こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回は国内フォワーダー6社の特徴を財務情報や開示情報を比較しながら解説していきます。この記事をご覧いただくことにより、フォワーダー業界の企業の特徴を知ることができます。
フォワーダーの周辺業界も含めた全体の構造について知りたい場合は、以下の国際物流の市場構造について解説した記事もご覧ください。
今回取り扱う企業は以下の6社です。
- 郵船ロジスティクス(日本郵船)
- 日本通運(NIPPON EXPRESS HD)
- 近鉄エクスプレス(近鉄グループ HD)
- 日新
- AIT
- 内外トランスライン
取り扱っている財務データについて注記ですが、グラフ上は郵船ロジスティクスではなく親会社である日本郵船、日本通運ではなく親会社であるNIPPON EXPRESSホールディングスの財務情報を参照しており、文章中で内容を補足しています。
また、近鉄エクスプレスは現在近鉄グループホールディングスの参加ですが、2021年度までの近鉄エクスプレス単体の財務データを参照していることにご留意ください。
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本記事のデータの引用は特段の断りがなければ、各社のIR資料より引用しております。詳細は各社の公開情報をご覧ください。
財務データから見た比較
売上高/売上総利益率/営業利益率の比較

まずは売上高や各種利益率を見ていきます。注釈の通り日本郵船とNXHDはフォワーディング領域以外の売上が多く含まれるため、売上高について補足すると、郵船ロジスティクスは直近の開示で、2023年3月期連結:約8,460億円、2024年3月期連結:約6,710億円と出ているため、おおよそ日本郵船の売上高の30%程度と認識すると良いでしょう。また、日本通運においても開示されている売上高の事業別売上高構成比として海運事業約10%、航空事業20%とされており、こちらもフォワーディング関連は全体の30%の売上と捉えておくのが良さそうです。
そう考えると、今回取り上げている国内フォワーダーとしては郵船ロジスティクス、日本通運、近鉄エクスプレスが売上規模としては同水準であり、次いで日新、そしてAIT、内外トランスラインと続く形となります。以下表の2022年の取り扱い物量を見ても売上水準と比例していることが確認できます。
| 2022年取り扱い物量 | 海上貨物(千TEU) | 航空貨物(千トン) |
| 日本通運 | 757 | 867 |
| 郵船ロジスティクス | 668 | 325 |
| 近鉄エクスプレス | 698 | 689 |
| 日新 | 223 | 81 |
| AIT | 280 | – |
| 内外トランスライン | – | – |
※日新の航空貨物は輸出のみ(輸入は件数公開のため)
10年間のトレンドを見るとフォワーディングを中心とした各社は2020年頃までは基本的に国際輸送の物量増加に伴う右肩上がりの売上であり、コロナ禍の影響で2020年~2021年で停滞を見せるも、翌年以後は反動で大きく伸ばしています。
日本郵船だけは2020年まで海運市況が悪く運賃も低迷した影響で売上自体はダウントレンドになっていますが、これは海運事業としての影響が大きいです。

続いて売上総利益率(粗利率)です。日本郵船やNXHDは複合業態のため除くと、上場企業規模のフォワーディング事業の粗利率はおよそ20%前後が相場であることが分かります。基本的なビジネス体系として輸送のスペースを仕入れ(海上やドレージ等の運賃が仕入価格)、輸送手配の手数料を載せて販売することになるため、この手配の難易度やサービスの付加価値によって粗利率が変動します。
基本的に大手は特定の領域に強みは持ちつつも、全体のボリュームを維持・伸長させて行くことや、大手荷主の案件を維持するためにはある程度総花的にならざるを得ないことが想定されるため、ある程度の利益水準に落ち着いていくのはこの業界に限ったことではないでしょう。
ここで注目すべきは相対的に粗利率の高いAITと内外トランスラインです。
AITは国際輸送の中でも主に日本から中国・東南アジアの間の輸送に、かつ業界としては雑貨やアパレルに強みを持っているため、特定領域における輸送とその前後のサービスを含めた付加価値を提供しています。
内外トランスラインは、他のフォワーダーと異なる色として海上輸出混載貨物(LCL)を中心に取り扱っているため、小ロットでも輸出したいニーズを取り込んでいます。これにより他社よりも一段高い30%前後の粗利率を維持しています。
このように特徴を持った強みを出す事によって利益率を高い水準で維持することができますが、2社共大手と比較すると規模で劣るため、規模を拡大しようと思うと利益水準の維持には苦労しそうです。

続いて営業利益率の比較です。営業利益率の大まかな構造も粗利率と似通っていますが、営業利益率の水準は5%前後でコロナ禍の後海上運賃が上昇する前は5%未満の期間も長く続いていました。
売上高の増加と共に利益率も上がっていることから、ここ数年のフォワーダー業界は市況の影響もあり業績が改善している傾向にあると言えます。他方市況の影響は外部要因とも言えるため、今後も伸び続けるのか、どこかでピークが来るのかは読みづらいところがあります。特にトランプ関税が実効性を持つ2025年からは市況の変化に注目です。
ROE/PBR/時価総額の比較

日本郵船の影響で上下の振れ幅が大きくなっていますが、概ねフォワーダー企業のROEのレンジは5~15%の間がコアゾーンと言えそうです。伊藤レポートで理想とされる8%は好況のここ数年であればそれを超える水準の収益が上げられていると言えるでしょう。利益率で相対的に優位性のあったAITは20%前後、内外トランスラインは15〜20%と株主資本に対する効率性も秀でていました。

PBRは一株当たりの純資産を示し、現在の株価と企業の資産価値が釣り合う1倍が基準となります。その前提で見ると、NXHDとKWEが1倍前後で推移、日本郵船と日新が1倍を下回っており、内外トランスラインは1~2倍程度、AITは4倍を超えていた頃もありましたが、足元は2倍程度を推移しています。
大手を中心としたフォワーダー業界という見方で言えば、PBR1倍程度で推移していることから、市場や企業の将来性や成長性の投資家からの評価は高くないのが実態の様にも映ります。利益率で触れた通り、特定領域に特化して生産性の高い企業は一定株価も含めて評価されている状況です。

時価総額はNXHDで7,000億円前後、近鉄エクスプレスで1,000~2,000億円前後、日新、AIT、内外トランスラインは200~400億円前後の水準で推移しています。
従業員数/一人当たりの売上高・利益の比較

従業員数を比較するとNX HDが圧倒的に多く60,000~70,000人台で推移しています。近鉄エクスプレスは17,000人前後、日新は6,000人前後、AITは1,000人前後、内外トランスは600人前後という水準です。
基本的にフォワーディング事業は人が間に入って調整を行うビジネスとなるので、人が入った分だけリニアに取扱量や売上高を伸ばしていくようなビジネスモデルとなります。

従業員一人当たりの売上高を見ていきましょう。フォワーダー業界の水準としてはおよそ3,000~5,000万円/年/人の売上高を作れる構造の様です。単価が伸びたコロナ禍については各社一人当たりの売上高が伸びていますが、NXHDと日新はその恩恵を受けられていないように見えます。

従業員一人当たりの利益で見るとより顕著にその差が見えてきます。NXHD/KWE/日新といった大手企業の水準はおよそ100万円/年/人の利益創出となっていますが、AITや内外トランスラインは200~300万円年/人と2倍以上の差があり生産性が明らかに異なっています。
大企業に対しては株主から見るとより生産性を高めることに要求したくなる部分もありますが、従業員視点で見ると、特にNXHDは他社を寄せ付けない圧倒的な雇用を生み出しているため社会的な意味は大きいとも言えそうです。
各社の戦略/方針の比較
郵船ロジスティクス

郵船ロジスティクスの方針を確認するために、親会社である日本郵船物流事業の事業戦略(NYKレポート2024より)を見ていきます。
ポイントは「ONEをはじめとする効率的なオペレーション」×「スケールメリット」×「サスティナビリティ」と表現されています。特に物流事業にフォーカスすると、物流事業は日本郵船グループのグローバルネットワークの核を担う成長エンジンと位置付けられているという記載があります。
これは、海運事業が市況による収益のボラティリティが大きい中で、物流事業が安定した収益性を確保できる事業だというニュアンスが含まれます。中でもコントラクト・ロジスティクス事業(3PL)を中心に利益創出に取り組んでいるということから、企業との長期的な契約を基盤とした収益安定を維持する方針が見えてきます。
ここ数年の好況による収益性が良いことやオーガニックグロースでは限界があるという記載もあり、今後はM&Aを含めた投資による成長路線の様です。
日本通運

日本通運についても、NXグループ統合報告書2024から方針を確認していきます。
日本通運ではかなり現場戦術寄りの記載が多く見られます。キーワードは「アカウントマネジメント」と「End to Endソリューションの強化」です。一社一社の顧客に対して、ロジスティクスのみならずBCPや脱炭素といったテーマについてもソリューション提供を行っていき、1社当たりの単価を高めていくという方向性で、業界の横綱らしい方針と言えます。
また、テクノロジー・モビリティ・ライフスタイル・ヘルスケア・半導体といった高付加価値/高成長率の産業を定義し重点的に価値提供を行っていくことや、グローバルでは買収したcargo-partner社のPMIやインド市場にも力を入れていくということです。
近鉄エクスプレス

近鉄エクスプレスでは経営計画2027が策定・公開されています。
近鉄エクスプレスは2027年に世界トップ10に入る規模のフォワーダーを目指すとしています。(A&Aの2023年におけるフォワーダーランキングでKWEは13位)
そのためのグローバル物量の拡大が大方針になっているのと、プレミアムオーダーマネジメントプロバイダーという言葉が興味を惹きます。
物量の拡大についてはアジア-欧米間の物量拡大にフォーカスしながら販売においては選択と集中、仕入れの強化という基礎的な方針が示されていました。
プレミアムオーダーマネジメントプロバイダーについてはKWEが2015年に買収したAPLロジスティクスによる米国での方針のようで、オーダーマネジメントサービス・シェアードサービス・データ活用基盤によるレポート等、自動化・システム投資による生産性と付加価値提案での差別化の様に見えます。
日新

日新は統合報告書2024から第7次中期経営計画の状況を確認していきます。
日新は事業ポートフォリオ戦略・DXの推進・新領域事業の創出・ESG経営の推進を重点施策として掲げています。
中経の対象期間である2027年3月までの財務インパクトを考えると事業ポートフォリオ戦略とDXの推進の効果を期待するところでしょう。
2023年対2026年の数字の想定を見ると引き続き日本の成長がキーになります。重点分野は「自動車関連」「化学品・危険品」「食品」となっており、この分野の選定に日新の強みが現れていそうです。
AIT


AITは2024年2月決算補足資料から今後の事業戦略を確認します。
AITが競争力・収益の強化ポイントとしているのは、DXへの取り組みと取扱量増強のためのサービスメニュー拡充です。
Cargo Information Service(CIS)と呼ばれる貨物検索・追跡サービスを活用した顧客体験の向上、見積管理の生産性向上、BIを活用した提案等、データやシステム化によって差別化を計りたいと考えています。
取引量増強については、DXと掛け合わせた営業強化、フォワーディングから3PLへの業務拡大等を行って、荷物の囲い込みに動く模様です。
内外トランスライン

内外トランスラインは第5次中期経営計画(2023~2027年度)から引用します。(画像自体は直近2024年12月期決算より)
内外トランスラインは強みである輸出混載事業のトップシェアを維持しつつ、フォワーディングを徹底的に拡大し、国際総合フレイトフォワーダーとしての地位を確立させる方針です。
混載事業は、危険品内貨受けサービスの展開と危険品ダイレクト混載の仕向地を拡充することで取り扱いの幅を広げています。フォワーディングについては営業体制を強化しており、規模の拡大を図っている模様です。
今後の見通し
外部環境
国際物流の市場は、長らく海上運賃が低迷していましたが、コロナ禍以降のここ数年で海上運賃が高騰しており、それに伴い船会社もフォワーダーも業績を上昇させてきました。
フォワーダー大手においても海上運賃が低迷している最中では、営業利益率5%を切っており、かなり利幅の狭い事業となっていましたが、海上運賃の高騰と共に5%を超え始めており、特定サービスに強みを持った企業においては10%程度まで押しあがった事例もありました。
フォワーダー業界も収益性は海上運賃に左右される側面が大きく、中期的には国際輸送環境の混乱が続きそうではあるものの、利益体質な事業構造への変化が求められそうです。
各社の取り組み
大きな構造として貨物量は世界的にも増加傾向にあるため、各企業が取扱量の拡大を目指していますが、全方位的にというよりは、自社の強みが発揮できる領域を絞り込み戦略的に投資を行っていく方針であるということと、DXをはじめとした生産性向上施策も力を入れるポイントであるということは各社横並びで謳われています。
まずは、荷物需要や輸送に対してしっかりと付加価値が提供できる事業やエリアセグメントをどう定義するか、それに対して荷物や航路別で有意な価格を提示できる事業の強みをどこで作っていくのか、さらには利益をしっかりと確保できるオペレーションをDX化も含めて構築できるのかが、フォワーディング事業を分析していく切り口であると言えるのではないでしょうか。