こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)本記事ではトランプ米国大統領が発令した【相互関税】をできるだけわかりやすく解説していこうと思います。

はじめに

国と国との間では、日々さまざまな貿易(ぼうえき)が行われています。貿易とは、異なる国同士で商品やサービスを売買することです。私たちが普段手にする海外の商品も、この貿易によってもたらされています。しかし、貿易にはしばしば国が介入し、輸入品に関税(かんぜい)という税金をかけることがあります。近年ではアメリカと中国の間で互いに関税をかけ合う貿易摩擦(ぼうえきまさつ)が起こり、「相互関税」という言葉がニュースで注目されました。この記事では、「相互関税」とは何かを、高校生にも理解できるレベルでやさしく解説します。まず関税の基本的な役割を説明し、次に相互関税が起きる仕組みとその影響を見てみましょう。そして最後に、2018年以降の米中貿易摩擦の事例を取り上げて、相互関税がどのように発生し、どんな影響を及ぼしたのかを考察します。

Customs Office

相互関税とは

相互関税とは、一方の国が高い関税を課している場合に、相手国も対抗して同じ水準の関税を課すことを意味します。簡単にいえば、「相手が〇%の関税をかけてくるなら、こちらも同じ〇%の関税をかけ返す」という対応策です。これは貿易相手国との間で関税負担を対等にしようとする考え方であり、英語では「Reciprocal Tariff(報復的な同等関税)」とも呼ばれます。例えば、ある国が自国製品に対して10%の関税を課しているなら、相互関税の考えでは自国もその国からの輸入品に10%の関税をかけることになります。2018年当時、アメリカのトランプ大統領がこの相互関税を導入する考えを示し、「もし相手国がアメリカに税金や関税を課すなら、アメリカも相手国に全く同じ税金や関税を課す」と発言しました。つまり「やられたらやり返す」関税政策です。

注意しておきたいのは、「相互関税」という言葉は特定の政策を指す場合もありますが、一般には互いに関税をかけ合っている状態そのものを指すこともあります。後述する米中貿易摩擦のように、両国が報復し合って関税を次々と課す状況も広い意味で「相互関税」と言えるでしょう。では、そもそも関税とは何で、何のために課すのでしょうか。次に関税の役割について基本から整理します。

関税の役割

関税とは、外国から輸入される商品に対して課される税金のことです。例えば海外から1万円の品物を輸入する際、関税率10%であれば輸入者は1,000円の税金(関税)を納めなければなりません​。この関税は商品価格に上乗せされ、最終的には消費者が負担することが多くなります。関税には大きく分けて2つの目的や役割があります。

  1. 国内産業の保護:関税をかけると輸入品の価格が上昇するため、外国産の商品が自国の市場で売れにくくなります。その結果、自国の企業や産業が安い輸入品との競争にさらされることを防ぎ、国内産業を守る効果があります。例えば農産物に高い関税をかければ、海外から安い農産物が大量に入ってくるのを抑え、国内の農家が経営しやすくなります。政府が輸入品に関税を課すのは、自国企業の競争力が極端にそがれないようにするためなのです。このように国が輸入に制限を加えて自国産業を守ろうとする政策を保護貿易(ほごぼうえき)といいます。保護貿易では、高い関税を課したり輸入数量の制限を設けたりして、外国からの安価な商品による国内産業への打撃を避けようとします。
  2. 財政収入の確保:関税は国にとって貴重な収入源にもなります。輸入される品物ごとに税金を徴収できますので、国庫を潤す役割があります。特に歴史的には、他に税収の手段が少なかった時代において、関税収入は国家財政を支える柱となっていました。現代でも、一部の途上国では関税収入が政府歳入の大きな割合を占めています。

一方で、関税にはデメリットもあります。消費者の立場から見ると、関税によって輸入品の値段が上がるため、欲しい商品をより高い価格で買わなければならなくなります。選択できる商品が減ったり価格が高騰したりすることで、消費者の負担は増してしまいます。また、保護される国内産業側にも緊張感がなくなり競争力向上が遅れるといった弊害が指摘されます。

このように関税にはメリット・デメリットがありますが、基本的には各国が自国の経済状況に応じて適切だと考える関税率を設定しています。反対に、国家が貿易に一切介入せず関税も課さない状態を自由貿易と呼びます。自由貿易とは、できるだけ関税や輸入制限などの障壁を取り除いて、国と国との間で商品やサービスを自由に取引することです。自由貿易が促進されると、輸入品が安く手に入るため消費者や輸入業者にメリットがありますが、国内の生産者にとっては競争が激しくなるという側面があります。そのため現実には、各国は自由貿易保護主義(保護貿易)のバランスをとりながら、自国の産業育成や国民生活を守る貿易政策を追求しています。

相互関税が起きる仕組み

では、なぜ国同士が関税の掛け合い、つまり相互関税の状態に陥るのでしょうか。その背景には報復関税(ほうふくかんぜい)という考え方があります。報復関税とは、他国が自国に対して不当に高い関税引き上げや輸出制限などを行った場合に、それに対抗して自国も同様に関税を課す措置のことです。簡単に言えば、「あなたの国がうちの国の商品にそんなに重い関税をかけるなら、こちらもあなたの国の商品に仕返しとして関税をかけますよ」ということです。報復関税は貿易紛争における交渉手段や相手国への圧力として用いられます。

具体的な仕組みを見てみましょう。たとえば国Aと国Bがあり、国Aが自国の産業を守るために国Bからの輸入品に高い関税を課したとします。するとその関税のせいで、国Bの企業は国Aへの輸出が難しくなり、損害を受けます。これに対して国Bは「一方的に不利益を被って不公平だ」と感じ、今度は国Bが国Aからの輸入品に報復として関税を課すわけです。同じように高い関税をかけ返すことで国Aに対抗しようとするのです。このようにしてお互いに関税を掛け合う状態になると、もはや関税戦争あるいは貿易戦争と呼べる状況になります。国Aが関税をかけ→国Bが報復関税→さらに国Aが再報復…という具合にエスカレートしていく悪循環です。

貿易の国際的なルールを決めている世界貿易機関(WTO)では、本来加盟国に対し一方的な関税引き上げなどの制限を課しています。しかし実際には「相手もやっているから」「相手の措置が不当だから」という理由で、ルールの抜け穴を突いたり制裁関税の手続きを取ったりしながら、国同士が関税の報復合戦に踏み切ることがあります。特に自国の経済が打撃を受けるような貿易相手の措置に対しては、自国民へのアピールとしても強硬策を取らざるを得ないことがあるのです。

歴史的に見ても、関税の報復合戦が世界経済に悪影響を及ぼした例があります。有名なのは1930年代の世界恐慌期、アメリカがスムート=ホーリー関税法で高関税政策を取ると、各国が報復関税を課しあって世界貿易が縮小し、不況が深刻化したとされるケースです。このような苦い教訓から、現代の国際社会では極力報復的な関税引き上げは避け、WTOの枠組みの中で協議・解決することが望ましいとされています。しかし21世紀に入っても大国同士が貿易摩擦を起こし、相互に関税を掛け合う事態は起きています。その典型例が次に述べる米中貿易摩擦です。

貿易1

相互関税の影響

国同士が相互に関税を掛け合うと、さまざまな影響が両国に生じます。まず直接的な影響として、輸入品に対する関税が上がるため物の価格が上昇します。関税分だけ輸入コストが増えるので、輸入業者はその負担を商品価格に転嫁せざるをえません。その結果、企業や消費者は以前より高い値段で商品を買うことになります。身近な例でいえば、スマートフォンに相互関税がかけられた場合、海外からの輸入コストが上がり、私たちが手にするスマホの価格も値上がりしてしまうかもしれません。また、関税が上がった商品の輸入量は減る傾向にあります。価格が高くなると需要(買いたい量)が減るためです。

他方、輸入品と競合する国内の産業には恩恵もあります。ライバルである外国製品の価格が関税で吊り上がるため、相対的に自国製品が売れやすくなります。相互関税の下ではお互いの国で保護主義的な状況が生まれ、関税に守られた業界は国内市場でシェアを伸ばすことができます。しかしその恩恵は一部の業界に限られ、経済全体で見るとマイナス面が大きいとされています。なぜなら、今度は輸出の面で不利益が生じるからです。相手国も報復関税をかけていますから、自国から相手国への輸出品にも高い関税が課され、売れにくくなっています。つまり、自国の輸出企業にしわ寄せがいくのです。結果として、両国ともに輸出が減少し、貿易全体の規模が縮小してしまいます。ある研究によれば、米中がお互いに追加関税を課したことは「当然ながら両国間の貿易を減少させた」と報告されています。相互関税のエスカレートは、互いの国の産業に部分的なプラスをもたらす一方、全体としては貿易量の減少と経済的損失を生むのです。

さらに長期的には、世界経済への影響も無視できません。大国同士の貿易戦争は世界のサプライチェーン(供給網)を混乱させ、関連国すべてに波及します。企業は関税を回避するため生産拠点を他国に移したり調達先を変えたりする必要に迫られ、効率的な生産や投資計画が乱れます。また貿易の不確実性が高まることで企業心理が冷え込み、設備投資の抑制や株価の不安定化を招くこともあります。消費者も物価上昇や製品不足の影響を受け、生活コストが上がる可能性があります。

要するに、相互関税は「損なう者同士の戦い」になりかねないのです。関税を掛け合った両国は、互いに相手に打撃を与えようとして結果的に自国の消費者や産業の一部にも打撃を与えてしまいます。こうした状況に陥ると、よほど関係が悪化しない限りは双方が話し合いで妥協点を探り、関税引き上げ競争をどこかで止めることが望ましいとされています。

関税の導入により価格と輸入量がどのように変化するかを示す概念図
関税の導入により価格と輸入量がどのように変化するかを示す概念図

図: 関税の導入により価格と輸入量がどのように変化するかを示す概念図。横軸は数量、縦軸は価格を表す。青い線Dは需要曲線、オレンジの線Sは供給曲線を示している。緑の破線(Pw)は関税がない場合の世界価格、赤の破線(Pw+Tariff)は関税を課した後の価格である。青色の両向き矢印の長さ(M0とM1)がそれぞれ輸入量を表しており、関税後(M1)には矢印が短くなっている。 図からわかるように、関税が導入され価格が上昇すると、輸入量(青矢印の部分)は大幅に減少します。これは輸入品が割高になり、国内の需要が縮小するためです。また価格上昇により国内の供給量(オレンジ線と赤線の交点)はやや増えています。相互関税の状況では、このような現象が双方の国で起こり、両国で貿易量が落ち込むことになります。

米中貿易摩擦の事例

2018年以降に起きた米中貿易摩擦(べいちゅうぼうえきまさつ)は、相互関税の代表的な事例です。これはアメリカと中国という世界経済を代表する二大国同士が関税の応酬を繰り広げたもので、大きな注目を集めました。

米中貿易摩擦の発端は、2018年に当時のアメリカ・トランプ政権が中国からの輸入品に対して高い関税(追加関税)を課したことでした。アメリカ側は、長年にわたる中国との貿易赤字(輸入額が輸出額を上回っている状態)の拡大や、中国による知的財産権の侵害・技術移転の強要といった不公正な貿易慣行を問題視していました。トランプ大統領は「中国との貿易は公平で相互的なものにすべきだ」と主張し、巨額の対中貿易赤字(当時アメリカの貿易赤字は総額約1.2兆ドルにのぼりました)を是正するための強硬策として高関税を発動したのです。具体的には、2018年7月以降、知的財産の盗用に対する制裁として中国からの幅広い製品に25%の追加関税を段階的に課していきました。

当然、中国もこの動きに黙ってはいません。中国政府はアメリカの関税措置は不当であるとして直ちに報復に乗り出し、アメリカからの輸入品に対して同等の関税を課し始めました。例えば中国は、アメリカ産の大豆や牛肉、自動車などに25%の報復関税を次々に発動しました。こうして米中双方がお互いに追加関税を掛け合う事態となり、関税の応酬がどんどんエスカレートしていきました。まさに相互関税による貿易戦争が現実化したのです。

米中貿易戦争の規模は非常に大きく、最終的にはアメリカが約5,500億ドル相当の中国製品に、そして中国が約1,850億ドル相当のアメリカ製品に関税を課すというところまで拡大しました。これは両国の貿易品目の大半に追加関税がかかったことを意味します。その影響は両国の経済に様々な形で現れました。

まずアメリカ側では、輸入品価格の上昇により消費者物価が上がり、一部の産業でコスト増が起きました。例えば自動車産業では、中国から調達していた部品に関税がかかり、生産コストの上昇要因となりました。また、中国からの安い輸入品に頼っていた業界(小売業など)は仕入れ価格上昇に苦慮しました。さらには、アメリカから中国への輸出品も売れなくなったため、農家をはじめ輸出に依存する産業が大きな打撃を受けました。その象徴的な例が大豆です。中国は報復措置として2018年7月にアメリカ産大豆に25%の関税を課しましたが、このため中国市場でアメリカ産大豆は競争力を失い、アメリカの大豆価格は急落しました​。大豆は中国向け輸出の代表的な品目だったため、米国中西部の大豆農家は「壊滅的な打撃」を受け、多くの農家が経営破綻の危機に瀕しました。政府は農家支援策を講じましたが焼け石に水と評される状況でした​。

一方、中国側でも影響は深刻でした。アメリカからの農産品や自動車、エレクトロニクス製品に高関税をかけたため、中国国内でそれらの商品価格が上昇しました。例えば中国は主な大豆輸入先をアメリカからブラジルなどに切り替えましたが、調達コストが上がり、豚肉の飼料価格や食品価格に影響が出ました。また、中国からアメリカへの輸出が減少したことで、中国沿海部の輸出産業や工場労働者にもマイナスの影響が出ました。実際、米中双方が追加関税を掛け合った結果、両国間の貿易額は大きく落ち込み、例えばアメリカの対中輸入額は2019年に前年比約16%減少しました。互いの市場を失った企業は対応を迫られ、他国への輸出先転換やコスト削減などの対策に追われました。

米中貿易摩擦は世界経済にも波紋を広げ、2019年頃には世界の貿易量の伸びが鈍化し、景気減速の一因になったと分析されています。各国の株式市場も貿易戦争の行方に神経質になり、関税合戦のエスカレート局面では株価が急落する場面も見られました。

このように緊張が高まった米中貿易戦争ですが、両国とも大きなダメージを受ける中で徐々に歩み寄りの動きも出ました。2019年末から協議が進み、2020年1月には米中両国が「第一段階の合意」と呼ばれる部分的な貿易協定に署名しました。中国がアメリカ産の農産物や工業製品を多く購入することなどを約束し、アメリカ側は追加関税の引き上げを見送るなど、貿易戦争の拡大に歯止めをかける内容でした。この合意によりひとまず米中間の相互関税合戦は停戦状態となりましたが、多くの関税はその後も残されたままで、依然として双方の貿易には高い関税がかかっています。

まとめ

本記事では相互関税について、基本から具体例まで解説しました。関税は「輸入品に課す税金」であり、国内産業の保護や財政収入確保といった役割を持ちます。一方で、関税の掛け合い(相互関税)は貿易相手国との対立を深め、互いの経済に打撃を与えるリスクが高いことがわかりました。相互関税がエスカレートすると、物価上昇や貿易量減少などの影響で両国の消費者や企業が損害を被り、世界経済にも悪影響が及びます。

米中貿易摩擦の事例は、相互関税の具体的な姿を示すものでした。政治的な思惑や不公平感から関税の応酬が始まりましたが、その結果はやはり双方にとって苦いものでした。最終的には対話による部分的な解決が図られ、貿易戦争は一段落しましたが、依然として課題は残っています。

グローバル化が進む現代において、一国だけが得をするような貿易政策を維持することは難しく、報復の連鎖は誰の利益にもなりません。相互関税のような状況に陥ったときこそ、冷静に相手国との交渉を行い、公平なルール作りや協調を目指すことが大切です。高校生の皆さんも、ニュースで関税や貿易摩擦の話題に触れる際には、これらの背景にある基本的なメカニズムと影響をぜひ思い出してみてください。世界の経済は相互に関係し合っており、対立ではなく協力によってウィンウィンの関係を築くことが望まれるという視点を持つことが、これからの時代に求められているのです。