世界の物流ニュースで「スエズ運河」という言葉を耳にすることがよくあります。エジプトにあるこの運河は、なぜこれほど重要視されるのでしょうか。また、もしこの運河で問題が起これば、どんなリスクが生じるのでしょうか。本記事では、スエズ運河の基本と日本への影響を中心に解説します。

本記事の内容は概要を動画でもご覧いただけます

スエズ運河の概要とその役割

【俯瞰】スエズ運河の位置
【俯瞰】スエズ運河の位置
【詳細】スエズ運河の位置
【詳細】スエズ運河の位置

スエズ運河とは:エジプト北東部に位置し、地中海と紅海を結ぶ全長約193kmの運河です。1869年に開通した人造の水路で、アフリカ大陸とシナイ半島(アジア)を分断する形で掘削されました。ロンドン~ムンバイ間の航路が大幅に短縮されるなど、ヨーロッパとアジアを最短で結ぶ海上ルートとして機能しています。スエズ運河経由ならば、例えばアラビア海(インド洋)からヨーロッパまでの航路距離は約8,800km短縮され、航海日数も大幅に減らせます。実際、スエズ運河の利用によりアジア~欧州間の航路は従来の喜望峰(アフリカ南端)経由よりも約1万km短くなり、往復では最大約14~25日の航海日数短縮と、数十万ドル規模の燃料節約につながると試算されています。

世界貿易における重要性:スエズ運河は単なる地域の水路ではなく、まさに世界の海上輸送の大動脈です。世界全体の貿易量の約12%(貨物ベース)がこの運河経由で運ばれており、コンテナ貨物に限れば世界全体の約30%が通過するとされています。年間通航船舶数は近年2万隻を超え、1日あたり50隻以上が往来することもあります。地中海とインド洋を直結する位置にあるため、欧州とアジアを結ぶ主要航路に欠かせない存在です。例えば日本からヨーロッパ向けに輸出される自動車や機械類も、多くがスエズ運河を経由します。また、中東産の原油・石油製品を欧州へ運ぶルートとしても重宝されており、この運河を通過する貨物の約23%はエネルギー資源(原油・石油製品)です。こうしたことから、スエズ運河は「世界の物流の要衝」と呼ばれています。

チョークポイントとしての脆弱性:一方で、スエズ運河はその重要性ゆえに「チョークポイント(ボトルネック)」とも言われます。つまり、ここが何らかの理由で通れなくなると代替が難しく、世界経済に大きな支障が出るのです。歴史上もたびたび運河の閉鎖や紛争が発生し、その度に国際貿易へ深刻な影響を与えてきました。例えば1956年の「スエズ危機」では、運河が約半年間閉鎖され、当時ヨーロッパ向けの原油輸送の3分の2に支障が出た記録があります。また近年では2021年3月、巨大コンテナ船が座礁して運河を約6日間塞いだ事故が記憶に新しいでしょう。この2021年のスエズ運河封鎖事故では、両端で400隻以上の船が立ち往生し、世界貿易の1割が一時ストップする事態となりました。推計で1日あたり1兆円規模の物流が滞留し、世界中で納期遅延や原油価格の乱高下が起きています。

こうした事例からも分かるように、スエズ運河は世界経済のライフラインであり、その安定運用がグローバルな供給網を支えています。それでは、現在この地域で高まっているリスク要因とは何でしょうか。そして万一スエズ運河が使えなくなった場合、具体的にどんな影響が考えられるのでしょうか。

スエズ運河通航船舶数
スエズ運河通航船舶数
スエズ運河通過船種別
スエズ運河通過船種別

紅海・スエズ周辺の地政学リスク(2025年現在)

フーシ派による攻撃と海上保険の高騰

近年、スエズ運河の南側に位置する紅海(こうかい)周辺での地政学的緊張が高まっています。特に2023年末以降、イエメンの反政府武装組織であるフーシ派による商船への攻撃が深刻な脅威となっています。フーシ派はシーア派系の武装組織で、イランの支援を受け約10年間にわたりイエメン政府と内戦状態にある勢力です。彼らはイスラエルや米国への敵対を掲げており、2023年10月に起きたイスラエルとパレスチナ(ハマス)間の戦闘激化に呼応して、紅海を航行する商船への攻撃をエスカレートさせました。

具体的には、2023年11月以降にフーシ派は紅海・スエズ航路上で数十回に及ぶミサイルや無人機攻撃を行い、2024年に入ってもその脅威は続いています。紅海はアジア・欧州・中東を結ぶ重要航路であり、年間1兆ドル規模(約145兆円)もの商取引が行われる地域です。フーシ派による無差別な攻撃はこの生命線を脅かし、実際に2023年10月からの数ヶ月で70隻以上の船舶が被害(沈没・拿捕・被弾)を受け、少なくとも船員4名が死亡しています。例えば2023年11月にはイギリス船籍・日本企業運航の自動車運搬船「Galaxy Leader」が紅海でフーシ派に拿捕される事件も起きました。このような状況に、世界の海運業界は緊張を強いられています。

フーシ派の攻撃激化に伴い、海上保険の戦争危険保険料(War Risk保険料)が急騰しています。紅海を航行する船舶は特別保険が必要ですが、2023年末には追加保険料率が船舶価値の0.7%程度だったものが、攻撃が頻発した直後には一時2%近くまで跳ね上がりました。これは大型船の場合、1回の航行で数百万ドル(数億円)の保険料に相当し、航行コストを大きく押し上げます。またリスク増大により一部の保険会社は紅海航路の引受け自体を停止しており、船会社にとっては「保険に入れないので航行できない」という事態も現実味を帯びています。「紅海で商船への脅威が大幅に高まった。特に米国やイスラエル関連の船にとっては危機的水準だ」と専門家も指摘しており、保険市場は依然として高リスク警戒を続けています。

海運各社の対応:喜望峰への迂回

安全確保のため、主要な海運企業は紅海ルートの利用を次々と停止しました。2023年末から2024年初頭にかけ、世界最大手のコンテナ船社(MSC、マースクなど)やドイツのハパックロイド、フランスのCMA-CGM、台湾のエバーグリーンといった各社が「当面、紅海・スエズ経由を避け、アフリカ南端の喜望峰経由に迂回する」と発表しました。日本の大手海運3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)も2024年1月以降、自社運航船の紅海通過を全面停止しています。実際、2023年末時点で世界の主要定期航路を運航する船会社のほぼ全てが紅海回避に踏み切ったと報じられました。

しかし、迂回ルートにも大きなコストが伴います。喜望峰(アフリカ南端)経由に変更すると距離が約4,000マイル(約6,400km)長くなり、航海日数で約10日余計にかかるとされます。当然、その分の燃料費が増大し、船員や船舶の稼働コストも上乗せされます。一方で紅海ルートを使い続ければ先述の通り保険料や危険が増すため、船会社は非常に難しい判断を迫られています。結局どちらを選んでもコスト高や遅延という「痛み」を伴い、脆弱な世界経済に追い打ちをかけると分析されています。

こうした迂回の動きにより、アジア~欧州間の海上輸送スケジュールは大混乱に陥りました。所定の寄港日に間に合わず一部の船が運航キャンセルとなったり、シンガポール・マレーシア・上海・バルセロナといった主要港で積み替えの渋滞が発生するなどの影響が報告されています。また海上運賃も急騰しました。2024年前半には一度落ち着いたものの、5月に再び上昇に転じています。例えば海運市況の指標では、40フィートコンテナ1本あたりの輸送コストが前年の2.3倍に跳ね上がったとのデータもあります。マースク社は緊急事態に備えて特別割増料金を設定し、「紅海の複雑な情勢が世界規模のサプライチェーンにもたらす波及効果が近月さらに強まっている」とコメントしています。実際、洋上輸送費の高騰や輸送遅延は、季節商品を扱う企業などに深刻な悪影響を及ぼしていると報じられています。

スエズ運河が封鎖・混乱した場合の影響

前述の紅海情勢は「紛争によるリスク回避」の例ですが、これは見方を変えれば「スエズ運河ルートが使えない場合」に何が起こるかを示しています。ここで改めて、スエズ運河が何らかの理由で封鎖・機能不全に陥った場合の影響を整理します。

航行ルートの延伸とコスト増:スエズ運河が使えない場合、船舶はアフリカ大陸南端の喜望峰を回るルートに切り替えるほかありません(パナマ運河経由ではヨーロッパ方面に直接行けないため)。喜望峰経由は距離・日数ともに大幅な追加負担となります。例えば、日本や中国からヨーロッパまでの往路で約7~10日、往復では2~3週間の余分な航海日数が発生します。距離にして往復で約1万3千km(片道で約6,500km)もの遠回りです。この結果、燃料消費量が増加し運賃コストが上昇するだけでなく、乗組員の労務や船舶メンテナンス費用もかさみます。試算では大型コンテナ船がアジア~欧州を喜望峰経由する場合、1往復あたり最大約100万ドル(1億数千万円)の追加燃料費が必要になるとの報告もあります。

物流の遅延とサプライチェーンへの打撃:航路延長はそのまま納期の遅延に直結します。Just-In-Time生産などサプライチェーンの効率化が進んだ現代では、2週間の遅れが工場の生産計画や在庫管理に与える影響は甚大です。特に季節商品や鮮度が求められる商品の輸送では機会損失につながりかねません。また、輸送時間が読めないことで企業は余分な在庫を抱える必要が出るなど、コスト増に波及します。2021年のスエズ運河事故時にも、運河再開後しばらく欧州の港湾でコンテナ滞留が発生し、荷捌きの混乱が数週間続いた例があります。世界的なコンテナ不足や製品納入遅延が重なり、最終的な経済損失は150~170億ドル(約1.6~1.8兆円)にのぼったと推計されています。

エネルギー価格への影響:スエズ運河は中東~欧州間の石油・天然ガス輸送ルートでもあります。そのため封鎖時にはエネルギー市場も敏感に反応します。2021年の事故時には「欧州向け原油供給が滞る」との懸念から原油先物価格が急騰しました(幸い運河再開が早まり一時的な値動きで収まりました)。しかし紛争などで長期閉鎖となれば、欧州諸国は中東産油を喜望峰経由で迂回輸入せざるを得ず、輸送日数増による供給遅延や運賃高騰が原油・LNG価格を押し上げる可能性があります。これは日本にとっても他人事ではなく、エネルギーの国際価格上昇はそのまま輸入コスト増やガソリン価格上昇など国内物価に波及し得ます。

保険料・危険コストの上昇:スエズ経由の航路が危険と判断される状況では、前述のように戦争保険料や危険手当が跳ね上がるため、運河が封鎖されていなくても事実上「使えない」事態になります。例えば2024年初には紅海航行の追加保険料が従来比で3倍近くまで上昇し、小規模船社には負担に耐えきれず航行断念せざるを得ないケースも出ました。このように、物理的封鎖だけでなくリスク増大も実質的な航路麻痺を招く点に注意が必要です。

日本企業・日本経済への具体的な影響

では、スエズ運河の混乱は日本にどのような影響を及ぼすでしょうか。ポイントごとに見ていきます。

輸出入コストと消費者物価:日本は欧州向け輸出入の大半を海上輸送に依存しており、その主要ルートがスエズ運河です。したがって運河経由が使えなくなると、日本企業は迂回による運賃コスト上昇に直面します。例えば自動車メーカーが欧州へ完成車を輸出する際、輸送費用が上がれば収益圧迫要因となりますし、場合によっては現地での販売価格に転嫁せざるを得なくなります。同様に、ヨーロッパから日本が輸入する機械部品や医薬品、チーズやワイン等の食品も輸送コスト増や遅延が発生し、国内の消費者物価をじわじわ押し上げるリスクがあります。実際、紅海情勢悪化に伴う海運費高騰は日本国内でも2024年に物価への影響が懸念されたところです。エネルギー価格高と相まって、輸入物価の上昇が家計に波及する可能性も指摘されています。

納期遅延とサプライチェーン寸断:日本企業の多くはグローバルに部品や原材料を調達しています。欧州や中東からの調達品でスエズ経由のもの(例えば欧州産の工作機械、化学製品、中東産の原料など)は、運送遅延によって製造ラインの停止や在庫逼迫を招きかねません。特に自動車や電子機器のサプライチェーンは複雑で、単一部品の遅れが全体の生産計画に影響します。2021年の運河封鎖時、日本企業でも「欧州向け積み荷が港で足止めとなり顧客への納品が遅れた」「必要な部材が届かず一部工場の稼働を調整した」といった事例が報告されています(※参照)。納期の信頼性低下は取引先との関係にも影響するため、日本企業はリスク管理に追われることになります。

在庫戦略とコスト増:上記のような遅延リスクが高まると、日本企業は通常より多めの在庫を確保する対策を取るでしょう。例えば欧州から輸入する原料が不安定なら、予備在庫を増やしておく必要があります。しかし在庫を積み増すことは保管コストや資金繰りの負担増につながり、企業収益を圧迫します。逆に在庫を持たず空輸(航空貨物)で急送すると、これも海上輸送に比べはるかに高コストです。緊急時には空輸も選択肢となりますが、重量物や大量貨物には現実的でないため、結局はコスト増を甘受するしかないケースが多いのです。

海運・物流企業への打撃:日本には大手海運3社(NYK、MOL、K-Line)があり、これらは定期船や自動車船で欧州航路を運航しています。スエズ運河経由の混乱は彼らの運航スケジュール再編や追加費用を招きます。前述の通り2024年初に日系3社は紅海経由停止を決めましたが、その結果、各社は通常より多い船舶と人員を投入しないと同じ輸送量を維持できなくなります(迂回で航海日数が延びるため)。これは効率低下による利益圧迫を意味します。また保険料高騰により戦争保険の付保コストも急増し、海運業界全体が試練にさらされている状況です。幸い2024年時点ではコンテナ運賃市況がコロナ禍後の落ち着きで低水準だったため、ある程度の上乗せは吸収されています。しかし今後さらなる混乱が長引けば、運賃上昇圧力が強まり日本の物流企業の業績にも影を落とすでしょう。

代替ルートと対策:喜望峰・陸路・空路

スエズ運河が使えない場合の代替ルートとしてはいくつかの選択肢がありますが、それぞれ課題があります。

  • 喜望峰周り:前述の通り、航路延長によるコスト・日数増が最大の難点です。それでも大型貨物をまとめて運べるという点で現実的な代替策ではあります。実際2024年時点でも多くの船会社がこのルートで対応しています。課題はソマリア沖~ギニア湾にかけての海賊・治安リスクですが、近年は国際的な取り締まりで海賊被害は減少傾向にあります。ただしアフリカ南端は悪天候も多く、「喜望峰(Cape of Good Hope)」が「希望峰」ではなく「嵐の岬」とも呼ばれるほど難所でもあります。天候不順による遅延リスクも考慮が必要です。
  • 北極海航路(北回り):地理的にはヨーロッパ・ロシア経由で極北を通り東アジアに至るルートも存在します。いわゆる北極海航路ですが、こちらは夏季限定であり、砕氷船など特殊な対応が必要です。またロシアを経由するため地政学リスクや国際情勢(制裁問題)も絡み、現実的な大規模代替とは言えません。
  • ユーラシア大陸横断鉄道・陸路:中国から中央アジア~ロシアを抜けて欧州に至る国際鉄道網(いわゆる「一帯一路」の鉄道ルート)も一部で利用されています。例えば日系物流大手は中国~欧州間の鉄道輸送サービスを2024年に開始し、喜望峰迂回に比べ約18日短縮できるとしています。ただし鉄道は積載量が船に比べ桁違いに少なく、大量輸送には不向きです。またロシア・ベラルーシ経由が中心のため、ウクライナ情勢などの影響で運行リスクもあります。中欧陸路ルートは補完的な手段にはなり得ますが、海運の完全な代替にはなりません。
  • 航空貨物:緊急対応として航空輸送は極めて有効です。実際、2021年のスエズ封鎖ではコンテナ積載の軽量品や重要部品を空輸に切り替えた企業もあります。ただし空輸はコストが高く、容量も限られるため、大量輸送の解決策にはなりえません。1トンあたりの輸送費は海上輸送の数十倍とも言われます。したがって「船が動かない期間だけ一時的に空輸でしのぐ」という応急策にとどまります。

以上のように、どの代替ルートにもコスト・時間・容量の制約が存在します。そのため根本的にはスエズ運河の安定確保が最も重要となります。では最後に、実際に直近で起きた出来事を例に、スエズ運河リスクが日本企業にどう影響したか見てみましょう。

事例:紅海での緊張と日本への影響

2023年末から2024年前半にかけての紅海情勢の緊迫化は、まさにスエズ運河リスクの現実例でした。日本企業や経済への影響も徐々に表れています。その主なポイントを振り返ります。

  • フーシ派攻撃の激化(2023年11月~):前述の通り、イスラエルとハマスの戦闘を機にフーシ派が紅海で商船攻撃を繰り返しました。日本企業関連では、11月に拿捕されたGalaxy Leader号が象徴的です。日本郵船が運航に関与する船が被害に遭ったことで、日本国内でもこの問題への関心が高まりました。「自社船員の安全確保が最優先」(MSC社コメント)という声が業界で上がり、日本政府も中東地域の情報収集や海賊対策部隊の警戒強化を図る動きにつながりました。
  • 日本企業の航路変更決断(2023年12月~2024年1月):フーシ派の攻撃がエスカレートすると、日本の海運各社は紅海航路の一時停止を決断しました。2024年1月には日本郵船・商船三井・川崎汽船が一斉に「当面は紅海を通らない」措置を取り、実際に運航中の船を途中で引き返させるケースもあったと伝えられます(※各社発表より)。この判断は輸送スケジュールに混乱をきたしましたが、乗組員と貨物の安全を守るためのやむを得ない対応でした。日本発着の定期航路でも遅延が多発し、フォワーダー(国際物流業者)は荷主に対し「納期遅延の可能性」を通知する事態となりました。
  • 保険・運賃市場への波及:紅海リスク増大により、日本企業が加入する海上保険も戦争危険担保の付保条件が厳しくなりました。2024年初頭には日本船舶にも追加保険料が課され、貨物海上保険料率も上昇傾向となりました。さらに運賃面では、アジア発欧州向けコンテナ運賃が一時急騰し、日本から欧州向けの輸送コスト見直しを強いられるケースも出ています。「紅海回避によるコスト増分をサーチャージ(附加料金)で徴収」といった対応を検討する動きもあり、これは最終的に日欧間貿易の価格に跳ね返る可能性があります。
  • 中東情勢と日本の安全保障:紅海での商船攻撃多発は、日本にエネルギーを供給するペルシャ湾~インド洋航路の安全確保にも一石を投じました。日本政府は自衛隊の中東派遣(海賊対処行動)を延長するとともに、2024年には有志連合による紅海の警戒作戦(米国主導の「プロスペリティ・ガーディアン」作戦)にも情報面で協力しています。また、日本の海上保安庁も関係国と海賊・テロ対策の情報交換を強化しており、官民でシーレーン防衛への意識が高まりました。

以上のように、紅海・スエズ運河の地政学リスクは決して遠い国の出来事ではなく、日本の物流・企業活動に直接影響を与える現実的なリスクです。今後もしスエズ運河が長期にわたり機能不全となれば、日本経済も輸出入の停滞や物価上昇など大きな打撃を受けるでしょう。

おわりに

スエズ運河は世界貿易の重要動脈であり、その安定運用は日本を含むグローバル経済に不可欠です。一方で、2020年代に入り紅海地域の紛争や船舶攻撃のリスクが顕在化し、運河ルートの脆弱性が改めて浮き彫りになりました。日本企業にとっても他人事ではなく、物流の多重化やリスクヘッジの必要性が課題として認識されています。幸い現在は米欧や関係各国の協調した取り組みにより、紅海の安全確保が進みつつあります。しかし地政学リスクは予測困難であり、「スエズ運河が使えなくてもビジネスを継続できるか」という視点での準備が今後ますます重要になるでしょう。

私たちの日常に届く製品や、日本から世界へ届ける製品が、遠く離れた中東の情勢に左右されていることは驚きかもしれません。しかし本記事で述べた通り、スエズ運河を巡る出来事は日本の経済活動と深く結びついています。グローバル経済の中で生きる以上、海外の物流リスクにもアンテナを張り、必要な対策を考えていくことが求められているのです。

引用