こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はフランスの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
フランスの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- フランスの産業は公務等社会事業が生み出す付加価値が最も高く、次いで小売・サービス業や専門・科学・技術サービス業が続いています。
- 時価総額のTOP10には上位に高いブランド力を誇るLVMH,エルメス,ロレアルがランクインし、その後シュナイダーエレクトリックやエアバスといった歴史ある製造業が続いています。
- 貿易収支は2023年でおよそマイナス20兆円の赤字となっており、詳細品目で終始黒字となっている項目は[第88類:航空機及び宇宙飛行体]がおよそ3.6兆円と黒字幅では最大ですが、その一方で赤字となっている[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]がおよそ15兆円を輸入しており、直近2年間で赤字幅も悪化傾向にあります。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。
フランスの基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。

人口
合計: 68,374,591
男性: 33,557,094
女性: 34,817,497人 (2024年推計)
気候
フランス本土:一般的に冬は涼しく夏は穏やかですが、地中海沿岸では冬は穏やかで夏は暑くなります。時折、ミストラルと呼ばれる北から北西の強い、冷たい、乾燥した風が吹きます。
フランス領ギアナ:熱帯性。高温多湿。季節による気温の変化が少ない。
グアドループ島とマルティニーク島:貿易風の影響で亜熱帯性。湿度はやや高い。雨季(6月から10月)。平均して8年に1度、壊滅的なサイクロン(ハリケーン)が発生しやすい。
マヨット島:熱帯性。海洋性。北東モンスーンの時期には高温多湿で雨季(11月から5月)。乾季は涼しい(5月から11月)。
レユニオン島:熱帯性だが、標高が高くなるにつれて気温が穏やかになる。涼しく乾燥している(5月から11月)、高温多雨(11月から4月)
天然資源
フランス本土:石炭、鉄鉱石、ボーキサイト、亜鉛、ウラン、アンチモン、ヒ素、カリ、長石、蛍石、石膏、木材、耕地、魚類。
フランス領ギアナ: 金鉱床、石油、カオリン、ニオブ、タンタル、粘土
実質GDP(購買力平価)
3 兆 7,640 億ドル (2023 年推定)
3 兆 7,380 億ドル (2022 年推定)
3 兆 6,480 億ドル (2021 年推定)
農産物
小麦、テンサイ、牛乳、大麦、トウモロコシ、ジャガイモ、ブドウ、菜種、豚肉、ヒマワリの種(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
機械、化学、自動車、冶金、航空機、電子機器、繊維、食品加工、観光
輸出入パートナー
輸出
ドイツ 13%、イタリア 9%、米国 8%、ベルギー 8%、スペイン 8%(2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
ドイツ15%、ベルギー9%、スペイン8%、イタリア8%、オランダ8% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
港湾総数: 66 (2024)
大規模: 6
中規模: 12
小規模: 22
非常に小規模: 26
石油ターミナルのある港湾: 31
主要港湾:バイヨンヌ、ボルドー、ブローニュ シュル メール、ダンケルク ポート エスト、ダンケルク ポート ウエスト、ラ パリス、ラ ロシェル、レ サーブル ドロンヌ、ロリアン、モントワール、ナント、ル アーブル、ルーアン、ラード ド ブレスト、ラード ドゥ シェルブール、ロシュフォール、サン ナゼール、トゥーロン

フランスの産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるフランスの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
フランスの生み出す付加価値は2000年以後大きく伸長しましたが、2007年以後2022年までは横ばいになっています。1993年のおよそ1.2兆ドルから2022年には2.5兆ドルと2倍以上に成長しました。
2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
22.2% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
18.6% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
14.0% M:専門・科学・技術サービス業
13.3% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
12.5% L:不動産業
5.5% F:建設業
5.5% J:情報通信業
3.7% K:金融・保険業
2.6% S:その他のサービス業
2.1% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は2.1%、鉱業・採石業を含む二次産業(建設業含む)は約18.8%とこの2つの産業は付加価値全体の21%程度であり、残り79%はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
フランスにおけるA:農業・林業及び漁業、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1993年には25%強ありましたが、2022年は18%程度まで下がっています。
フランスの産業において最も大きな割合があるのは、O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業で1993年から2022年まで20%強の比率を維持しています。30年間で比率を伸ばしているのは、M:専門・科学・技術サービス業や L:不動産業であり、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理は20%から13%に大きく比率を減らしています。
直近5年間の変化率では、コロナ禍を除けば各産業共に数%~10%の継続的な成長が続いており、特にJ:情報通信業は継続して成長しています。S:その他のサービス業も直近2年間で10%〜20%の高い成長率を見せています。
フランス企業の時価総額ランキング

フランス企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10には上位に高いブランド力を誇るLVMH,エルメス,ロレアルがランクインしており、その後シュナイダーエレクトリックやエアバスといった歴史ある製造業が続いています。
これらの企業が付加価値を作り上げている一方で、製造業を含むB,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理は30年間で生み出す付加価値自体は増えているものの、G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業や M:専門・科学・技術サービス業の成長率と比較すると見劣りするのが実態となります。
フランスの貿易収支の傾向

フランスの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそマイナス20兆円(輸出およそ89兆円、輸入およそ109兆円)で全体的には赤字トレンドあります。2010年代は比較的横ばいの傾向にありましたが、2022年から2023年はロシアーウクライナ戦争の影響もあり[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]の輸入金額が膨らみ、赤字幅は拡大しています。
フランスの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、フランスで最も黒字金額が大きいのは[第88類:航空機及び宇宙飛行体]でおよそ3.6兆円の黒字です。これはAirbusの拠点がトゥールーズにあり、航空宇宙産業が集積しているためです。
2位は[第33類:精油、レジノイド、調整香料及び化粧品類]でおよそ2.4兆円の黒字です。この中には化粧品や香水、トイレタリー製品が含まれており、第4位の[第42類:革製品及び動物用装着具並びに旅行用具]含め、LVMHグループをはじめとするハイブランドの付加価値の高さが伺えます。
3位は[第22類:飲料、アルコール及び食酢]のおよそ2.2兆円でワイン等の酒類も世界から所望されており、フランスの産業のバラエティの広さが印象的なランキングです。
フランスの2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、[第88類:航空機及び宇宙飛行体]と[第33類:精油、レジノイド、調整香料及び化粧品類]、[第22類:飲料、アルコール及び食酢]で黒字品目のおよそ60%を占めています。フランスのものづくりで対外的に稼ぎが大きいのは、「航空機」「化粧品や香水」「ワイン」の3つであると言えるでしょう。
フランスの輸出金額の傾向
フランスの2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、フランスで最も輸出金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ10兆円です。突出してHS8411ジェットエンジン等2.9兆円が大きい金額となってます。
2位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ8.4兆円の輸出です。特にHS8703自動車3.5兆円、HS8708自動車部品2.1兆円でこの金額を構成しています。
3位は[第85類:電気機器]でおよそ7.0兆円の輸出です。特にHS8542集積回路1.4兆円、HS8536電気回路の開閉、保護、または接続用の装置7,500億円が主要な項目となります。
フランスの2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第85類:電気機器]をはじめとして7つの品目類で輸出金額の50%以上を占めています。
フランスは圧倒的に高い比率を占める輸出品目が無いことも一つの特徴と言うことができます。収支がプラスの品目も大きな黒字を作っているとは言えず、強い産業の輸出力の強化は貿易黒字の国と比較した時の課題と言えそうです。
フランスの輸入金額の傾向
フランスの2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、フランスで最も輸入金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ15兆円です。内訳を見るとHS2711液化天然ガス等がおよそ5.7兆円、HS2709原油がおよそ4.4兆円と、原油より液化天然ガスの方が大きい構成になっています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ13兆円の輸入です。特にHS8411ジェットエンジン等2.1兆円、HS8471パーソナルコンピュータ1.4兆円が主要な項目です。
3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ12兆円の輸入です。HS8703自動車6.5兆円が主要な項目となっています。
フランスの2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第85類:電気機器]、[第30類:医療用品]で輸入金額の約50%弱を占めており、フランスにおける市場規模の大きさを表しています。赤字の要因となりやすい[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]だけでなく、先進国で工業化が進んでいる場合に黒字になりやすい第84類、第87類、第85類が総じて大きな赤字傾向にあることが、国全体としての赤字の要因となってしまっています。