45%に引き上げる目標を掲げ、米の需要拡大や麦・大豆の生産振興、飼料の国内調達拡大などに取り組んでいます。特に、減反政策の見直しによるコメ作付けの回復や、休耕地の有効活用、スマート農業技術の導入による生産性向上などで国内の農業生産力を底上げしようとしています。また、肥料や飼料の国産化・代替策(例えば有機肥料利用や飼料米の活用)も推進し、海外原料に頼らない持続的農業への転換を図っています。
  • 農家支援と担い手育成: 国産農産物の生産拡大には農業を担う人材の確保が欠かせません。政府や自治体は新規就農者への支援金、農業法人への補助、スマート農業機械の導入支援など、農業の魅力向上と効率化に投資しています。食料安保は単に量の問題だけでなく「作り手を将来にわたって確保できるか」という問題でもあり、農村の活性化策や若者の就農促進策が重要となっています。各地で大規模農業法人や6次産業(生産・加工・販売を一貫する取り組み)が育つよう支援することで、強い農業者づくりを目指しています。
  • 輸入先の多様化と備蓄: 完全な自給自足は現実的でないため、輸入に頼る部分については調達先の多角化と備蓄でリスク緩和を図ります。穀物について、これまで主要穀物は米国など特定国からの輸入に偏りがちでしたが、複数国から調達してリスクを分散する戦略が取られています。また政府は民間商社を通じて一定量の国家備蓄米小麦備蓄を行っており、緊急時には市場放出して国内需給を安定させる体制です。実際、コメ価格高騰時には備蓄米の放出が行われた例があります。加えて、食料だけでなく肥料についても2022年から緊急支援策として在庫確保や価格補填が実施されました。「必要なものは貯めておく」という備蓄戦略は、エネルギーと並び食料でも重要になっています。
  • 海外での農業生産への参画: 日本企業が海外に農場を持ち、生産した作物を日本に逆輸入する動きもあります。例えば商社や食品メーカーが東南アジアや南米で大豆・トウモロコシの栽培事業に投資するケースです。これにより、自社グループで安定的に穀物を確保しつつ、現地の農業発展にも寄与するというウィンウィンを狙います。政府もこうした海外農業投資を間接的に支援し、日本向け食料源を世界に確保する取り組みを後押ししています。

このように、日本は「作れるものは増やし、買うものは分散し、備えるものは備蓄する」という多面的なアプローチで食料安全保障を強化しようとしています。とはいえ、国内農業の再生は時間がかかる難題であり、消費者側の理解や食文化の見直しも必要になるでしょう。私たち一人ひとりも、国産品を選ぶことや食品ロス削減などを通じて、日本の食料安保に貢献することができます。

5. 外交・安全保障と経済の交錯:台湾有事などの影響

地政学的な緊張が高まるとき、その波は経済にも押し寄せます。ここでは外交・軍事上のリスクと経済の関係について、特に日本への影響が懸念される台湾有事を例に考えてみましょう。また、中東の情勢悪化など他地域のリスクも含め、経済活動への波及を見ていきます。

台湾有事がもたらすかもしれない経済的影響

台湾は日本にとって地理的にも経済的にも極めて重要な存在です。地理的には、台湾周辺の海域は日本と東南アジア・中東を結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝にあたります。例えば、日本に輸入される石油の多くは中東からインド洋を経てマラッカ海峡を通り、南シナ海から台湾南方のバシー海峡を抜けて西太平洋を北上し日本に届きます。台湾近辺で軍事衝突が起これば、このルートの安全な航行が妨げられ、日本向けタンカーや商船は大回りを強いられたり、最悪通行が遮断される恐れがあります。そうなると、エネルギーや原材料の調達が極めて困難になり、日本経済は深刻なダメージを受けるでしょう。

実際、台湾有事シナリオでは「日本へのエネルギー供給が途絶する」ことが最大のリスクの一つとされています。日本の原油輸入の約95%は中東産であり、LNG(液化天然ガス)も約3割を中東から得ています。台湾有事で中国軍が台湾周辺の制海権・制空権を握れば、日本と中東を結ぶシーレーンが脅かされ、エネルギーの輸送が滞る可能性があります。日本政府はこのシナリオを強く意識しており、エネルギーの安定確保のために備蓄や他ルートの検討、自衛隊・日米同盟によるシーレーン防衛など総合的な対策を検討しています。

また、台湾有事は半導体供給にも直結します。前章で述べたように、台湾は世界の先端半導体生産の中心です。TSMCなど台湾の工場が戦禍で稼働停止すれば、日本の製造業は必要なチップを調達できず、生産ラインが止まる恐れがあります。自動車からスマホまで広範な産業が影響を受け、日本のGDPにもマイナスの衝撃が及ぶと試算されています。さらに、日本企業は台湾に現地拠点を持つケースも多く、数万人規模の駐在員や現地従業員が安全を脅かされるリスクもあります。

企業レベルでは既に台湾リスクへの備えを進める動きがあります。ある調査によれば、海外事業を展開する日本企業の7割超が台湾有事リスクを重要な懸念事項と認識しており、そのうち約3割は有事のシナリオ分析や事業への影響評価を行っているといいます。具体策としては、サプライチェーン上の「ボトルネック(単一障害点)」を洗い出して代替調達先を確保したり、在台湾社員の安全確保計画を用意したりといったものです。平時からこうしたリスク管理を行い、万一に備えることが企業の生存戦略として求められています。

その他の地政学リスク:中東情勢とトランプリスク

台湾以外にも、日本経済に影響を及ぼしうる地政学リスクは存在します。中東地域の不安定化もその一つです。例えば2023年10月に発生したイスラエルとイスラム組織ハマスとの紛争は、中東全体の緊張を高めました。直接的にホルムズ海峡など主要な原油ルートが閉ざされたわけではありませんが、この地域の紛争は常に原油価格の急騰や供給不安につながります。実際、日本政府は同紛争に対し慎重な外交姿勢をとり、中東産油国との友好関係維持に努めました。1973年の第四次中東戦争時にOPECの石油禁輸で日本が大混乱に陥った教訓(オイルショック)から学び、エネルギー外交は経済安全保障の要となっています。日本は現在、国家備蓄として約200日分以上の石油を備えていますし、中東以外(米国やオーストラリアなど)からのLNG調達も増やすなどリスク分散も図っています。しかし中東依存度そのものが高い現状では、根本的解決には再生可能エネルギーや原子力の活用拡大による脱炭化・脱石油依存が中長期的課題となります。

さらに、「トランプリスク」と呼ばれる米国政治の変動も日本にとって注意が必要です。前トランプ大統領は在任中、同盟国日本に対しても貿易不均衡を理由に自動車関税をちらつかせるなど圧力をかけました。また彼の政権下で米国はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱し、WTO体制にも否定的でした。仮に将来米国が再び保護主義に傾けば、日本の輸出産業は関税引き上げや輸出規制の直撃を受ける可能性がありますし、自由貿易体制が揺らげば原材料や部品の調達コスト増にもつながります。日本は米国との同盟関係を基軸としつつも、経済面では多国間のルール形成に積極関与し、一国主義的な圧力に備える必要があります。例えば、日本が米国離脱後のTPPを主導してCPTPPとして復活させたのは、ある意味で経済安全保障上の戦略でした。大国の思惑に振り回されないよう、地域の安定とルールに日本が影響力を持つ努力が重要です。

このように、現代の国際対立や安全保障上のリスクは、エネルギー供給、貿易、金融、市場信頼性など幅広い経済領域に波及します。「有事に強い経済」を作ることが、日本の平和と繁栄を守る前提条件となっており、政府も企業もシナリオを想定した備えを進めているのです。

6. 日本政府・企業の経済安保への具体的な対応

上記までで見てきたような課題に対処するため、日本政府と企業は様々な経済安全保障上の取り組みを行っています。この章では、近年整備された経済安保法制や政策、そして企業の動きについて具体例を紹介します。

経済安全保障推進法と政府の戦略

日本政府は2022年5月に「経済安全保障推進法」を成立させ、経済安保分野の包括的な法制度を整えました。この法律は主に次の4つの柱(新制度)から成ります。

  1. 特定重要物資の安定供給確保: 国民生活や経済に不可欠だが海外依存度が高い物資を「特定重要物資」に指定し、その安定供給のために企業の計画作成を促し、政府が支援・介入できる仕組みです。例えば半導体、医薬品、レアアース、蓄電池など11品目程度が想定されており、これらについて在庫確保や生産拠点多元化への補助などが講じられます。
  2. 基幹インフラの安全確保: 電気・ガス・水道、通信、金融、交通などの基幹インフラ事業者に対し、サイバー攻撃や不測の事態でもサービスを安定提供できるよう安全措置を義務付けます。重要インフラに外国製のリスクの高い機器を導入する場合、事前審査を行い、安全保障上問題があれば是正勧告できるようにします。これにより電力網や通信網へのスパイウェア埋め込み等を防ぎ、社会の土台を守ります。
  3. 先端的な重要技術の研究開発支援: AI、量子技術、バイオテクノロジーなど将来の国家競争力を左右する先端技術について、官民協力で研究開発を推進します。具体的には数千億円規模の基金を用意し、複数企業や大学が連携するプロジェクトに資金提供します。安全保障上重要な技術(例えば次世代通信や宇宙・海洋技術)で日本が優位を保てるよう、政府が積極的に産業政策を展開するものです。
  4. 重要特許の非公開制度: 安全保障に関わる発明については、特許公開を差し止め非公開とできる制度を新設します。これまでは特許出願すると原則として内容が公開されましたが、軍事転用可能な技術が公開されてしまう恐れがありました。今後は政府が特定の特許を秘密指定し、敵対国に技術情報が漏れないようにします。

これら4制度を軸に、日本は経済面からの総合的な安全保障体制を構築しようとしています。また、2022年12月に改定した国家安全保障戦略や防衛計画大綱など「安保三文書」にも、経済安全保障の重要性が盛り込まれました。経済安保担当大臣のポストも引き続き設置され、内閣府や経済産業省を中心に政策推進が図られています。政府内には「経済安全保障法制に関する有識者会議」も設けられ、官民で継続的に政策検討を行っています。

さらに外交面では、日米同盟の経済版ともいえる枠組みが整備されました。日米両政府は2022年に経済版2+2(閣僚級協議)を開始し、サプライチェーン強靭化や先端技術保護で協力することで一致しました。加えて、Quad(日米豪印の協力枠組み)でも半導体や医薬品の供給網強化が議論されています。また、米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組み)にも日本は参加し、ここでもサプライチェーンの危機管理メカニズム構築に関与しています。欧州との間でも日EUデジタルパートナーシップなど経済安保色の強い連携が進み、「同志国・地域との連携」が重視されています。

政策の裏付けとなる予算も大幅に増やされています。経済産業省は経済安保関連予算として、先端半導体やAI開発、経済インテリジェンス強化などに数千億円を計上しました。例えば、経済安保基金(官民技術協力支援)に5,000億円規模、半導体支援に約1.3兆円、重要鉱物備蓄の拡充に数百億円といった具体です。また、経済安保を担う人材育成も課題であり、情報収集・分析を行う専門組織の強化や、官民の人材交流による知見共有も模索されています。

企業の対応:リスク管理と戦略転換

企業サイドでも、経済安全保障上のリスクに対応する動きが広がっています。グローバルに事業を展開する企業は、国際情勢の変化による調達・販売網への影響を常にモニターし、必要に応じて戦略を修正しています。

  • サプライチェーン再構築: 製造業を中心に、調達先や生産拠点の見直しが進んでいます。中国に一極集中していた工場を東南アジアやインドなどに分散させたり、重要部品について複数サプライヤーから調達する体制を整えたりしています。例えば一部の自動車メーカーは、ワイヤーハーネス(配線部品)の調達先をウクライナからモロッコに振り替えるなど、地域紛争リスクに応じた迅速な対応を行いました。また、在庫を極力減らす「ジャストインタイム」方式を見直し、ある程度の在庫を持つことで供給途絶に耐える工夫もなされています。経済合理性とリスク耐性のバランスを取り直す動きです。
  • エネルギー・資源調達の安定化: 素材産業や化学産業では、LNGや鉱石の長期契約確保に努めています。商社は世界各地の鉱山権益を取得し、日本向け資源供給源を確保する戦略を強化しています。電力会社は中東以外からの燃料調達を模索し、石炭火力から再エネへの転換も投資しています。企業もまた「エネルギー安全保障」の担い手として行動を迫られています。
  • 技術管理とサイバーセキュリティ: ハイテク企業や大学研究機関では、機微技術の流出防止に取り組んでいます。社内の情報管理体制を強化し、不審な技術提供や共同研究の申し出に慎重になっています。またサイバー攻撃による知財流出も大きな脅威であり、多くの企業が専門部署を設けて防御に努めています。通信・金融などインフラ企業は、政府の基幹インフラ安全指針に沿ってサイバー対策を強めています。
  • シナリオプランニング: 前述の通り、多くのグローバル企業は台湾有事や朝鮮半島危機など複数のシナリオを想定し、その際の対応計画(コンティンジェンシープラン)を策定しています。具体的には、海外駐在員の一時帰国基準や代替生産ルートの確保、金融制裁発動時の資金繰り対策など、多岐にわたります。平時から机上演習(テーブルトップ演習)を行い、弱点を洗い出しておく企業も増えています。
  • 経済安全保障経営の導入: 経営トップ自らが経済安保リスクに注目し、長期戦略に反映させる動きもあります。単に利益追求だけでなく、安定供給責任や国家方針との整合を重視する経営姿勢です。たとえば、半導体材料メーカーが「我が社の製品は日本産業全体の生命線を支える」という意識で増産投資を決断したり、商社が国の備蓄計画に合わせ戦略物資を集中的に取り扱ったりといった例があります。こうした官民の方向性共有は、危機時に政府と企業が協調して対応する土台となります。

以上のように、日本企業は「攻めの経済安全保障」(新たな事業機会創出や技術競争力強化)と「守りの経済安全保障」(リスク管理と事業継続計画策定)の両輪で動き出しています。もっとも、中小企業ではリソースが限られ対応が難しいケースも多く、政府や大企業が支援・指導して全体の底上げを図ることが求められます。経済安全保障は国家単位のみならず、企業経営の新たな重要課題となりつつあるのです。

7. 時事ニュースで見る経済安全保障の課題

最後に、最近のニュースから経済安全保障に関連する事例をいくつか取り上げ、その教訓を確認しましょう。日々報じられる出来事の中にも、本稿で述べてきたテーマと結びつくものが多くあります。

  • 米中ハイテク摩擦と半導体規制合戦: 2020年代に入り、米中間の技術覇権争いが激化しています。米国は安全保障上の懸念から中国への先端半導体や製造装置の輸出を厳しく制限し、日本やオランダもそれに追随しました。これに対し中国は2023年、米国企業の半導体製品を締め出したり、ガリウム・ゲルマニウムの輸出管理を強化したりと対抗措置をとっています。このやりとりは、経済的な手段が安全保障の武器として使われる典型例です。日本にとっても他人事ではなく、実際に中国のガリウム規制の影響で一部の部材調達に支障が出る懸念が生じました。教訓として、特定国に技術や資源を握られるリスクを減らし、同盟国と協調してルール形成する重要性が浮き彫りになりました。
  • ウクライナ戦争によるエネルギー・食料危機: ロシアのウクライナ侵略は、欧州のエネルギー安全保障を直撃しました。欧州各国はロシア産ガスへの依存を急速に低減せざるを得なくなり、日本もLNGスポット価格の高騰や石炭需要の増加といった余波に直面しました。また、世界的な穀物不足は前述の通り日本の食料調達コストを押し上げました。この事例は、戦争が遠く離れた日本の物価や安定供給にまで影響を及ぼすことを示しました。日本政府はロシア産石油・石炭の輸入を段階的に減らす一方、国益に関わるサハリン天然ガス開発には留まる決断をしました。ここからは、経済制裁による正義と自国経済への影響とのバランスを慎重にとる難しさが伺えます。エネルギーと食料の国内供給基盤強化が急務であることを再認識させられました。
  • 中東航路リスクと日本の対応: 2021~2023年にかけて、中東近海ではタンカーへの攻撃事件や紅海沿岸の紛争(イエメン情勢など)が相次ぎました。特に2021年にはホルムズ海峡付近で日本関係のタンカーが被害に遭う事件も発生し、日本政府は自衛隊の護衛艦を派遣して情報収集や船舶護衛にあたらせました。2023年のイスラエル・ガザ紛争でも、日本のタンカーは一時的に迂回ルートを検討するなど緊張が走りました。幸い大事には至りませんでしたが、海上輸送の安全確保(シーレーン防衛)が経済活動の前提であることを再確認する出来事でした。日本は今後も中東諸国との友好関係維持と、多国籍の枠組みでの海洋安全保障確保に努める必要があります。
  • 円安・インフレと経済安保: 地政学リスクとは異なりますが、経済安全保障の観点で為替やインフレにも触れておきます。2022年以降、米欧の金利上昇や日本の貿易赤字拡大を背景に急激な円安が進行し、一時1ドル=150円台に達しました。これは輸入物価を押し上げ、エネルギー・食料を筆頭に国内でコストプッシュ型のインフレを招きました。安全保障とは直接関係ないように思えますが、通貨価値の下落は輸入国である日本の経済安保を弱める側面があります。円安で購入費用が膨らみ、国家備蓄の補充にも支障が出るといった事態も考えられます。金融・財政の健全性維持や経常収支の改善といったマクロ経済政策も、広い意味で経済安全保障の土台と言えます。

以上、近年の事例を通じて経済安全保障の現実面を見てきました。重要なのは、どのケースも「他国の動向に振り回される脆弱性」が根底にある点です。日本が直面する課題は一朝一夕に解決できるものではありませんが、だからこそ日頃からの備えと戦略的対応が不可欠なのです。

8. まとめ:経済安全保障のこれから

国際情勢が不透明さを増す中、経済安全保障は日本にとって避けて通れない国家課題となりました。経済安全保障とは「国の独立・生存・繁栄を経済面から確保すること」であり、エネルギー・食料・重要物資の安定確保や先端技術の保護育成など、その守備範囲は多岐にわたります。半導体やレアアースの供給網強化、食料自給率向上、シーレーン防衛、さらにはルール形成や同盟国との協調まで、総合力が試される分野です。

日本政府と企業はすでに行動を起こし始めています。経済安全保障推進法の施行や経済安保戦略の策定、巨額の予算投入、そして民間のサプライチェーン再編やリスク管理強化といった取り組みは、その表れです。しかし、経済安全保障は「これで終わり」という完成形がないプロセスでもあります。技術革新や地政学リスクの姿は刻々と変化し、それに応じて対策もアップデートし続ける必要があります。

今後、日本が目指すべきは、過度なブロック経済化に陥ることなく開かれた経済秩序を維持しつつ、重要な部分は自律性を保つというバランスです。例えば、信頼できる国々と貿易・投資で協力し合いながら(友好国との連携強化)、自国でも代替生産や備蓄を進め、有事でも国民生活を守れるレジリエント(強靭)な経済を築くことです。幸い、日本は経済規模や技術力、人材といった潜在力に恵まれています。これらを戦略的に結集し、外交と経済政策を一体で推進することで、国際社会の不確実性に揺るがない安定を確保できるでしょう。

高校生の皆さんにとっても、経済安全保障は決して遠い世界の話ではありません。将来皆さんが社会で活動する時、この国のエネルギーが十分にあり、食べ物が行き渡り、仕事に必要な材料や部品が手に入るかどうか——それらは経済安全保障の成否にかかっています。そして皆さん自身が新しい技術を開発したり、国際協力に携わったりすることで、日本の経済安全保障に貢献するチャンスもあります。経済と安全保障の交差点にあるこのテーマに関心を持ち続け、より良い未来のために何ができるか考えてみてください。

以上、国際情勢の不安定化を背景にした日本の経済安全保障について包括的に見てきました。不透明な時代だからこそ、国としての備えを固めると同時に、国際社会全体の安定と繁栄にも責任ある一員として寄与していくことが、日本の目指すべき姿ではないでしょうか。政府・企業・国民が一丸となって知恵を出し合い、「経済の力で平和と暮らしを守る」取り組みを進めていくことが期待されます。