アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)
ADMはプレゼンテーション資料として分かりやすく図解した情報を開示しています。上図は同社がバリューチェーン全体で提供している主な製品・サービスをまとめたものです。「Origination(調達)」「Processing(加工)」「Specialties(特殊製品)」「Customer(顧客)」の4ステップで記載されています。
Origination of Crops(農産物の調達)においては、Ag Services(農業サービス)セグメントでサービス提供している、穀物の買い付け・保管、需要地での販売や輸出、輸送を行っています。
Processing(加工)においては、Oilseeds(油糧種子)セグメントで手がけている油粕や植物油の抽出、Carbohydrate Solutions(炭水化物ソリューション)セグメントで手がけているデン粉・甘味料や小麦粉ば、バイオ製品の製造を行っています。
Specialties(特殊製品)においては、Nutrition(栄養)セグメントで手がけている香料や風味関連製品、特殊添加物、畜産・養殖業向けの飼料、機能性食品を製造しています。
ADMは世界各地で700ヶ所の貯蔵施設と300ヶ所程の加工施設、400ヶ所程の調達施設を運営しており、42,000人の従業員を雇用しています。この数字だけでも事業の規模感が壮大であることが伝わってきますね。
ここから先3枚の図は各事業領域における拠点を示したものになります。アグリサービスと油糧種子事業は世界各地で膨大な調達・保管拠点と加工設備を運営し、大豆・菜種などの油糧種子から食用油や飼料原料をはじめとする各種製品を生産しています。
米国を中心にカナダ、南米、欧州、アジアなどへ幅広く展開しており、2,000万トン超のグローバル穀物保管能力と4,300万トン超の年間圧搾能力を持つことが特徴です。さらに多様な輸送手段(鉄道・河川船・海上船など)を駆使し、食品・飼料・燃料・工業用途といった幅広い顧客ニーズに対応しています。
主要な情報をピックアップすると以下の通りです。
調達(Procurement)/保管(Storage)施設数合計: 約400拠点
- 世界全体の穀物保管能力: ~2,000万トン(20M MT)
- 港湾施設(自社所有・リース含む): 42拠点
加工(Processing)施設数: 114拠点(うち 53拠点は油糧種子の圧搾施設)油糧種子の年間圧搾能力(Annual Crush Capacity): ~4,300万トン(43M MT)
- 大豆が約75%、菜種やヒマワリ種子などのソフトシードが約25%を占める
主要輸送手段:
- 保有鉄道車両 10,000両
- セミトレーラー 1,200台
- 自社海上船舶 3隻
- 河川用バージ(はしけ) 1,800隻
地理的展開
- 米国: 52拠点(加工)、233拠点(調達)
- カナダ: 3拠点(加工)、6拠点(調達)
- ブラジル: 18拠点(加工)、15拠点(調達)
- アルゼンチン、パラグアイ、チリ、ペルー、エクアドル、コスタリカ、メキシコ など: 複数拠点
- イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、ウクライナ、アイルランド、オランダ、チェコなど: 加工や調達の拠点を分散配置
- 中国: 3拠点(調達)
- インド: 1拠点(加工)、13拠点(調達)
- 韓国: 1拠点(調達)
- その他アジア各国にも拠点あり
Daily Grain Storage Capacity(1日あたりの穀物保管能力)
- 合計: 1,900万トン(19 MMT 相当)
- 地域別内訳の一例:
- 北米: 1,400万トン(14 MMT)
- 南米: 300万トン(3 MMT)
- EMEA: 200万トン(2 MMT)
Annual Crush Capacity(油糧種子の年間圧搾能力)
- 合計: 4,300万トン(43 MMT 相当)
- 地域別内訳の一例:
- 北米: 2,300万トン(23 MMT)
- 南米: 700万トン(7 MMT)
- EMEA: 1,300万トン(13 MMT)
- 大豆が約3/4、ソフトシード(菜種など)が約1/4
炭水化物ソリューション事業はトウモロコシ・小麦を中心とした大量の粉砕(Grind)能力と、多彩な加工施設ネットワークを強みとしています。
北米を筆頭にヨーロッパ、アジア、中南米など世界各地に生産拠点を展開し、でん粉・甘味料、バイオソリューション、小麦粉製品など計90種ほどを生産・供給。これにより食品、飼料、バイオ燃料、工業用途といった幅広い需要に対応できる総合的なサプライチェーンを形成しています。
取り扱い製品
- 炭水化物をベースとした製品は約90種類
- 主に穀物(トウモロコシ、小麦)を原料とするでん粉・甘味料、バイオソリューション、各種工業用製品など
保有加工拠点数
- トウモロコシ加工工場: 16拠点
- 小麦加工工場: 39拠点
- これらに加え、メキシコ・ハンガリー・ロシア・米国に合弁(Joint Venture)施設を所有
コーン(トウモロコシ)加工能力
- 年間コーン粉砕量: 2,400万トン(24 MMT)
- 地域内訳の一例: 北米 2,200万トン(22 MMT)、欧州・中東・アフリカ 200万トン(2 MMT)
- 1日あたりのコーン粉砕処理量: 約 250万(2.5M)ブッシェル
小麦加工能力
- 年間小麦製粉量: 700万トン(7 MMT)
- 地域内訳の一例: 南北アメリカ 600万トン(6 MMT)、国際(その他地域) 100万トン(1 MMT)
- 1日あたりの小麦処理量: 約 95万(950,000)ブッシェル
地理的展開(Processing Plants)
- 米国: 12拠点(加工)、3拠点(調達)
- カナダ: 6拠点(加工)
- 欧州(フランス、ブルガリア、トルコ など)
- 中国(Greater China): 1拠点(加工)
- 中南米・カリブ海地域(バルバドス、ジャマイカ、グレナダ、ベリーズ など)
- 処理施設を保有する国は合計12ヵ国に及ぶ
その他の特筆事項
- 世界最大級のコーン加工工場を複数保有(世界最大5工場のうち3工場がADM)
- 小麦・コーン双方の大型ミル施設を世界各地で運営し、食品・飼料・産業用など多岐にわたる需要へ対応
ADM「Nutrition(栄養)」事業は人向け栄養(Human Nutrition)と動物向け栄養(Animal Nutrition)の2分野を中心に展開しています。
- Human Nutrition: 64のイノベーション・センターと53の加工工場を軸に、食品・飲料・ヘルスケア向けの機能性原料や香料、タンパク質などを提供。原材料調達の拠点も23ヵ所にわたる。
- Animal Nutrition: 87の加工拠点を通じ、家畜・水産・ペットなど多分野の飼料・サプリメントを供給。
- 北米(NA)
- アメリカ合衆国: 56拠点(加工)、20拠点(調達)
- カナダ: 3拠点(加工)
- メキシコ: 9拠点(加工)
- 南米 / 中米
- ブラジル: 11拠点(加工)
- コロンビア、エクアドル、パナマ、プエルトリコ、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ などに複数拠点あり
- 欧州
- フランス: 12拠点(加工)
- ドイツ: 5拠点(加工)
- 英国、ベルギー、オランダ、デンマーク、ポーランド、スペイン、イタリアなど、各国に加工施設を展開
- アフリカ
- アルジェリア、ナイジェリア、マダガスカル、南アフリカなどに加工拠点
- アジア
- 中国(Greater China): 8拠点(加工)
- インド: 1拠点(加工)
- ベトナム: 5拠点(加工)
- フィリピン: 3拠点(加工)
- トルコ: 1拠点(加工)
ブンゲ(BUNGE)
ブンゲからはAnnual Reportが開示されていますので細かな業績はそちらから確認いただくことができます。ADMほど事業の詳細について触れている訳ではありませんが、四半期業績報告のプレゼンテーションから情報を掴むことはできます。
ブンゲのコアセグメントにおける取扱数量のハイライトです。ブンゲには4つの事業セグメントがありますが、「Sugar and Bioenergy」はノンコアのためこの数字には含まれていません。
AgribusinessセグメントにおけるProcessingの数量は当該期間中に油糧種子を圧搾(加工)した数量であり、一方Merchandisingは第三者への販売数量となります。Refined and Specialty Oils (精製油・特殊油脂)セグメントの数量は、第三者への販売数量を示しています。Milling (製粉)セグメントの数量は、ある期間中に製粉された原料(穀物等)の量を示しています。
このように見るとブンゲの事業において油糧種子の取扱数量が圧倒的に大きいことが分かります。
次の図では主要事業であるアグリビジネスの取扱数がどのような意味を持っているかを定義した文章が記載されています。こちらでより取扱数量の持つ具体的な意味が分かるのではないでしょうか。
Processing(加工)
- Oilseed origination(油糧種子の調達)
- 油糧種子(大豆、菜種/キャノーラ、ひまわりの種など)の買付、選別、乾燥、保管、ハンドリング
- Oilseed processing(油糧種子の加工)
- 大豆(Soybean): アメリカ合衆国、南米、欧州、アジアで加工
- 菜種/キャノーラ(Rapeseed/Canola): 欧州、カナダで加工
- ひまわりの種(Sunseed): 東欧、アルゼンチンで加工
- Oilseed trading & distribution(油糧種子の取引・流通)
- 油糧種子、たんぱく質原料(ミール)、植物油のグローバルな取引・流通
- Fertilizer production and distribution(肥料の製造・販売)
- 一部地域で肥料事業も展開
- Biodiesel production(バイオディーゼルの生産)
- 一部ジョイントベンチャー(JV)を通じて実施
Merchandising(マーチャンダイジング)
- Grain origination(穀物の調達)
- コーン(トウモロコシ)、小麦、大麦などの買付、選別、乾燥、保管、ハンドリング
- Grain trading & distribution(穀物の取引・流通)
- 穀物および植物油の世界的な取引・流通
- Related services(関連サービス)
- Ocean freight(海上輸送)
- バルク船などを使用した海上輸送サービス
- Financial services(金融サービス)
- 価格リスク管理や貿易金融などを含む
カーギル(Cargill)
カーギルは非上場企業のため公開されている情報が少なく、事業の全体像が把握しづらいという難しさがあります。限られた情報にはなりますが、CargillもAnnual Reportから情報を取得していきたいと思います。
カーギルについて取得できる量的な概要は上図の内容となります。ただこれだけでもカーギルの営んでいるビジネスの大きさがとてもよく分かります。
- 160K+ employees(16万人以上の従業員)
- operating in 70 countries(70か国で事業展開)
- selling to 125 markets(125の市場へ製品を提供)
- 159 years of experience(159年の経験)
- $160B annual revenues(年間売上高1600億ドル)
定性面で見てもネスレとマクドナルドという食品最大手の2社との事例が掲載されていることが、カーギルのブランドを感じさせます。
カーギルとネスレのビジネスはネスレの主要商品であるキットカットのためにカカオ原料を提供しているというものですが、よりサステナブルな取り組みとして古いカカオの殻を低排出型の肥料に転換するという取り組みを行っているそうです。
またマクドナルドは2025年までに米国で使用する卵を100%ケージフリー(鶏をケージに入れない飼育環境)で生産されたものに切り替えるという決定を下しました。カーギルはマクドナルドと米国の卵生産者の間をつなぎ、ケージフリー卵の供給網を構築することで、目標より2年早く100%ケージフリー卵に切り替えることができたと報告しました。
穀物メジャーの取り組みは常に環境負荷やサステナビリティの問題がついて回りますが、上記のような課題解決力だけでなく、持続可能性や社会的責任に重きを置いた事業展開を行っていることを発信しています。
ルイ・ドレフュス(LDC)
最後はLDCです。LDCも統合報告書が情報源としては最も詳しく事業を理解できるでしょう。
LDCは、世界各地の専門知識やネットワークを活かしながら、約8,000万トンにおよぶ農産物を調達・加工・輸送し、必要とされる場所へ届けています。サステナブルなソリューションの開発に力を入れ、農家や生産者、パートナーと連携しながら価値を創出する複雑なバリューチェーンを支えています。
- 従業員数: 約 18,000 名
- 事業地域: 6地域(北米、南米、欧州・中東・アフリカ、北アジア、南・東南アジア、豪州など)
- 拠点のある国: 100ヵ国以上
- 事業セグメント: 10のプラットフォーム(Value Chain platforms + Merchandizing platforms)
- 年間取扱量: 約 8,000万トンの農産物・製品を世界中に出荷
- ビジネスモデル:
- 主に農産物に特化し、調達・加工・物流・リスク管理などを垂直統合。
- 新興市場(特にアジア)への販売が全体の70%を占める。
LDCの持つバリューチェーンの主なステップは以下の通りです。
- Originate & Produce(原料調達・生産)
- 世界的なネットワークを通じ、農家や生産者との連携・指導・ノウハウ共有を行い、必要な原料を確保。
- Process & Refine(加工・精製)
- 調達した農産物を、高品質な製品に加工・精製。
- 例: 穀物や油糧種子の圧搾、フルーツのジュース加工、綿花の取扱いなど。
- Store & Transport(保管・輸送)
- バリューチェーン全体を通して、効率的な物流・倉庫管理を実施。
- 世界各地の倉庫や港湾施設、輸送手段を駆使して、農産物の鮮度や品質を維持。
- Research & Merchandize(研究・商品化)
- 市場動向や需給を分析し、顧客に安定供給を行うための販売戦略を策定。
- 商品化のノウハウを活かし、グローバルでのトレーディングおよび流通を支える。
- Customize & Distribute(製品化・流通)
- 多様な顧客ニーズに合わせて製品をカスタマイズし、マルチナショナル企業から地場企業、消費者まで幅広く供給。
主な事業ラインは以下の通りです。
- Coffee(コーヒー)
- Cotton(綿花)
- Food & Feed Solutions(食品・飼料ソリューション)
- Grains & Oilseeds(穀物・油糧種子)
- Juice(ジュース)
- Plant Proteins(植物性たんぱく質)
- Rice(米)
- Sugar(砂糖)
これらの資料を読み取ると、LDCが以下の4点を特徴として有していることがわかります。
- サステナビリティ: コーヒー・コットン・パーム・大豆など主要作物の生産過程で、森林破壊ゼロや再生型農業を推進。
- 戦略的成長: 4つの柱(トレーディング優位性・垂直統合・付加価値製品・イノベーション)に基づいて、買収や合弁、設備投資を展開。
- グローバル展開: 100カ国以上で事業を行い、新興国市場に強みを持つ。
- リスク管理とイノベーション: サプライチェーン全体でリスクを可視化・軽減しながら、デジタル技術やアグテック分野への投資を加速。