はじめに

景気の動きを判断する経済指標の一つに「PMI(購買担当者景況指数)」があります。PMIは新聞やニュースでもよく取り上げられ、景気動向を占う指標として広く注目されています。たとえば、最近の報道で「製造業PMIが48.3と低下」といった数字を見た人もいるでしょう。この記事では、PMIの基本的な意味と仕組みをやさしく解説し、製造業PMIとサービス業PMIの違いや注意点、さらに最近の日本と米国のPMI動向を例にして紹介します。

PMIとは

PMIは「Purchasing Managers’ Index」の略で、日本語では「購買担当者景況指数」と呼ばれます。製造業やサービス業で調達(仕入れ)を担当する責任者にアンケート調査を行い、その回答結果をもとに算出する景気動向指数です。具体的には「生産量」「新規受注」「受注残」「雇用」「仕入価格」「販売価格」「在庫」などの項目について、「前月より増えたか」「変わらないか」「減ったか」を質問し、その回答割合に一定のウェートを掛けて指数化します。中でも製造業PMIは、製品の需要動向や取引先の状況を読み取って先行して仕入れ判断を行うため、今後の経済動向を示す先行指標とされています。世界各国でほぼ同じ方式で算出されており、GDPなど他の指標より先に発表されるため、市場でも注目度が高い指標です。

PMIでは「50」を景況判断の分岐点としており、50を上回れば景気が拡大している(良い)と判断し、50を下回れば縮小している(悪い)と判断されます。つまり、PMIが60なら拡大ペースが速く、40なら縮小ペースが速いことを意味します。50ちょうどであれば「前月と同じ(変化なし)」と解釈します。このように、PMIは株式や債券市場の関係者、企業経営者、投資家に「現在・今後の景気動向」を早く教えてくれる指標として利用されています。

PMIの仕組みと読み方

PMIのアンケートでは、以下のような項目が調査されます。

  • 生産量(生産・生産能力の増減状況)
  • 新規受注(新しく受けた注文量の増減状況)
  • 受注残(まだ処理していない受注量の増減)
  • 雇用(従業員数・雇用の増減)
  • 購買価格(原材料や部品の仕入れ価格の変化)
  • 販売価格(製品・サービス価格の変化)
  • 在庫(手持ち在庫の増減状況)

調査対象の各企業は、これらの項目について「前月より増えた」「前月と変わらない」「前月より減った」の中から該当するものを回答します。これを基に割合を計算し、たとえば「増えた」と答えた企業の割合が多ければ指数は高くなり、「減った」が多ければ指数は低くなります。一般にPMIは「ディフュージョン指数」と呼ばれ、各回答の割合に応じて指数化します。

PMIは0から100の数値で表されます​。その解釈は次の通りです:

  • PMI > 50:経済活動が前月比で拡大している(景気回復・拡大)。
  • PMI = 50:経済活動が前月から変化なし(横ばい)。
  • PMI < 50:経済活動が前月比で縮小している(景気後退・停滞)。

例えばPMIが55であれば「半数以上の企業で活動が増えている」ことを示し、45なら「半数以上で活動が減っている」ことになります。50からの乖離が大きいほど、その分だけ景気の拡大・縮小の勢いが強いと判断できます。このようにPMIは前月比の「増減」を示す指標なので、発表された月の前月の景気動向を示す速報的な風向計として使われます。

製造業PMIとサービス業PMI

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製造業PMIは、工場やモノづくり企業の購買担当者を対象とした指数です。製造業では部品や原料の仕入れが活発になるほど生産も増えるため、製造業PMIの動きは経済全体の先行きを占う手掛かりになります。日本では「auじぶん銀行(S&Pグローバル)」が製造業PMIを毎月発表しています。例えば、2025年3月の日本の製造業PMIは48.3で、前月(49.0)からさらに低下し、1年ぶりの低水準になりました。50を9カ月連続で下回っており、製造業活動が縮小を続けていることを示しています。このように製造業PMI < 50であれば「工場の稼働・生産が弱くなっている」と判断できます。

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一方、サービス業PMIは小売り、金融、IT、飲食、運輸などの非製造業(一般にサービス業と呼ばれる分野)の購買担当者を対象にしています。サービス業は内需(国内需要)に密接に結びついているため、製造業に比べると景気の変動が緩やかな傾向があります。日本の場合、2025年3月のサービス業PMIは49.5で、4月は52.2まで回復しました。4月の52.2は50を上回りサービス業拡大を示しています。このように、日本では最近、製造業PMIは景気分岐点の50を下回り続ける一方、サービス業PMIは50付近で横ばいから回復する傾向が見られます。米国でも同様に、サービス業(非製造業)の比重が経済の約3分の2と大きく​、一般にはサービス業PMIの動きも景気判断の重要な要素とされています。

PMIの重要性と限界

PMIは先行指標として重要視されています。投資家や企業経営者は、PMIのトレンドを参考にしてGDP(国内総生産)や生産・雇用の見通しを予測します。実際、PMIは公表が早いため、政策決定者や金融市場も速報的な景気判断材料として注目します。たとえば、S&Pグローバルのレポートによると、PMIは経済活動(GDPや工業生産、雇用)に先んじて反応するため、事前に景気の勢いを示唆することが多いとされています。このため、「株価」や「為替」などがPMIの発表を受けて大きく変動することもしばしばあります。

しかしPMIにも限界があります。まずPMIは調査による指数であり、実際の生産額や売上高などではなく、あくまで企業の購買担当者の主観に基づく「感触」の数値です。回答する企業の数や業種内訳によって結果が左右されることや、企業ごとの判断基準が異なることがあるため、実際の統計とはずれが生じる場合もあります。また、米国の例を挙げると、製造業は全GDPの約10%程度しか占めておらず、製造業PMIだけではサービス中心の経済全体を十分に表せない側面があります。さらにPMIは月次で変動するため、短期的なブレや季節要因にも注意が必要です。つまり、PMIは有用な景気指標ではあるものの、他の経済指標や背景情報と合わせて総合的に判断することが大切です。

最近の日本・米国のPMI動向

日本と米国の最近のPMIニュースを事例に、PMIの見方を解説します。日本では2024年後半から製造業PMIが50を下回る状況が続いていました。2025年3月は前述の通り48.3、4月も48.5と低水準でした​。一方サービス業PMIは3月に49.5とわずかに50割れだったものの、4月には52.2まで回復しました。このように日本では「製造業の停滞」と「サービス業の比較的安定」という二極化した動きが見られました。アナリストは、製造業PMIの低迷を米国の関税問題や世界経済の弱さなどと結び付けており、逆にサービス業の堅調さは国内需要の底堅さが支えていると指摘しています。いずれにせよPMIが50を下回っていることは「実際に工場出荷やサービス受注が減っている可能性が高い」ことを示すサインといえます。

米国では2025年3月のサービス業PMI(非製造業PMI)が50.8と、この9カ月で最も低い水準になりました​。ISM(供給管理協会)の発表によれば、これは前月の53.5から大きく低下した値です。50割れには至らなかったものの、この下落は「景気拡大の勢いが弱まっている」ことを意味します。ロイター報道によれば、この結果は消費・企業動向の低迷や関税問題への懸念とも重なり、「景気後退の確率が高まっている」(recession odds have risen)との見方が出ています。実際、米経済研究所ゴールドマン・サックスの試算では、こうしたPMIの低下などを受けて今後12カ月間の景気後退確率は従来の20%から35%に引き上げられました。また2024年3月には米製造業PMIが49.0まで落ち込んだと報じられ、景気が「収縮」にあることを示しました​。これらの報道例からも分かるように、PMIの50の上下動は市場や政策担当者に「景気の強さ・弱さ」を端的に伝え、現在抱えている経済リスク(高インフレや貿易摩擦など)と相まって景気後退懸念の判断材料となることがあります。

まとめ

PMI(購買担当者景況指数)は、企業の購買担当者に対するアンケートを基に算出される景気動向指数です。特に製造業PMIは先行性が強く、経済活動の変化を真っ先に映し出します。PMIは50を基準に拡大・縮小を判断し、発表のタイミングが早いため、経済や金融の現場では「先行きの指標」として重宝されています。一方で、PMIは調査サンプルに限りがあり回答者の主観による要素もあるため、必ずしも他の経済指標と完全に一致しません。そのためPMIの数字だけで一喜一憂するのではなく、GDPや雇用統計など他指標の動向も合わせて考えることが重要です。最近の日本や米国の例でも示したように、製造業とサービス業のPMI動向は国や状況によって異なりますが、いずれも50を下回れば景気の減速・後退局面の可能性が高まるサインです。経済ニュースでPMIの数値が伝えられた際には、その背景にある業種別の動きや他の経済指標と併せてチェックする習慣を持つとよいでしょう。