30 秒で見るマンガン
マンガン(Manganese、化学記号 Mn)は鉄鋼の脱酸・合金化で必須の素材で、EV電池のNMC正極材成分としても需要拡大しています。主要生産国は南アフリカ(約 40%)・ガボン(約 25%)・オーストラリア(約 9%)。鉄鋼用途が需要の90%以上、EV電池正極材として高純度マンガン(HPMSM)需要が急成長。USGS / CRU 引用ベース。マンガン鉱石は 2024 年平均 5.53 USD/metric ton unit、2025 年推計 4.50 USD/metric ton unit(冶金グレード 44% Mn、CIF中国、USGS MCS 2026)でした。電池グレード HPMSM は 2024 年中国スポットで概ね 1,000-2,000 USD/トン規模との報道があり、出典は Benchmark Mineral Intelligence など二次資料を参照ください。米国 Critical Minerals List 対象(IRA 30D 税控除では Critical Minerals の原産地・加工地要件、FEOC 制限の文脈で重要)、EU CRMA ではマンガンは Critical Raw Material、電池グレード高純度マンガン(HPMSM)は Strategic Raw Material として整理、日本は経済安全保障推進法の特定重要物資(重要鉱物・蓄電池サプライチェーン)
- 化学記号: Mn
- 主要用途: 鉄鋼合金(フェロマンガン)、EV電池(NMC正極)、化学品
- 鉱山生産国 TOP3: 南アフリカ(約 40%)・ガボン(約 25%)・オーストラリア(約 9%)
- 地理的集中度(TOP3 合計): 74%
- 日本の輸入依存度: マンガン鉱石、フェロマンガン、シリコマンガン、電解マンガン、二酸化マンガン、HPMSM では輸入相手国が異なる。鉱石では南アフリカ・ガボンなど、フェロアロイでは豪州・マレーシア・南アフリカなど、電池グレード HPMSM では中国依存が論点
- 重要鉱物指定: 米 Critical Minerals List: ✓ / EU CRMA: マンガン=CRM/HPMSM=Strategic / 日本 経済安保: ✓(重要鉱物・蓄電池サプライチェーン)
※ 本記事のデータソース: マンガンは World Bank Pink Sheet に月次価格データが無いため、価格動向は USGS / Benchmark Mineral Intelligence / 業界団体一次ソースを引用。生産・埋蔵量は USGS Mineral Commodity Summaries 年次、用途・サプライチェーン構造は USGS Mineral Commodity Summaries 2026 / IMnI、政策は各国一次ソース。詳細は §13 参照。
マンガンのプロファイル
マンガン(Manganese、Mn)は鉄鋼の主要合金成分で、世界粗鋼の 90% 以上にマンガンが含まれる。脱酸・脱硫・硬度向上の目的で使用。EV電池の NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)正極材としても需要拡大、特に高純度硫酸マンガン(HPMSM)の需要が急増。
- 化学記号: Mn(原子番号: 25(Mn)、密度: 7.43 g/cm³)
- 主要用途分野: 鉄鋼合金(フェロマンガン)、EV電池(NMC正極)、化学品
- 物理化学的特徴: 硬く脆い、鉄に類似した磁性、酸化耐性。フェロマンガン(Fe-Mn)・シリコマンガン(Fe-Si-Mn)として鉄鋼業で使用
- 歴史的経緯: 1774 年発見、19 世紀後半のベッセマー製鋼法で必須元素となる、20 世紀は南アフリカ Kalahari 鉱床発見で世界供給拡大、21 世紀は EV 電池 NMC 正極で再注目
マンガンの価格動向
マンガンは WB Pink Sheet で月次価格データを提供していません。価格動向は USGS / BMI / 業界団体等の引用ベースで把握する必要があります。USGS / CRU 引用ベース。マンガン鉱石は 2024 年平均 5.53 USD/metric ton unit、2025 年推計 4.50 USD/metric ton unit(冶金グレード 44% Mn、CIF中国、USGS MCS 2026)でした。電池グレード HPMSM は 2024 年中国スポットで概ね 1,000-2,000 USD/トン規模との報道があり、出典は Benchmark Mineral Intelligence など二次資料を参照ください。
グローバル生産・埋蔵量分布
マンガンの主要鉱山生産国と主要埋蔵国 を USGS Mineral Commodity Summaries(2026(2024 年実績・2025 年推計) 版)から整理します。生産集中度(簡易 HHI)は 約 2,400(高い)、上位 3 国合計シェアは 74%です。鉱山採掘は南ア + ガボン + 豪で約74%、フェロマンガン精錬は中国が世界の約60%、電池グレード HPMSM は中国90%以上の集中。
主要鉱山生産国(2026(2024 年実績・2025 年推計))
| 順位 | 国 | シェア | 生産量 |
|---|---|---|---|
| 1 | 南アフリカ | 40.1% | 749 万トン |
| 2 | ガボン | 24.8% | 464 万トン |
| 3 | オーストラリア | 8.6% | 160 万トン |
| 4 | ガーナ | 6.8% | 128 万トン |
| 5 | インド | 3.9% | 73.1 万トン |
| 6 | ブラジル | 3.8% | 70.5 万トン |
| 7 | 中国 | 3.7% | 69.0 万トン |
| 8 | コートジボワール | 1.8% | 34.0 万トン |
主要埋蔵国
| 順位 | 国 | 埋蔵量 |
|---|---|---|
| 1 | オーストラリア | 5.8 億トン |
| 2 | 南アフリカ | 5.5 億トン |
| 3 | ブラジル | 3.0 億トン |
| 4 | 中国 | 2.6 億トン |
| 5 | ガボン | 6,100 万トン |
| 6 | インド | 3,400 万トン |
| 7 | ガーナ | 1,300 万トン |
本記事の鉱山生産量は USGS MCS の manganese content(マンガン含有量)ベースです(鉱石総重量ではなく、マンガン含有量で国別比較)。埋蔵量も同様にマンガン含有量ベース。
※ USGS では、鉱物によって 埋蔵量(reserves)と資源量(resources)、また 鉱石量(gross weight)と金属含有量(contained metal)が分けて示されます。本記事の表は USGS 公表値の表記単位(reserves ベース)に準拠しています。国別比較は同一定義で確認してください。
需要動向・主要用途
マンガン需要の 90% 以上が鉄鋼合金、EV 電池が成長分野
| 用途 | シェア | 備考 |
|---|---|---|
| 鉄鋼合金(脱酸・硬化) | 92% | 世界粗鋼の 90% 以上に含有 |
| 非鉄合金 | 3% | アルミ合金・銅合金 |
| EV 電池(NMC 正極) | 2% | 急成長、2030 年までに 10% 予測 |
| 化学品(電解二酸化マンガン) | 2% | アルカリ乾電池 |
| その他 | 1% | — |
構造的拡大要因: EV 電池 NMC 需要拡大、HPMSM 精製能力拡張
景気循環要因: 中国鉄鋼景気、世界粗鋼生産
サプライチェーン構造
マンガンのサプライチェーンは (1) 鉱山採掘 → (2) フェロマンガン精錬(鉄鋼向け)or HPMSM 精製(電池向け)→ (3) 鉄鋼 / 電池の流れ。電池グレードは中国精製がほぼ独占
⛏ 1. 鉱山採掘
主要企業: South32(豪 + 南ア)、Eramet(仏 Gabon)、Tshipi(南ア)、Anglo American(南ア)、伊藤忠(出資)
主要国・集中度: 🇿🇦 40% / 🇬🇦 25%
南ア Kalahari 鉱床が世界最大、ガボン Comilog(Eramet)が世界 #2、豪 Groote Eylandt も主要
🧪 2. フェロマンガン精錬
主要企業: 中国精錬所多数、Eramet、Ferroglobe、新日本電工(日)
主要国・集中度: 🇨🇳 精錬約 60%
中国が世界の約60%を精錬、日本は新日本電工が国内精錬の主力
🔋 3. HPMSM 精製・正極材
主要企業: 中国メーカー多数、Element 25(豪、米ルイジアナで HPMSM 計画を進めるが 2026 年時点で実行計画を見直し中)、Manganese X Energy(加)
主要国・集中度: 🇨🇳 HPMSM 90% 以上
電池グレード HPMSM は中国がほぼ独占、米国 IRA 対応で北米サプライチェーン構築が急務
⚠️ 中国の精錬集中度: 中国は鉱山採掘では数%程度に過ぎないが、フェロマンガン精錬約60%・HPMSM 精製 90% 以上で加工段階を支配。EV電池サプライチェーンの中国依存の隠れた論点
各国の重要鉱物政策
マンガンは EV 電池サプライチェーンで重要鉱物指定、特に電池グレード HPMSM の中国依存が論点
| 国/地域 | 重要鉱物指定 | 主要施策 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 経済安保推進法の特定重要物資(重要鉱物・蓄電池サプライチェーン) | 新日本電工の国内精錬維持、南ア・ガボン権益保有、HPMSM の脱中国調達検討 | 内閣府 参照 |
| 🇺🇸 米国 | Critical Minerals List 対象 | USGS Critical Minerals List で重要鉱物として位置付け。IRA 30D 税控除では Critical Minerals の原産地・加工地要件、FEOC 制限の文脈で重要。Element 25 の米国 HPMSM プロジェクト(ルイジアナ)へ DOE 融資、北米サプライチェーン構築(2026 年時点で Element 25 は実行計画を見直し中との報道あり) | USGS / DOE 参照 |
| 🇪🇺 EU | CRMA でマンガン=Critical Raw Material、電池グレード高純度マンガン=Strategic Raw Material | Eramet(仏 Gabon 鉱山)の活用、域内 HPMSM 精製投資 | EU 参照 |
| 🇿🇦 南アフリカ | 国家戦略物資 | 鉱業ロイヤルティ、BEE(黒人経済参画) | DMRE 参照 |
サプライチェーン リスク評価
マンガンのサプライチェーン上のリスクを 5 軸で評価します。
| 軸 | レベル | 具体的事象 |
|---|---|---|
| 地理的集中 | 中〜高 | 鉱山は南ア・ガボン集中、HPMSM 精製は中国 90% 以上 |
| 地政学 | 中 | 南ア電力(2022-2023 年に Eskom の loadshedding が深刻化、2024 年以降は改善傾向だが電力コスト・老朽石炭火力は依然リスク)、ガボン政情、中国精製依存 |
| ESG | 中 | 南ア・ガボン採掘の労働環境、フェロマンガン精錬の CO₂ 排出 |
| 代替困難性 | 高 | 鉄鋼合金では代替困難。EV 電池では LFP(Mn 不使用)の拡大で一部代替可能だが、NMC・LMFP・LMR など Mn を使う正極材もあり需要は不確実 |
| 価格変動 | 中 | 鉄鋼需要と連動、HPMSM は EV 電池技術で変動 |
補完・代替鉱物
鉄鋼用途はマンガン必須、EV 電池では LFP シフトで部分代替可
| 用途 | 代替候補 | 代替可能性 | コスト・性能トレードオフ |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼合金 | (代替困難) | 困難 | マンガン無しの鋼材は実用性なし |
| EV 電池正極 | LFP(鉄リン酸リチウム) | 中 | LFP は Mn 不使用、ただしエネルギー密度低 |
| 乾電池 | リチウムイオン充電池 | 中(実用化済) | — |
日本企業への影響
日本のマンガンサプライチェーンは商社主導の南ア・ガボン権益 + 新日本電工の国内精錬。EV 電池グレード HPMSM の中国依存解消が課題
- 権益保有: 伊藤忠が南ア Tshipi に出資(豪 Groote Eylandt=GEMCO は South32 60%/Anglo American 40% で日本勢の権益はなし)
- 国内精錬維持: 新日本電工がフェロマンガン国内精錬
- HPMSM 多角化: 中国依存解消のため Element 25 等への投資検討(Element 25 は 2026 年時点で実行計画見直し中との報道)
- LFP・LMFP・LMR の動向: LFP の拡大は Mn 需要を抑える一方、LMFP・LMR・NMC など Mn を使う正極材の動向次第で HPMSM 需要は左右される
日本の輸入依存度: マンガン鉱石、フェロマンガン、シリコマンガン、電解マンガン、二酸化マンガン、HPMSM では輸入相手国が異なる。鉱石では南アフリカ・ガボンなど、フェロアロイでは豪州・マレーシア・南アフリカなど、電池グレード HPMSM では中国依存が論点
関与する主要日本企業: 新日本電工等(フェロマンガン国内精錬)、伊藤忠(南ア Tshipi 権益)・三井物産(マンガン合金鉄取扱)
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マンガンに関連する、SCI 内の他シリーズ記事です。
関連国別貿易プロファイル
- 中国の貿易プロファイル — 精錬 60% + HPMSM 90%+
- 南アフリカの貿易プロファイル — 世界 #1 鉱山生産国
関連チョークポイント
- 喜望峰とは — 南ア → アジア輸送
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ鉄鋼にマンガンが必須なのですか?
A. マンガンは鉄鋼の脱酸(鉄に溶け込んだ酸素を除去)、脱硫、硬度・強度向上に不可欠です。世界の粗鋼の 90% 以上にマンガンが含まれており、粗鋼 1 トンあたり約 7-15kg のマンガン(フェロマンガン形態)が使用されます。
Q. HPMSM とは何ですか?
A. High Purity Manganese Sulphate Monohydrate(高純度硫酸マンガン一水和物)の略。EV 電池の NMC 正極材原料として 99.9% 以上の高純度が必要で、中国が世界精製の 90% 以上を占めます。米 Element 25 等が北米での HPMSM 供給計画を進めていますが、2026 年時点ではプロジェクト計画の見直しも報じられています。
Q. EV 電池のマンガン需要はどうなりますか?
A. EV 電池では、LFP(鉄リン酸リチウム、Mn 不使用)の拡大はマンガン需要を抑える一方、NMC 系、LMFP(マンガンリチウム鉄リン酸)、LMR(マンガンリッチ)などマンガンを使う正極材の採用が広がれば HPMSM 需要を押し上げます。需要は LFP・NMC・高マンガン系正極材のシェアによって変動します。
Q. 日本のマンガン調達は安定していますか?
A. 鉄鋼用途は南ア・ガボン・豪からの安定調達と新日本電工の国内精錬で安定しています。電池グレード HPMSM は中国依存が課題で、Element 25 等への投資で多角化を進めているものの、Element 25 自体が 2026 年時点で実行計画を見直し中との報道もあり、時間がかかる見込みです。
Q. 南アフリカの電力状況のマンガンへの影響は?
A. 南アフリカでは 2022-2023 年に Eskom(国営電力)の loadshedding が深刻化し、鉱山・精錬業に影響しました。2024 年以降は供給安定化が進み、報道では 300 日以上 loadshedding なしと伝えられていますが、電力コスト、老朽設備、産業用電力契約は引き続き精錬業のリスクです。世界マンガン鉱山生産の約 40% を握る南ア供給が再び不安定化すると、世界価格に直接影響します。
データソースと注記
- 価格時系列: World Bank Pink Sheet では当該鉱物の月次価格を提供していないため、本記事の価格動向は USGS / Benchmark Mineral Intelligence / 業界団体等の引用ベースです
- 生産・埋蔵量: USGS Mineral Commodity Summaries(2026(2024 年実績・2025 年推計) 版、Public Domain)。本記事では国別生産量の整合性を保つため USGS MCS 2026(2024 年実績)を基準年として集計しています(2025 年は推計値が併記されています)。最新版が公表された場合、数値は順次更新します
- 用途別需要: USGS Mineral Commodity Summaries 2026 / IMnI の最新統計。出典は本文中の図表注釈に明示
- 政策情報: 各国政府・規制当局の一次ソース。各国政策は頻繁に更新されるため、最新状況は出典先で確認
- 地理的集中度(HHI): 簡易版(シェアの 2 乗和、データなし国を除いた残余込み)。USGS の上位国シェアを基に計算した参考値
- サプライチェーン構造: 鉱山 → 精錬 → 加工 の各段階で集中度が異なるため、本記事は段階別に解説
- 本記事の役割: 調達担当者向けの俯瞰把握用。個別取引・契約判断には別途一次ソースとの照合を推奨
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