こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)皆さんは、サプライチェーンの状況や、サプライチェーン上の企業の状態が測れる経済指標があることをご存知でしょうか?

サプライチェーンの不安定さが叫ばれる昨今、国際的な動向を抑えることができる指標の読み方を理解できれば、今が過去と比べてどれくらいの切迫度なのか、その程度を正しく理解して対処することが可能です。是非一緒に学んでいきましょう。

グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)

グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)はニューヨーク連邦準備銀行が2022年に発表した、サプライチェーンの混乱の状況をより包括的に表現することを目的とした指標です。

GSCPI(グローバル・サプライチェーン圧力指数)は、経済状況に対する供給制約の重要性を評価し、それらの制約が時間とともにどのように進化するかを把握するために使用できます。COVID-19パンデミックの開始以来、サプライチェーンの運営は大きな問題となっており、この問題の深刻さを評価することは困難を伴っています。なぜなら、従来の指標は主にグローバルサプライチェーンの特定の側面に焦点を当てているからです。GSCPIは、グローバル輸送コストや7つの経済圏における地域の製造業調査のデータなど、一般的に使用される指標からの27以上の変数を統合し、1997年から現在までのサプライチェーン圧力の変化を追跡します。

ニューヨーク連邦準備銀行

GSCPIは以下の指標を変数として含んでいる複合的な指標です。アメリカを中心とした世界の「輸送価格」の上下、「PMI」の上下を軸とした指標になっており、簡単に説明すれば、輸送コストの推移と納期や在庫の推移からサプライチェーンの切迫度を表現した指標と言えます。

  • 輸送運賃
    • Baltic Dry Index (BDI)(ドライバルク運賃)
    • Harpex index(コンテナ運賃)
    • The cost of air transportation of freight to and from the U.S.(航空運賃)
  • 購買担当者指数(PMI)
    • サブ指数
      • “delivery time,”(供給者の納期)
      • ”backlogs,”(受注残)
      • ”purchased stocks,”(購入在庫)
    • エリア
      • 米国
      • ユーロ圏
      • 中国
      • 日本
      • 韓国
      • 台湾
      • 英国

GSCPIの計算方法

グローバルな輸送コストを反映するデータとして、2つの海運レートと航空貨物コスト指数を、また7つの主要な経済圏(ユーロ圏、中国、日本、韓国、台湾、英国、米国)から、PMIに関連する3つの指標(納期、未処理受注、購入在庫)のデータを収集します。

これらのデータは需要の変動に影響を受ける可能性があるため、PMIの「新規受注」や「購入数量」といったサブ指数を活用して回帰分析を行い、これらがどれだけ圧力指数やコストに影響するのかの影響を特定して、その需要要因の影響分を取り除きます。

輸送コスト変数に関しては、先ほどの「新規受注」PMIサブコンポーネントのGDP加重平均値と、同様に「購入数量」PMIサブコンポーネントのGDP加重平均値を使用します。後者は、企業が中間財(国内および国外の両方)に対する需要の程度を示すものです。国別のサプライチェーン指標と同様に、これら2つのGDP加重需要指標とそのラグを基にした回帰分析を行い、6つのグローバル輸送コスト指標からできる限り需要効果を除去します。

ニューヨーク連邦準備銀行

需要影響を可能な限り排除した各データセットは、Macroeconomic Forecasting Using Diffusion Indexesに基づいた主成分分析によって1997年~2021年の期間の共通要素を抽出し(この期間の平均値が標準偏差を算出する基準となります)、GSCPIが作成されます。指数は正規化されており、ゼロは指数が平均値にあることを意味し、正負それぞれ指数が平均値より何標準偏差上下しているかを示しています。

GSCPIの活用と意義

ニューヨーク連邦準備銀行

この情報の捉え方は、1997年から2021年までの各要素の平均値をベースに考えたときに、標準偏差いくつ分だけ、サプライチェーンに圧力が掛かっているか(正の場合圧力が高く、負の場合圧力が低い)を示したものになります。そのため、これまでの水準と比較して、今がどうなのかと捉えるのが良いでしょう。

そう考えると、いかにコロナ禍が異常だったかがわかります。±2標準偏差の中に95.4%,±3標準偏差の中に99.7%含まれる訳ですから、平均からそれだけ離れていた(+に圧力がかかっていた)ということは、97年から比較しても、統計上もなかなか見られない状況であったと裏付けされた訳です。

一方で2024年に入ってからの紅海におけるフーシ派の攻撃に端を発した海上輸送の乱れは、海上輸送単体での運賃の高騰と影響はあれど、GSCPIの観点ではそこまでサプライチェーンが圧迫しているとは言えないという指標の上での表現になります。

購買担当者景気指数(PMI )

続いて、GSCPIにもその一要素として登場した購買担当者景気指数(Purchase Manager Index)です。

S&Pグローバル(元々実施していたIHS Markitを2022年に買収)が実施している、製造及びサービス企業購買担当者を対象にした景況感のアンケート結果をまとめた指標です。

この指標は経済指標としてもよく利用されるもので、最大のメリットとして考えられているのは、「世界で標準化されているデータが入手でき」、「集計結果が早く公表される」ため、早期に景況感を把握できることにあります。

各国の製造業とサービス業の PMI 調査は、400 を超える企業の上級担当責任者(もしくは同等職)を対象とするアンケート調査への回答に基づいています。調査対象企業は、当該セクターの構成を適確に反映するよう厳選されています。
アンケートは各月後半に集計し、これをもとに Markit のエコノミストが調査結果をまとめます。調査対象企業は多数の変数について、商況が前月と比較して改善・横ばい・悪化のいずれであったかを、変動の理由と合わせて回答します。
景気動向指数は変数ごとに算出されます。指数は 0 から 100 の間で変動し、50.0 は「前月から横ばい」を表します。指数が 50.0 を超える場合は前月比での改善や増加を、50.0 未満の場合は悪化や減少を表します。指数が 50.0 の値からかい離するほど、変化率が大きいことを示します。
アンケートは以下の経済変数を網羅しています。

PMI_Brochure

日本では前身のIHS Markitの時代にじぶん銀行が提携し、日本PMIを「じぶん銀行日本PMI」として2019年7月1日から提供しています。(関連リリース

au じぶん銀行 日本製造業PMI

上図の通り毎月の企業購買担当者が感じる景況感がグラフで表現されています。指数は相対的なもので、0から100の間で変動し、アンケードで「前月から横ばい」と感じる場合は50.0、改善していると感じる人が多い場合は50.0から上がり、逆に悪化したと感じる人が多い場合は下がるという形で表現されます。50.0との乖離が大きければ変化率が大きいということになります。

PMIの算出方法

  1. アンケートの実施
    • S&Pグローバルが、製造業やサービス業などの企業の購買担当者に月に一度アンケートを送ります。
    • 質問は「生産量はどうですか?」「新しい注文は増えましたか?」「従業員数は増えましたか?」など。
  2. 回答の収集
    • 購買担当者たちは、「先月と比べてどうか」を答えます。選択肢は「増えた」「変わらない」「減った」の3つです。
  3. 回答の集計
    • すべての回答を集計して、各選択肢の割合を計算します。
    • 例えば、50%の担当者が「増えた」、30%が「変わらない」、20%が「減った」と答えた場合。
  4. 指数の計算
    • 以下の公式でPMIを計算します: PMI=(1.0×増えた割合)+(0.5×変わらない割合)+(0.0×減った割合)
    • 上記の例では、PMIは PMI=50+(0.5×30)+(0.0×20)=65 となります。
  5. 結果の解釈
    • PMIの値が50より大きいとき:経済が拡大していることを示します。
    • PMIの値が50より小さいとき:経済が縮小していることを示します。
    • PMIの値が50のとき:経済に変化がないことを示します。

調査タイプの概念

調査タイプによって、PMIの計算方法や指標が異なります。以下が主な調査タイプとその指標です。

  1. 製造業(Manufacturing)
    • ヘッドライン指数:購買担当者指数™ (PMI™)
    • サブ指数として以下を加重平均で計算:
      • 新規受注:30%
      • 生産量:25%
      • 雇用:20%
      • 供給者の納期:15%
      • 仕入れ在庫:10%

全体経済(Whole Economy)

  • ヘッドライン指数:購買担当者指数™ (PMI™)
  • サブ指数として以下を加重平均で計算:
    • 新規受注:30%
    • 生産量:25%
    • 雇用:20%
    • 供給者の納期:15%
    • 仕入れ在庫:10%

製造業にとってのPMI(購買担当者指数)は、いくつかのサブ指数を基に計算されます。これらのサブ指数は、製造業の経済活動のさまざまな側面を評価するために使用されます。それぞれのサブ指数の概念を以下に説明します。

製造業のサブ指数の概念

  1. 新規受注(New Orders)
    • 概念:企業が新しく受け取った注文の数。新規受注が増えると、製造業の活動が活発であることを示します。
    • 重み:30%
    • :企業が「先月と比べて新しい注文が増えましたか?」という質問に「増えた」と答える割合が多いほど、このサブ指数は高くなります。
  2. 生産量(Output)
    • 概念:企業が実際に生産した商品の量。生産量が増えると、製造業の生産活動が増加していることを示します。
    • 重み:25%
    • :企業が「先月と比べて生産量が増えましたか?」という質問に「増えた」と答える割合が多いほど、このサブ指数は高くなります。
  3. 雇用(Employment)
    • 概念:企業が雇用している従業員の数。雇用が増えると、企業が将来の需要に対して楽観的であることを示します。
    • 重み:20%
    • :企業が「先月と比べて従業員数が増えましたか?」という質問に「増えた」と答える割合が多いほど、このサブ指数は高くなります。
  4. 供給者の納期(Suppliers’ Delivery Times)
    • 概念:企業が仕入れる原材料や部品の納期の長さ。納期が短いほどサプライチェーンが効率的であることを示しますが、納期が長いほど需要が高く供給が追いついていないことを示します。
    • 重み:15%
    • 注意:他の指数とは異なり、納期が長くなると指数が高くなります。これは、需要が高く供給が追いついていない状況を示します。
    • :企業が「先月と比べて納期が長くなりましたか?」という質問に「長くなった」と答える割合が多いほど、このサブ指数は高くなります。
  5. 仕入れ在庫(Stocks of Purchases)
    • 概念:企業が保有する原材料や部品の在庫量。在庫が増えると、企業が将来の生産に備えていることを示します。
    • 重み:10%
    • :企業が「先月と比べて仕入れ在庫が増えましたか?」という質問に「増えた」と答える割合が多いほど、このサブ指数は高くなります。

上記が製造業における主なサブ指数ですが、一部のPMI調査に含まれるサブ指数も存在します。(引用:IHS-Markit-PMI-INtroduction

Input Prices(投入価格)、Output Prices(生産価格)、Backlogs of Work(未処理作業)、Future Activity(将来活動)、Quantity of Purchases(購入量)、Stocks of Finished Goods(製品在庫)、New Export Orders(新規輸出受注)、Purchasing Managers’ Index(購買担当者指数)

PMIの計算例

これらのサブ指数の結果を集計し、重み付け平均を取ることでPMIを計算します。例えば、各サブ指数が以下のように回答された場合:

  • 新規受注:60%の企業が「増えた」と回答
  • 生産量:55%の企業が「増えた」と回答
  • 雇用:50%の企業が「増えた」と回答
  • 供給者の納期:40%の企業が「長くなった」と回答(他のサブ指数と逆の計算)
  • 仕入れ在庫:45%の企業が「増えた」と回答

これらの重み付け平均を計算すると:PMI=(60%×0.30)+(55%×0.25)+(50%×0.20)+(40%×0.15)+(45%×0.10)=18+13.75+10+6+4.5=52.25

この場合、PMIは52.25となり、50を超えているため、製造業の経済活動が拡大していることを示します。

質問の重要性

これらの質問は、企業の経済活動のさまざまな側面を包括的に評価するために重要です。それぞれの質問項目は、以下のような理由で重要です:

  • 新規受注:将来の生産活動の指標となります。
  • 生産量:現在の生産活動の水準を反映します。
  • 雇用:労働市場の状況を示します。
  • 供給者の納期:サプライチェーンの効率と需要の強さを示します。
  • 仕入れ在庫:企業が将来の需要に備えているかどうかを示します。

これらの質問を通じて得られたデータを集計し、PMIとしてまとめることで、経済の現状と将来の動向を把握することができます。

バルチック海運指数

3つ目はバルチック海運指数です。こちらもGSCPIにも含まれる指数ですね。詳細は他記事でも詳しく紹介していますので、ここでは簡単に概念に触れていきます。

概要

バルチック海運指数、英語ではBaltic Dry Index(以下BDI)と表記され、ドライバルク船(主に、石炭、鉄鉱石、穀物を運ぶ船舶)の海運運賃指数として一般的な指標となっています。BDIはロンドンに本拠地を置くバルチック海運取引所が世界の海運会社やブローカーからドライバルクの外交不定期船運賃を収集し、1日1回発表しています。

最初の指数は1985年に発行され、1985年1月4日の1,000を基準として算定されています。今日のBDIはBaltic  Freight Index (BFI)の後継であり、1999 年 11 月 1 日に運用が開始されました。

ここで注意すべきなのは、バルチック海運指数はあくまでもバラ積み船と呼ばれる、鉄鉱石や穀物等、剥き出しの貨物を大量に輸送するための船で、コンテナを運ぶコンテナ船とは違うことに注意が必要です。コンテナ船の指数については後述します。

ドライバルク船の荷役イメージ 引用:Denys Yelmanovブランド:Getty Images

変動要因

バルチック海運指数の時系列グラフ
TRADING ECONOMICSより引用

運賃はどのように決まるのでしょうか。それは荷物を運ぶ需要と供給のバランスによって決まります。2008年BDIが10,000を超えたタイミングでは、中国の開発と成長が著しく、鉄鉱石輸入の需要が高まった影響で世界的な原料輸送のニーズが船舶や輸送の供給能力を大きく上回ったことで、運賃水準が飛躍的に高まりました。

一方で、同じく2008年に発生したリーマンショックの後の急激な経済の落ち込みや、リセッションが近いと言われる2023年1月現在の景況感の中では、BDIもボトムに近い水準で推移しています。足元の物の需要もそうですが、景気が低迷している中では企業の先行投資や生産・開発活動も抑えられる傾向にあり、これからの需要減少を織り込んだ生産計画の減少が物流量(荷物需要)を減らすという側面もあります。

バルチック海運指数の理解整理

バルチック海運指数は実態経済の先行指標として捉える見方ができます。BDIが高ければ鉄鉱石を活用した、建設やものづくりのニーズの高まり、石炭を活用した発電、エネルギー需要の高まり、穀物を活用した食料生産需要の高まりを捉えることができ、逆にBDIが低ければ、これらの活動がこれから低迷するという見方をすることができます。

上海輸出コンテナ運賃指数(SCFI)

バルチック海運指数に続いて、4つ目は上海輸出コンテナ運賃指数を取り上げます。BDIがバラ積み船の指数だったのに対し、SCFIはコンテナ線の指数になるので、より広範な商品の中国輸出に関する市況動向を掴むことにつながります。

概要

上海輸出コンテナ運賃指数(Shanghai Containerized Freight Index:SCFI)は、中国の上海から世界中の主要港へのコンテナ輸出の運賃を追跡する指数です。この指数は、中国の上海航運交易所(Shanghai Shipping Exchange)によって2009年に導入され、現在では国際貿易や物流業界における重要な指標となっています。

元々は(現在も)CCFIと呼ばれる中国輸出コンテナ運賃指数と呼ばれる前身指標がありますが、それをアップデートする目的があることと、上海は中国海運の中心地であり、主要港である上海発の輸出に焦点を絞った指標になっています。

計算方法

SCFIは、上海から出発する各航路の運賃を週ごとに収集し、そのデータを基に算出されます。運賃データは、上海航運交易所に登録されている海運会社や貨物代理店から提供され、次のような主要航路を含んでいます。

ヨーロッパ、地中海、米国西海岸、米国東海岸、ペルシャ湾、オーストラリア/ニュージーランド、西アフリカ、南アフリカ、南米、西日本、東日本、東南アジア、韓国

各航路の運賃データは、上海航運交易所が定める標準的なコンテナサイズ(20フィートおよび40フィートコンテナ)に基づいています。これらのデータは集計され、指数の基準値として設定された時点からの変動を示すように調整されます。

利用例と影響

SCFIは、様々な形で国際貿易や物流の現場で活用されています。以下にその主な利用例を挙げます:

  1. 市場動向の分析:荷主や物流企業は、SCFIを利用して現在の輸送コストのトレンドを把握し、輸送契約やコスト管理の戦略を立てます。
  2. 価格設定の参考:輸送業者は、SCFIの動向を参考にして運賃の設定を行います。運賃の急激な変動に対して迅速に対応するための指標としても重要です。
  3. 経済指標としての利用:投資家や経済学者は、SCFIのデータを用いて国際貿易の動向や経済活動の健全性を評価します。特に、輸送コストの上昇はインフレ圧力の一因となるため、マクロ経済分析においても重要なデータとなります。

一方で、SCFIにはいくつかの課題や限界も存在します:

  1. データの偏り:上海発のデータに基づいているため、他の地域発の運賃動向を完全には反映していない可能性があります。
  2. 運賃以外の要素:SCFIは主に運賃の変動を捉えていますが、燃料価格の変動や港湾の混雑状況など、他の重要な要素を考慮していません。

鉱工業指数(IIP)

最後に日本の経済産業省が出している、鉱工業指数を見ていきましょう。あまり馴染みのない指標かもしれませんが、日本の製造業の今を知る上では、とても重要な指標になります。

鉱工業指数(IIP)とは?

鉱工業指数(Index of Industrial Production: IIP)は、国の経済活動の一環として、鉱業、製造業、および電力業などの工業セクターの生産量を測定するための経済指標です。IIPは経済の健康状態を評価するために広く利用され、政策決定、経済分析、投資判断など多岐にわたる用途があります。

鉱工業指数には、以下のような系列があります。

  1. 生産指数:鉱工業生産活動の全体的な水準の推移を示します
  2. 出荷指数:生産活動によって産出された製品の出荷動向を総合的に表すことにより、鉱工業製品に対する需要動向を観察します
  3. 在庫指数:生産活動によって産出された製品が出荷されずに生産者の段階に残っている在庫の動きを示します
  4. 在庫率指数:在庫とその出荷の比率の推移をみることにより、生産活動により産出された製品の需給状況を示します
  5. 生産能力指数:製造工業の生産能力を、操業日数や設備、労働力に一定の基準を設け、これらの条件が標準的な状態で生産可能な最大生産量を能力として定義し、これを指数化したものです
  6. 稼働率指数:製造工業の設備の稼働状況を表すために、生産量と生産能力の比から求めた指数です
  7. 製造鉱業生産予測指数:生産計画をもとに先行き2か月の動向を把握できます

各指標の算出方法は、経済産業省のページで詳しく解説されています。こちらのリンクからご確認ください。

鉱工業指数の目的と重要性

指数の作成と利用(第9版)

鉱工業指数の主な目的は、工業セクターの生産活動の変動を把握し、経済の全体的なパフォーマンスを評価することです。鉱工業指数の作成思想はとても現実的かつ合理的であり、上記の引用図がそれを可視化したものになります。

日本には約41万もの鉱業や製造工業の事業体が存在し、それら事業体が、原材料を消費し、生産設備を使用して生産活動を行なっています。その生産工程に関する各プロセスの状態指標を示したものがIIPの持つ各指数であり、それぞれの数字を追いかけることで、現在の日本の工業生産における状態を知ることができます。

鉱工業指数の見方

鉱工業指数のしくみと見方 -入門スライド-

鉱工業指数は鉱業・製造業の動きを示す「数量指数」であり、価格変動は加味されていません。また、指数の基準時は2015年の1年間(1月〜12月)の平均値であり、2015年の平均に比べて、当該年当該月の生産数や出荷数、在庫数が多いのか、少ないのかを示すものになっています。

なぜこの数字が重要かというと、景気の動きに敏感だからです。景気が良ければ今後の需要を鑑みて生産を増やす、逆に景気が悪いと在庫が積み上がり減産に動くといった、景気に合わせた製造業の動きを反映する数字のため、先行指標として注目するべき指標です。

簡単に以下のように見るものと捉えておくと良いでしょう

  • 出荷指数
    • 景気拡大期:出荷数拡大
    • 景気後退期:出荷数縮小
  • 在庫指数
    • 景気拡大期:在庫数縮小、生産数拡大
    • 景気後退期:在庫数拡大、生産数縮小

品目別ウェイトと付加価値額

この鉱工業指数に採用されている品目は412項目あります。その品目は自動車のような高付加価値なものから、パーツ・部品に至るまで様々です。それらが全て同じモノとして同じ比率で指数かされると、生産実態として少しギャップが生まれそうなイメージはないでしょうか。

その点を解消するため、現在の生産指数は「付加価値額ウェイト」を用いており、結論付加価値の高いものの比重を高く反映しています。付加価値額とは、生産活動によって、新しく付加された価値を金額で著したものになります。

付加価値額 = 生産額 ー (原材料消費額等 + 機会設備減耗額)

      =粗付加価値額 ー 機会設備減耗額

指数の作成と利用(第9版)

例えば上記のような繊維工業の生産工程があったときには、

指数の作成と利用(第9版)

といった計算式になります。この20億円が、この産業全体で生み出した付加価値ということになり、国内全体で生み出した付加価値額は「国内純生産(Net Domestic Product)」と呼ばれ、国内総生産(GDP)よりも本質的には重要な指標ということができるでしょう。このようなロジックをベースに指数に重み付けされています。

まとめ

サプライチェーンにおける各指標の捉え方

最後にこれらの指標をどのように注目していけば良いかをまとめていきましょう。上図は一般的なサプライチェーンの流れを示したものです。

グローバル・サプライチェーン圧力指数位置付け

GSCPIはグローバルかつ、包括的な要素を含んでおり、正に全体のコンディションを捉える指標と言えるでしょう。調達もしくは顧客への輸配送に関するコストと調達におけるPMIの動向を反映しており、サプライチェーン上のボトルネックになりやすい部分の状態を反映した指標と言えます。

GSCPIは世界的な供給に関する状態が悪化していないかどうかを見る上で参考になりそうです。

購買者担当景気指数の位置付け

購買者担当景気指数については、サプライチェーン上のズバリ原料調達から製造部分における動向を捉えるために利用すべき指数です。インフレ影響や原料・資源・人件費価格について、最も早く現状を知る先行指標となり得るでしょう。

世界的に標準化された指数であり、各国の状態を把握する上でとても重要な指標です。

バルチック海運指数及び上海輸出コンテナ運賃指数の位置付け

この二つは純粋な国際間の輸配送に関するコスト面での指標として活用できます。直近のグローバル・サプライチェーン圧力指数はそこまで高まっていませんが、コンテナ運賃は特に高騰しており、運賃相場が高いと輸送スペースが確保されづらい等、単体で見るべき必要性のある指標と言えます。

また、鉄鉱石や穀物といったドライバルクはバルチック海運指数を、それ以外の商品はコンテナ指数をと、商材によって見るべき指標が異なることも改めて注意しておくべきでしょう。

鉱工業指数の位置付け

鉱工業指数のみ日本の製造業に特化した指標であることに注意が必要ですが、製造から出荷・在庫まで比較的細かいセグメント毎に今の状態を知ることができるのが、鉱工業指数の特徴です。

日本の貿易輸出金額の大部分を占める鉱工業の状態を定量的に把握する上で、鉱工業指数を知っておくと解像度をグッと高めることができるでしょう。