こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回は国内倉庫・総合物流8社の特徴を財務情報や開示情報を比較しながら解説していきます。この記事をご覧いただくことにより、倉庫・総合業界の企業の特徴を知ることができます。

周辺業界も含めた全体の構造について知りたい場合は、以下の国際物流の市場構造について解説した記事もご覧ください。

今回取り扱う企業は以下の8社です。それぞれの企業の特徴を紐解いていきます。

  • 三菱倉庫
  • 三井倉庫ホールディングス
  • 住友倉庫
  • 山九
  • 鴻池運輸
  • 上組
  • 日本トランスシティ
  • ケイヒン

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財務データから見た比較

売上高/売上総利益率/営業利益率の比較

日本国内倉庫・総合物流8社売上高比較
日本国内倉庫・総合物流8社売上高比較

まずは売上高から見ていきます。取り扱った企業の中では山九が売上高5,000億円台に到達しており、その他企業でもケイヒンを除けば数千億円台ということで、かなり売上高の近しい企業が並んでいる状況です。

10年間の売上高のトレンドを見ると基本的に売上高は着実に右肩上がりになっており、特にコロナ禍以後に売上高増加率が伸びている企業も見られます。

その内訳はどうでしょうか。以下の円グラフ左が各社セグメント別の売上高、右が利益を示したものになります。

倉庫・総合物流会社セグメント分析(三菱倉庫・三井倉庫HD・住友倉庫)
倉庫・総合物流会社セグメント分析(三菱倉庫・三井倉庫HD・住友倉庫)

まず、主要倉庫3社はどの企業の似たようなセグメントの売上及び利益構成になっています。物流に関する売上高が全体の90%近く、不動産が10%である構成の一方で、利益を見ると物流が50~70%台、不動産が20~40%台となっています。

倉庫・総合物流会社セグメント分析(山九・鴻池運輸)
倉庫・総合物流会社セグメント分析(山九・鴻池運輸)

山九は物流と機工の2セグメントで売上はそれぞれ50%ずつを分け合っていますが、利益は機工が全体の75%を占めています。

鴻池運輸は複合ソリューション、国際物流、国内物流と3セグメントがありますが、売上、利益共に構成は大きく変わらず、複合ソリューションの利益率がやや高い構造です。

倉庫・総合物流会社セグメント分析(上組・ケイヒン)
倉庫・総合物流会社セグメント分析(上組・ケイヒン)

上組は物流とその他セグメントががありますが、ほぼ物流セグメントで売上・利益共に構成しています。ケイヒンも国際物流・国内物流がおおよそ半分ずつの売り上げ構成ですが、利益率は国内物流の方が良いようです。

日本国内倉庫・総合物流8社売上総利益率比較
日本国内倉庫・総合物流8社売上総利益率比較

続いて売上総利益率(粗利率)です。三菱・三井・住友の3倉庫会社はおおよそ10~15%程度の粗利率となっており、コロナ禍以後粗利率の改善が目立ちます。
住友倉庫が急激に変化しているのは唯一海運子会社のウエストウッドシッピングラインズ(WSL)を有しており、コンテナ運賃市況の追い風を受けたためです。そのWSLも2022年にSwire Shipping社に売却したため、2023年の決算では他企業と同程度の粗利水準に落ち着きました。(売却については2022年3月期決算資料のP17をご覧ください。)

山九・鴻池運輸・トランシー・ケイヒンといった企業はおよそ5~10%程度の粗利率となっていますが、他と比較して突出しているのが上組で粗利率で15~20%と高利益体質な事業を営んでいることが分かります。

上組は港湾物流のパイオニアで、重機設備投資が進んでおり特殊貨物や重量物の取り扱いのできる付加価値の高いサービスから案件毎の利益率を高めることができていると推察されます。
似た様な意味合いでは山九の機工セグメントもプラントにおける構内物流や操業支援といった重厚長大なプロジェクトベースの産業に強みを持っており、このセグメントの収益性が高いことがビジネスの特徴です。
山九の機工セグメントの2024年度利益率はおよそ9.9%で、上組の物流セグメントの11.4%と遜色ない利益率である一方、産休の物流セグメントは利益率が2.8%と相対的に見劣りする形となっています。

日本国内倉庫・総合物流8社営業利益率比較
日本国内倉庫・総合物流8社営業利益率比較

続いて営業利益率の比較です。倉庫・総合物流企業の営業利益率はおよそ4~6%程度が平均的な値と言えます。

粗利率と比較すると営業利益率は年毎の差が大きくなっている様に見えます。三井倉庫HDは1%台からおよそ10年間で8%台まで回復しています。その他の企業も10年ほど前は営業利益率3~4%を推移する水準でしたが、特にコロナ後の物量増の影響もあってか、営業利益率は5~8%近いレンジまで改善してきています。この中でも上組の営業利益率の高さは目を見張るものがあります。

ROE/PBR/時価総額の比較

日本国内倉庫・総合物流8社ROE比較
日本国内倉庫・総合物流8社ROE比較

倉庫や総合物流企業のROEのレンジは概ね5~10%の間がコアゾーンと言えそうです。

ROEは8社の中では三井倉庫HDが一時期20%程度をつける高い水準にありました。その他山九、ケイヒンが比較的高い水準で推移しています。P/Lの観点で見た時とROEの様に資本効率の観点で見たときでは企業の見え方が変わってきますね。

日本国内倉庫・総合物流8社PBR比較
日本国内倉庫・総合物流8社PBR比較

PBRは一株当たりの純資産を示し、現在の株価と企業の資産価値が釣り合う1倍が基準となります。その前提で見ると、倉庫・総合物流の領域ではPBR1倍を割っている(割っている期間の長い)企業が多いのが実態です。定常的に1倍を超えているのは、今回の山九のみと言えます。PBR1倍を下回る産業は次のような特徴があると言えそうです。

  • 固定資産は大きいが利益率が低い
    • 倉庫や大型設備等、それなりの金額の固定資産や設備投資が必要な一方で、物流自体の運用業務の付加価値(利益率)が低くなってしまう。
  • 競争性の高い市場(レッドオーシャン)かつ市場拡大の期待値が弱い
    • 既に多くの競争プレイヤーが存在し、基本的に価格は叩き合いになっている。また、日本というマーケットを対象にしている限りは、市場拡大のスピードや期待は弱く、投資意欲が弱くなりがち。
日本国内倉庫・総合物流8社時価総額比較
日本国内倉庫・総合物流8社時価総額比較

時価総額は三菱倉庫・山九・上組が3,000~4,000億円のレンジにおり、今回取り上げた企業の中では相対的に評価されている企業と言えます。

時価総額が高くなる一般的なロジックとしては、安定的な収益性と高い成長期待の2軸になりますが、業界として高い成長性を感じ難い現状においては、これまでご紹介した通り、高い収益性を持つ企業として山九と上組が評価されている様です。三菱倉庫は、三井倉庫、住友倉庫と大きく収益性に違いは無さそうですが、安定性とブランドを評価されているのかもしれません。

従業員数/一人当たりの売上高・利益の比較

日本国内倉庫・総合物流8社期末従業員数比較
日本国内倉庫・総合物流8社期末従業員数比較

従業員数を比較すると山九が圧倒的に多くおよそ3万人台を雇用していますが、これは連結数字であり単体だと1万人強となります。鴻池運輸も連結で1万5千人(単体で1万人弱)という雇用規模です。実際に物流を手がける事業においては必ずしも自動化できる部分だけではないため、多くの雇用を必要とする側面が残ります。

日本国内倉庫・総合物流8社一人当たりの売上高比較
日本国内倉庫・総合物流8社一人当たりの売上高比較

従業員一人当たりの売上高を見ていきましょう。前述の物流色の強い山九と鴻池運輸の水準としてはおよそ2,000万円/年/人の売上高その他の企業はおよそ4,000~6,000万円/年/人の売上高を生み出すのが相場感になります。

日本国内倉庫・総合物流8社一人当たりの営業利益比較
日本国内倉庫・総合物流8社一人当たりの営業利益比較

従業員一人当たりの利益で見るとより顕著にその差が見えてきます。山九と鴻池運輸はおよそ100万円/年/人の利益創出となっていますが、その他の企業は200~300万円/年/人です。そして突出しているのが上組で一人当たりおよそ600万円/年/人の営業利益を創出しています。他社の2~3倍の営業利益を一人当たりに創出している計算です。

各社の戦略/方針の比較

ここから先は各社の事業の戦略や方向性を見ていきましょう。

三菱倉庫

【方針1】三菱倉庫
【方針1】三菱倉庫

三菱倉庫グループは経営計画[2025-2030]を打ち出しているためこちらから方向性を確認していきましょう。

三菱倉庫はROE10%という財務目標が打ち出されており、そのための要素分解として「売上伸長」「利益率改善」と「資産効率性向上」「自己資本比率最適化」を進めていくという具体的なアプローチが明示されています。
以下の構造の通り純利益はその60%が有価証券売却等から来るものになっているため、それを事業利益中心に変えていくという構造変化を行なっていくようです。

物流事業の方針としてもフォワーダー業界と同様に上流から下流までトータルロジスティクスサービスを提供し、付加価値や利益率の向上を目指していくことと、特定分野に注力するカテゴリー戦略を掲げています。

また、不動産事業は物流事業とのシナジーを追求しASEANを中心とした海外展開も強化していくとのことです。

三井倉庫HD

【方針1】三井倉庫HD
【方針1】三井倉庫HD

三井倉庫HDは、中期経営計画 2022(2027年までの5ヵ年計画)から方針を確認していきます。

三井倉庫HDはサプライチェーンの重要性が増している社会的背景を追い風に、積極的な投資による売上高および高い利益成長を継続していくことを掲げています。

競争力の源泉としてそれぞれの強みを持つグループ会社の「統合ソリューションサービス」を深化すること、そしてデジタルプラットフォーム基盤を活用してSCM情報の見える化を図ることで、よりマーケットシェアを獲得できるという構想です。

また中期経営計画の中で多くページが裂かれているDXの取り組みも相当に力を入れている領域と読み取れます。

【方針3】三井倉庫HD
【方針3】三井倉庫HD

上図のLogistics Value Linkというプラットフォームでサプライチェーンを可視化することが付加価値の向上や競争力の源泉になるという構想です。少なからず各社デジタルを取り入れていく中でどのような構図になっていくのでしょうか。

住友倉庫

【方針1】住友倉庫
【方針1】住友倉庫

住友倉庫では第五次中期経営計画(2023~2025年度)が策定・公開されています。

上図にもある通り、コア事業である物流と不動産事業に経営資源を集中し、更なる成長を目指すとしています。(上述のウエストウッドシッピングラインズを売却した背景にも重なる部分です。)

住友倉庫が三菱・三井と違うところは物流サービスのニュアンスというよりも、基盤となる倉庫への投資(新設・拡大)を中心として事業戦略が記載されているところです。
他方、業務のデジタル化・自動化は共通のテーマでありWEBサービスの強化で競争優位性を確立すると記載があります。

開示資料は住友グループらしい堅い印象の記載ですが、ウェストウッドシッピングラインズの売却益もあり、計画内の単年のキャッシュ投資規模は300億円と三井倉庫HDと同等規模になっているため、この投資に対してどのようなリターンが得られるのか数年後の業績に注目です。

山九

【方針1】山九
【方針1】山九
【方針2】山九
【方針2】山九

山九はVision2030/中期経営計画2026から今後の方針を確認していきます。

山九はポートフォリオマネジメントを進めており、事業・エリアそれぞれで細かく注力領域が定められています。
既存の事業領域においては、稼ぎ頭の機構事業で化学領域の保全や鉄鋼領域の保全+設備工事を強化し、物流事業では構内操業・物流のO&M、化成品3PLが強化領域として定義されています。

また海外への事業拡大も基本戦略として掲げており、東アジア・東南アジア・中東を中心として、事業を展開するだけでなく、人財育成拠点を設置し、エンジニアリング人材の育成と流動性を高める施策を行なっていることも、海外事業への腰の据えた展開であることを感じさせます。

鴻池運輸

【方針1】鴻池運輸
【方針1】鴻池運輸
【方針2】鴻池運輸
【方針2】鴻池運輸

鴻池運輸は新中期経営計画説明資料(2023年3月期~2025年3月期)からここまでの事業戦略を確認します。

鴻池運輸も事業ポートフォリオマネジメントを行なっており、競争優位性を持つ空港関連やメディカル関連に加え、インド事業、環境・エンジニアリング関連を注力事業に指定しています。

また、各事業領域ごとに目標となる投下資本利益率(ROIC)を設定しており、2025年3月には基盤事業6.6%、改善事業3.1%、注力事業3.5%という定量目標を掲げています。

上組

【方針1】上組
【方針1】上組

上組は中期経営計画の修正について(2025年3月期まで)から引用します。(画像自体は直近2024年12月期決算より

上組は重点戦略として基幹事業の強化とDXによる事業強化を掲げており、また今回の8社比較の中でも比較的低水準であった資本効率(ROE)の向上を改善ポイントとして掲げています。

基幹事業の強化としては、コンテナターミナルの再編、青果流通加工業務の拡大(大規模流通センター建設)、自動車関連取扱強化、サイロ貨物、定温・冷凍冷蔵貨物の保管施設への継続投資等、大規模な設備投資を伴うことで、高い利益率を誇る基幹事業をより拡大・効率化していきます。

ROEを向上させるという観点では上記の様な投資を負債調達によって拡大しつつ、業績を向上させることで改善するとともに、利益還元もより充実させていく方向性と記載されています。

日本トランスシティ

【方針4】日本トランスシティ
【方針1】日本トランスシティ
【方針2】日本トランスシティ
【方針2】日本トランスシティ

日本トランスシティは2024年3月期末決算資料より今後の方向性の記載について触れていきます。

日本トランスシティは、今回の8社比較の中でも比較的低水準であった0.5倍程度のPBRを1倍まで引き上げることを目指し、ROE/PERの改善に向けたアクションを実施しています。
具体的には、トップラインの向上と株主還元の大幅な強化によってROEを改善すること、情報開示をより積極的に行うことでPERを改善することを目指します。

トップライン向上に向けては、重点分野である化学品物流や自動車産業関連物流、半導体や高機能素材の取り扱いを拡大していく方針です。また、新規投資・成長投資を加速しつつ、増配や自己株取得を通じて株主還元を強化していくこと、有利子負債を活用することで自己資本比率をコントロールし、PBRの改善も進めていく模様です。

ケイヒン

【方針1】ケイヒン
【方針1】ケイヒン
【方針2】ケイヒン
【方針2】ケイヒン

ケイヒンについては第77期 報告書(2023.4.1~2024.3.31)を引用していきます。

ケイヒンについては他の上場企業の比べて開示資料が限定的であり注力領域を具体的に把握することはできませんでしたが、直近の決算は減益の報告となっています。
他社と比較すると利益率は業界水準と同程度で、従業員一人当たりの生み出す売上高や利益は他企業と比較しても相対的に高いように見えますが、日本トランスシティと同様にPBRが0.5倍であり、企業の成長性の観点で市場から懐疑的に見られており、より効率的に資産が活用できる伸び代があると言えます。

今後の見通し

外部環境

国際物流の市場は、長らく海上運賃が低迷していましたが、コロナ禍以降のここ数年で海上運賃が高騰しており、それに伴い船会社程ではありませんが、倉庫や総合物流企業も業績を上昇させてきました。
特に取り扱われる物量は底が固く、むしろコロナ禍を経て取扱量は増加傾向にあることや、人手不足の観点から物流関連企業は一定の価格転嫁に成功し、業界全体としてここ数年利益率は改善傾向にあったと言えるでしょう。
今後も地政学的な不安定さは続く見込みでグローバルに展開している企業にとってサプライチェーンを上流から下流まで手がけることができる企業は、市場環境を追い風にしてより事業を伸長させることができる可能性があります。

各社の取り組み

一方で収益性や資本効率性が従来低水準であったため、市場の追い風で各社改善しているとはいえ、まだ改善の余地があると言えます。特に今回取り扱った大企業でさえ、売上総利益率が10%前後、営業利益率が5%前後という状態や、ROEも伊藤レポートで推奨される8%前後やPBR1倍未満というのが水準となっています。より小規模な事業者でも尖った領域がある企業以外は同様の傾向となるでしょう。

P/Lの観点ではよりデジタル化を進めることや、可視化されていないことによって発生しているムリムラムダの領域を丁寧に取り除いていくこと、また、適切な対価を荷主企業から受けられるような企業努力が求められます。
B/Sの観点では事業投資や株主還元の積極化、負債の活用等でこのサプライチェーン改善の市場の追い風を使いつつ、事業を資本コスト以上に伸ばしていく努力が求められます。