本記事ではあまり情報が整理されていない「穀物メジャー」について解説していきます。近年穀物需要は増加の一途を辿っており、世界情勢の混乱もありその価格も高騰しています。そんな穀物のグローバルでの供給元は穀物メジャーという数社がほぼ寡占状態であるというのはご存知でしょうか?

今回の記事ではそもそも穀物のグローバル流通の市場環境についてまとめつつ、その市場を握っているADM・ブンゲ・カーギル・LDCの4社についてもそのビジネスをまとめていきたいと思います。

免責事項

本資料の情報は、公開日時点のものとなります。公開日時点で一般に信頼できると思われる情報に基づいて作成していますが、情報の正確性や完全性を何ら保証していません。

また、筆者は、新しい情報や将来の出来事、その他の情報について、更新又は訂正する義務を負いません。

本資料は断定的判断を提供するものではなく、あくまで参考であり、最終的な判断及び決定は、読者自身で行うものとし、筆者はこれに一切関与せず、また一切の責任を負いません。 本資料に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者は一切の責任を負いません。

本記事のデータの引用は特段の断りがなければ、各社のIR資料より引用しております。詳細は各社の公開情報をご覧ください。

記事中のデータは2023年時点での情報を中心に記載をしています。

穀物の世界動向とサプライチェーン

近年地政学的リスクの顕在化から世界各国の保護主義的な動きが顕著になっており、自由貿易から関税等の保護貿易への政策の転換やインフレによる物品の価格高騰等のニュースをメディアで良く目にする様になりました。

特に穀物供給においても価格高騰は顕著で、私たちの生活にダイレクトに影響しています。例えば、肉食の拡大から畜産需要は世界的に増加していますが、日本における畜産用飼料の自給率は26%程度(2022年度)となっており、中でもトウモロコシは0.1%という状況で大半を輸入に頼っています。(引用:NHK

また国立国会図書館の調べでは、昨今の穀物価格高騰の背景について以下の様に言及しています。

小麦・トウモロコシ・大豆の国際価格は 2020 年後半以降騰勢に転じ、2020 年 4
月から 2022 年 4 月までの 2 年間に 1.97~2.45 倍となった。同様に、農業資材の
うち主要肥料の国際価格も、2 年間に 2.30~3.94 倍となった。

この価格高騰の背景には、短期的な要因としては、ロシアによるウクライナ侵攻、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の物流への影響、投機資金の商品市場へ
の流入、米ドル独歩高の 4 点、中長期的(構造的)な要因としては、気候変動・
異常気象、世界人口の増加、中国及びその他の新興国での食料需要の急増、バイ
オ燃料向け需要の急増と競合の 4 点が存在することが主に指摘されている。価格
高騰は、直接的に、又は飼料価格や原材料費等の上昇を通じて間接的に食料価格
の上昇を導いている。

引用:2022 年の穀物価格高騰とその背景 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_12315652_po_1201.pdf?contentNo=1 (参照 2025-1-3)

穀物の流通構造

また、小麦や油糧種子といった穀物の供給元は作物であるという性質から、特定の環境下で大規模に栽培できる国々に限られています。

第10類 穀物の国際貿易統計概要
第10類 穀物の国際貿易統計概要

上グラフは貿易統計第10類穀物の輸出入傾向を金額ベースで示したものです。世界で穀物の貿易取引は25兆円程度起こっていますが、穀物の輸出元はアメリカ・ブラジル・オーストラリア・ロシア・インド・カナダの6カ国で世界の輸出量の50%を占めており、75%までで見ても13カ国という限られた国が輸出元になっています。

それに対して輸入元の国々が多くの国々に渡っているのがお分かりいただけるのではないでしょうか。特に近年は中国で食肉が広がり、畜産用の飼料穀物輸入が爆発的に増加しています。

小麦の国際間貿易図
引用:CHRTD https://resourcetrade.earth/?year=2022&category=52&units=value&autozoom=1 (参照 2025-1-3)

上図は穀物の中でも小麦における国際間の輸出入金額を成果地図で示したものですが、先ほどの記載の通り、アメリカやロシア、オーストラリアという限られた国々から、世界各国へ輸出されている様子がよく分かります。

第12類 油糧種子の国際貿易統計概要
第12類 油糧種子の国際貿易統計概要

続いて上グラフは貿易統計第12類油糧種子の輸出入傾向を金額ベースで示したものです。油糧種子も穀物に近い20兆円強の貿易取引が年間で起こっていますが、こちらは偏在がより顕著で輸出の60%弱をブラジルとアメリカが占めており、輸入に至っては43%をアメリカが占めています。

油糧種子の国際間貿易図
引用:CHRTD https://resourcetrade.earth/?year=2022&category=13&units=value&autozoom=1 (参照 2025-1-3)

世界地図上で見ても、主要な貿易のほとんどが中国に向かっている様子がよく分かります。

サプライチェーンをもう少し解像度高く見ていきましょう。以下の図は大豆のサプライチェーンの概念図です。通常資源メジャーはリスクヘッジのため多様な商品(作物)を取り扱いますが、具体的な流通イメージを持つために今回は大豆にフォーカスして紹介します。

大豆のサプライチェーン
引用:2016 Agricultural Commodity Supply Chains Trade, Consumption and Deforestation https://www.chathamhouse.org/sites/default/files/publications/research/2016-01-28-agricultural-commodities-brack-glover-wellesley.pdf (参照 2025-1-3)

大豆のサプライチェーンにおける工程は大きく分けると、「生産工程」「処理工程」「流通・消費工程」に分けられます。

生産工程

大豆の生育に適した気温は18〜30度程度とされており、開花から結実期に十分な水分が供給できること、開花期には十分な日照量が確保できることが必要です。

具体的にはアメリカの中西部、ブラジルのセントロ・オエステ地方、アルゼンチンのパンパ地域は大豆を育てるのに適した環境であり、大規模なインフラ整備が行われたことで世界有数の大豆の生産地となりました。

処理工程

大規模な流通を実現するためには上記の大規模なインフラ整備が重要です。例えば収穫した大豆の乾燥・一次貯蔵・選別を行うカントリーエレベーターが以下の写真の様な大型の施設として存在しています。

カントリーエレベーター 作成者:ghornephoto ブランド:Getty Images Signature

また、輸出を行うためには港湾等主要な物流拠点で集約し、国内外へ出荷する必要もあります。この場合はさらに施設が大型化し、大型船への積み込みも可能なターミナルエレベーターが作られます。

ターミナルエレベーター 作成者:AigarsR ブランド:Getty Images

このターミナルエレベーターを保有・運営するのが穀物メジャーの一つの機能であり、海外市場へ展開していくために必要となる設備投資ができるためには大きな資本が必要となります。こういった側面も穀物メジャーの市場が寡占化する一つの要因でもあります。

また、大豆のサプライチェーン図にはプロセッサーの図もありますが、大豆は豆の状態だけではなく、圧搾し大豆油と大豆粕に加工して輸出する形態もあります。これは市場のニーズや圧搾設備等インフラの有無、また、量的・関税両面での輸送コストの関係から選択されるものになります。

流通・消費工程

流通においては当然のことながら国内市場への販売と海外市場への販売の両パターンがあります。アメリカではバイオディーゼル需要等もあり国内市場への流通比率も多いです。

大豆の場合はその80%が家畜や水産養殖として消費されます。それ以外の20%が私たちが日常的に利用消費する大豆製品等として流通します。

穀物メジャーそれぞれの特徴

ここから先は穀物メジャーでABCDと呼ばれる4社について解説していきます。企業概要は以下の通りです。

世界の主要なメジャー
世界の主要なメジャー

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)

ADMは農産物の貿易・加工を行う多国籍企業最大手の一つで、垂直統合型のビジネスモデルを採用しており、農産物の貯蔵、輸送、粉砕、加工までを自社で行っています。事業は「農業サービスと油糧種子」、「炭水化物ソリューション」、「栄養」といった3つの事業セグメントを有しています。アジア最大のアグリ・ビジネス・グループであるウィルマールの株式も部分保有しています。

ブンゲ(BUNGE)

ブンゲは世界的な農業及び食品取引の上場会社です。商業用の動物飼料や食用精油品を生産するために、油糧種子及び穀物を購入、保管、輸送、加工、販売とサプライチェーン全体を包括する機能を持っています。事業は「アグリビジネス」、「製油および特殊油」、「製粉」、「砂糖およびバイオエネルギー」の4つの事業を有しています。

カーギル(Cargill)

カーギルは世界最大の農産物供給事業者の一つで、「動物栄養およびタンパク質」、「食品原料およびアプリケーション」、「原産地および加工」、「工業および金融サービス」の4つの事業部門(2020年度の最後の決算公開情報より)を運営しています。またカーギルは米国最大の非公開企業で2020年度の決算情報以後ほとんどその業績は開示されていません。

ルイ・ドレフュス(LDC)

LDCは農業、食品加工、海運および金融を営む商社で、穀物メジャーの1社として数えられます。特に綿花と米の取扱量は世界最大であり、砂糖でも2位につけます。事業は「バリューチェーンセグメント」と「マーチャンダイジングセグメント」の2つに分かれており、主にアジアを中心とした新興市場向けに販売しているという特徴があります。

穀物メジャーの売上比較2023
穀物メジャーの売上比較2023(日本円への換算レートは140円/ドル)

上図は穀物メジャー4社の2023年売り上げを比較したものになります。4社の中で最も大きいカーギルは日本円でおよそ22兆円もの売上高を穀物をはじめとする農産物供給を中心として作り出しているところに、その凄さを実感します。穀物供給の観点からカーギルの存在感や影響度は他社からも一つ抜けていると言えるでしょう。

ADMは日本円でおよそ13兆円、ブンゲはおよそ8兆円、LDCはおよそ7兆円と穀物メジャー4社とも数兆円台の売上高を持つ巨大なグローバル企業となっています。

各社の開示している情報の流動はまちまちで、ADMとLDCは公開されている情報の粒度が細かく、今回調査することでその事業の規模や詳細を理解しやすかったですが、ブンゲは財務結果中心の開示情報となっており、またカーギルは非公開企業のためほとんど情報が公開されていないといった違いがある点はご留意いただければと思います。

1 2