神戸港(こうべこう)は、兵庫県神戸市を中心とする国際貿易港で、深い水深をもつ「天然の良港」として知られています。明治元年(1868年)の開港以来、西日本の玄関口として発展し、東京・横浜・名古屋・福岡と並ぶ「五大貿易港」の一つに数えられています。港の管理者は神戸市で、阪神港(水域のうち神戸~大阪港域)に属しています。港域面積は約9,171ha、臨港地区(物流ゾーン)は約2,109haあり、神戸港旧市街地から南北に港が広がっています。主要な埠頭・埠頭地区には中突堤や新港(しんこう)地区、兵庫埠頭、摩耶(まや)ふ頭、ポートアイランド、六甲アイランドなどが含まれ、コンテナターミナルや自動車専用岸壁、クルーズ客船ターミナルなど多様な施設が整備されています。例えば、ポートアイランドや六甲アイランドには世界基準のコンテナ埠頭が並び、自動車や鉄鋼・機械などの取扱いに対応しています。取扱貨物は工業製品や自動車が多く、主要輸出品目には工業機械(約16%)、化学製品(約13%)、自動車(約12%)などが含まれ、輸入では石炭(約12%)、衣料品(約6%)、化学品(約6%)などが上位を占めます。

コンテナ物流における役割と実績
神戸港は国際コンテナ航路のハブとして重要な役割を果たしています。2010年には大阪港とともに「国際コンテナ戦略港湾」に指定され、北米・欧州など主要海運ルートの寄港継続・拡大に向けた施策が推進されています。阪神港(神戸・大阪)が大西洋岸や北米西岸、オセアニアなどへ月数十便のコンテナ船を運航しており、神戸港単体でも北米、欧州、オセアニア、東南アジア、中国など約80の定期航路で世界各地と直結しています。このため、西日本からの輸出・輸入貨物が集結しやすく、効率的な国際物流網を支えています。
統計的にも神戸港のコンテナ取扱量は大きな規模です。2024年の統計によれば、神戸港の総取扱貨物量は約9,297万トンで、そのうち外貿(海外取引)は約5,005万トン、内貿(国内取引)は約4,292万トンでした。コンテナ(TEU)では総計約277万TEUを扱い、前年同月比でほぼ同水準を維持しています。TEUとは「Twenty-foot Equivalent Unit」の略で、20フィートコンテナ1個分を意味する単位です。日本国内の主要コンテナ港と比べても、神戸港はトップ5に入る取扱量を誇ります(2022年に神戸港2,891千TEU、名古屋港2,680千TEU、東京港4,932千TEUなど)。

神戸・大阪を含む阪神港の主要貿易航路ネットワーク。神戸港(阪神港)は世界各地の主要港と定期的に結ばれている。
以上のように神戸港は西日本の産業界と結び付きながら、近隣諸国・地域や米欧とのコンテナ輸送を担う西日本の玄関港として機能しています。また、近年は物流の効率化・省力化を目指し、積み込み機械の自動化やIT化にも取り組んでおり、たとえば2024年には神戸国際コンテナターミナルで世界初のタイヤ式門型クレーン(RTG)の水素エンジン換装実証が開始されるなど、港湾のスマート化・脱炭素化が進められています。


阪神・淡路大震災と神戸港の復興
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、神戸港は全長約20kmにわたる岸壁の多くが破損・沈下し、多くの荷役施設が使用不能となりました。当時、物流網は大混乱に陥り、西日本経済にも大きな影響が出ました。震災直後から神戸市は港湾施設の徹底的な復旧に着手し、被害の大きかった岸壁を「打って替え」(港湾施設を仮復旧しながら隣接区画で本復旧を進め、順次切り替える方式)で再建しました。その結果、震災から約2年後の1997年3月には主要施設の復旧工事が概ね完了し、港湾機能はほぼ回復しました。
復興後の貨物取扱量をみると、震災7年後の2002年には外貿が震災前の約70%、内貿は約35%まで減少していました。これは、震災で一時的に流出した貨物が周辺国の港湾に流れたことが原因でした。しかしその後、港湾インフラや物流施策の強化などで徐々に貨物が神戸港に戻り、2017年には震災前(1994年)の取扱貨物量を回復するに至りました。神戸市は震災からの経験を教訓とし、「災害に強い港湾・都市」の構築を進めています。たとえば震災以降は通信インフラの整備、地下街での耐震化、港湾施設における津波・液状化対策などが講じられており、最新の技術を活用した「レジリエント(回復力ある)港湾」の構築に向けた取り組みが続けられています。
関西圏との連携と港湾再編
神戸港は関西経済圏の一翼を担う港として、大阪港や周辺インフラとの連携強化にも力を入れています。2014年10月には大阪港と神戸港の埠頭運営会社が経営統合し、阪神国際港湾株式会社が発足しました。これにより両港のコンテナターミナル運営が一体化され、西日本からの貨物集約が進められています。また関西国際空港(関空)とは「神戸-関空ベイ・シャトル」という高速船が就航し、所要約30分でアクセス可能です。これに加え、ポートアイランドと神戸空港を結ぶ新交通システム「ポートライナー」は三宮から空港まで約18分で結んでおり、神戸港周辺と関西の大消費地・ビジネス街との移動を高速でつないでいます。高速道路網も発達しており、阪神高速湾岸線や山陽自動車道を介して西日本各地と連絡しています。加えて、瀬戸内海ルートでは大阪港・神戸港の「阪神港」が中国・四国方面や九州方面と海上ネットワークを形成しており、内陸物流との連携(トラックフェリーなど)も盛んです。こうしたアクセス網の充実は、関西圏の産業・物流拠点としての神戸港の競争力を高めています。
大阪・神戸の港湾再編
大阪港と神戸港は、2010年に国際コンテナ戦略港湾に共同指定されて以降、ハブ機能強化に向けたインフラ整備や連携が進められてきました。近年では阪神港全体で、大型化するコンテナ船に対応した岸壁の延伸・浚渫や、物流集約政策などが行われ、フィーダー航路の強化が図られています。また港湾運営を民営視点で効率化するために2012年に神戸・大阪両埠頭会社が特例港湾運営会社に指定され、2014年に経営統合して阪神国際港湾が誕生しました。これにより、阪神港のコンテナターミナルを一元的に運営し、荷主や船社への利便性向上策を展開しています。
名古屋港・東京港・釜山港との比較
神戸港は日本国内では主要港の一つですが、その規模は東京や釜山には及びません。国土交通省の統計(2022年)によると、神戸港単体のコンテナ取扱量は約2,891千TEUでした。これに対し、横浜・川崎を含む京浜港(東京港)は約4,932千TEU、名古屋港は約2,680千TEU、阪神港(神戸+大阪港)合計では約5,282千TEUを取り扱っています。世界港湾ランキングでは、釜山港(韓国)は約2,207.8万TEU(2022年)で世界第5位、上海港(中国)は約4,730.3万TEUと桁違いの規模を誇ります。すなわち、釜山港は神戸港の約7倍以上の取扱量をもつアジア屈指のハブ港湾であることがわかります。
インフラ面では、釜山港や上海港など大規模港湾では最先端の自動化設備や巨大クレーンの導入が進んでいます。一方、神戸港でも岸壁の水深16m級への改良や大規模コンテナターミナルの再編(ポートアイランド・六甲アイランド地区)など、船舶大型化への対応を進めています。また東京港では物流拠点の再整備が続き、湾岸部に広大なターミナルを整備中です。一方で神戸港は地形的制約も大きく、スペースは限定的ですが、阪神港と連携しながら外国航路の維持・拡大を図っています。神戸港の競争力を高めるため、AIやIoTを活用したスマートターミナル化、事務手続きの電子化など“ソフト面”の革新も推進されており、全国各地の港で過去最高取扱量を記録する中、神戸港もその一翼を担っています。
関西経済圏への波及効果
神戸港は港湾物流を中心に、関西地域の経済に大きな波及効果をもたらしています。神戸市の試算によれば、港湾関連産業や港湾を利用した製造・サービス業などを合わせた神戸港の経済効果(付加価値ベース)は約1兆5,018億円(2016年基準)に上り、市内所得の約33%を生み出しています。特に港湾運送業・物流関連産業が生み出す付加価値は4,367億円と前回調査(2003年)から大きく増加し、貨物量増加に伴う物流需要の伸びが寄与したことがわかります。また、港湾整備に伴う建設需要も高く、港湾運営だけでなく関連産業全体に渡る経済効果が認められています。
企業立地の面では、神戸港周辺には物流センターや重工業・機械メーカー、化学プラントなど港湾を活用する企業が集積しています。また、神戸市は官民連携で港湾物流と企業の海外展開支援を一体的に進め、輸出企業を港湾に集める取り組みも実施中です。雇用面では港湾関連企業のほか、港湾再開発による商業・観光施設の整備(メリケンパークなど)が新たな雇用創出を生んでいます。
観光振興においても神戸港の存在は大きいと言えます。ポートタワーやメリケンパーク、中突堤クルーズターミナルには多くの観光客が訪れます。加えて大型クルーズ客船が神戸ポートターミナルや中突堤旅客ターミナルに入港し、港湾エリアは「動くホテル」であるクルーズ船の寄港地として賑わっています。例えば2025年春までの予定だけでも多くのクルーズ船入港が組まれており、これら乗客の市内消費が地域経済に貢献しています。観光と物流が並存する神戸港周辺は、国内外の訪問者を迎える港町の景観と利便性を兼ね備えたエリアとなっています。

ポートタワーやクルーズターミナル、メリケンパークなど観光施設と輸送インフラ(ポートライナー、ベイ・シャトル)が集まる。
最新トピック:スマート港湾化、LNG対応、港湾計画改訂など
近年、神戸港では「スマート港湾」「脱炭素港湾」への転換を目指した新たな取り組みが進んでいます。まずICT活用では、港湾物流の効率化を図るクラウドサービス「CONPAS」の導入が2024年9月から始まりました。神戸港のPC-18コンテナターミナルでは国内初めてCONPASの運用が開始され、コンテナ予約・管理をデジタル化することで待ち時間の短縮や事務作業の効率化が期待されています。また、ターミナル機器の省エネ化・スマート化として、前述の水素RTG実証のほか、ヤード内自動搬送装置や無人運搬車の実証も予定されています。
脱炭素化面では、岸壁での陸上電力供給(シャークパワー)も動き出しています。2023年11月15日から神戸港新港第1突堤において練習船「大成丸」を対象に陸上電源の供給が開始され、2024年4月からは新港東ふ頭で内航貨物船向けの供給が予定されています。これにより、停泊中の船舶からのCO₂排出削減が期待されます。
さらにLNG(液化天然ガス)燃料の利用拡大に向けて、大阪ガス・神戸港運各社によるLNGバンカリング(燃料供給)船建造計画も進行中です。2023年6月には大阪湾地域で船舶向けLNG供給事業の事業化が決定され、阪神国際港湾(神戸港埠頭会社)も参画するコンソーシアムが約1,500トン積みのLNGバンカリング船を建造し、2026年度の就航を目指しています。神戸港周辺には既存のLNG貯蔵基地や揚排気設備もあり、LNG燃料船への対応が強化されれば、港湾輸送のクリーン化に寄与するとみられています。
最後に港湾計画についてですが、神戸港では長期的な港湾利用計画を定める港湾計画の改訂も進められています。通常、港湾計画は10~15年ごとに見直されますが、神戸港では2006年の改訂以来、社会情勢や技術動向の変化を踏まえ必要に応じて随時変更が行われています。2024年度には港湾計画の一部改定案が審議され、デジタル化や脱炭素化を反映した目標・施策が盛り込まれる見込みです。これにより神戸港は、従来の港湾物流機能だけでなく、環境・観光・防災面にも配慮した「未来志向の港」へと進化し続けています。
以上のように、神戸港は歴史的な国際港湾としての役割を維持しつつ、震災復興による耐災害化やインフラ整備、関西圏との連携強化、最新技術の導入によって常に進化を続けています。これらの取り組みは、西日本の産業・物流を支える基盤であり続け、国際海上物流と地域経済にとって重要な位置を占めています。
引用
神戸港 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%88%B8%E6%B8%AF
コンテナターミナル|阪神港(神戸港・大阪港)|阪神国際港湾(株)
https://hanshinport.co.jp/facilities/terminal/
管内の主要事業一覧|国土交通省 近畿地方整備局 港湾空港部
https://www.pa.kkr.mlit.go.jp/general/measures/kinki/business/index.html
陸・海・空の交通アクセスが抜群 | 神戸市 企業進出総合サイト KOBE BUSINESS WIND
https://kobe-investment.jp/charm/access/
神戸市:神戸市の概要(PDF)
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/58977/202412_kobe_summary.pdf
港湾統計関連資料(PDF)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/content/001517678.pdf
阪神港(神戸港・大阪港)での取り組み|国土交通省 近畿地方整備局 港湾空港部
https://www.pa.kkr.mlit.go.jp/general/measures/kinki/main/kouwan/h-port/index.html
荷役機械高度化実証事業(RTGの水素エンジン換装)|商船三井
https://www.mol.co.jp/pr/2024/24022.html
BE KOBE 震災30年を未来につなぐ
https://www.kobe-ferry.com/hanshinawaji/
神戸-関空ベイ・シャトル | 海上アクセス
https://www.kobe-access.jp/
国内外を結ぶ航路網|阪神港(神戸港・大阪港)|阪神国際港湾(株)
https://hanshinport.co.jp/route-network/#pl-route01
年々増える世界の港のコンテナ取扱量と日本の港を解説 | コンテナスタイル.com
https://container-style.com/container-informatio/toriatukairyou/
CONPAS運用開始(神戸港PC-18)|Cyber Port
https://www.cyber-port.net/ja/information/detail/153
神戸港の経済効果1兆5018億円|神戸経済ニュース
https://news.kobekeizai.jp/blog-entry-5372.html
神戸市:客船入港予定
https://www.city.kobe.lg.jp/a14075/kanko/leisure/harbor/passenger/schedule/index2020.html
港湾資料(PDF)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001738625.pdf
神戸市:神戸港の港湾計画
https://www.city.kobe.lg.jp/a49918/shise/kekaku/minatosokyoku/kobeko/kowankeikaku/index.html