こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はドイツの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
ドイツの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- ドイツの産業は製造業が生み出す付加価値が最も高く、鉱業やライフライン等を含んだ比率では、全体の25%の付加価値を生み出しています。
- 時価総額のTOP10にはERPを提供するSAPやシーメンスがランクインしていますが、自動車メーカーは10位前後にメルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲンが並んでいます。
- ドイツの収支で黒字となっている項目は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]がおよそ19兆円と黒字幅では最大。また、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]もおよそ14兆円と黒字を牽引しています。それ以外にも[第30類:医療用品]等、数兆円の黒字を作る品目が複数存在します。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。
ドイツの基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。


人口
合計: 84,119,100人
男性: 41,572,702人
女性: 42,546,398人 (2024年推定)
気候
温帯および海洋性。冬および夏は涼しく、曇り、雨が多く、時折山岳地帯の暖かい風(フェーン風)が吹く。
天然資源
石炭、亜炭、天然ガス、鉄鉱石、銅、ニッケル、ウラン、カリ、塩、建設資材、木材、耕地
実質GDP(購買力平価)
5 兆 2,300 億ドル (2023 年推定)
5 兆 2,460 億ドル (2022 年推定)
5 兆 1,530 億ドル (2021 年推定)
農産物
牛乳、テンサイ、小麦、大麦、ジャガイモ、豚肉、菜種、トウモロコシ、ライ麦、ライ小麦(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
鉄鋼、石炭、セメント、化学薬品、機械、車両、工作機械、電子機器、自動車、食品・飲料、造船、繊維
輸出入パートナー
輸出
米国10%、フランス7%、中国7%、オランダ7%、イタリア6%(2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
中国 10%、オランダ 9%、ポーランド 6%、ベルギー 6%、イタリア 5% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
総港数: 35 (2024)
大規模: 5
中規模: 4
小規模: 11
非常に小規模: 15
石油ターミナルのある港: 12
主要港:ブラーケ、ブレーメン、ブレーマーハーフェン、クックスハーフェン、エムデン、ハンブルク、キール、リューベック、ロストック

ドイツの産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるドイツの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
ドイツの生み出す付加価値は2002年以後大きく伸長し、2022年に至るまで緩やかに成長しています。1993年のおよそ1.9兆ドルから2022年には3.75兆ドルとおよそ2倍に成長しました。
2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
24.0% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
18.7% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
16.9% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
11.4% M:専門・科学・技術サービス業
9.8% L:不動産業
5.7% F:建設業
5.0% J:情報通信業
4.0% K:金融・保険業
3.5% S:その他のサービス業
1.0% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は1.0%、鉱業・採石業を含む二次産業(建設業含む)は約29.7%とこの2つの産業は付加価値全体31%程度であり、残り69%はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
ドイツにおけるA:農業・林業及び漁業、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1993年には28%程ありましたが、2022年は31%程とやや増加しています。
ドイツの産業において大きな割合があるのは、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理で1993年から2022年まで25%程度の比率を維持しています。30年間で比率を伸ばしているのは、O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業で2%程度増加している一方で、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理は2.9%程度減少しています。
直近5年間の変化率では見ていくと、 J:情報通信業は5年間継続して増加傾向にあり、K:金融・保険業も総じて増加傾向にあります。A:農業・林業及び漁業は年によって増加と減少の幅は大きくなっています。
ドイツ企業の時価総額ランキング

ドイツ企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10にはIT、金融、ヘルスケア、自動車メーカー等様々な企業がランクインしています。20位までのランキング全体を見るとやはり製造業が多く名を連ねているのが特徴的です。
1位は世界的なIT企業でERPを提供するSAPで2位に2倍近い時価総額となっています。その後製造業であるシーメンス、通信のDT.TELEKOMが続いています。その後金融・ヘルスケア/化学企業が続いています。
意外にも自動車メーカーがランクインするのは8位のメルセデス・ベンツからで、その後10位にBMW、11位にフォルクスワーゲンと続きます。
ドイツの貿易収支の傾向

ドイツの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそプラス33兆円(輸出およそ239兆円、輸入およそ206兆円)で世界の中でも黒字幅の大きな国となっています。
ドイツの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、ドイツで最も黒字金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ19兆円の黒字です。中でもHS8703自動車がおよそ14兆円とその大半を占めます。ベンツやBMW、フォルクスワーゲンといった数多くのブランドが付加価値を作っています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ14兆円の黒字です。HS8421遠心分離機、液体または気体のろ過・精製用機械の1.3兆円やHS8481タップ、コック、バルブ、および類似の装置の1.0兆円等、複数の機械類において付加価値を生み出しており、製造業の国としての層の厚さを感じさせます。
3位は[第30類:医療用品]でおよそ6.5兆円の黒字です。HS3004治療おとび予防用医薬品で約5兆円の黒字があり、ベーリンガーインゲルハイムやバイエルといった医薬品企業による貢献が背景にあります。
ドイツの2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]と[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]で黒字品目の50%以上を占めています。この2つの品目がドイツの主要な産業と呼べるでしょう。
ドイツの輸出金額の傾向
ドイツの2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、ドイツで最も輸出金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ41兆円です。自動車がドイツから世界へ広く流通しており、収支でも記載した通り、大きな収益の柱になっています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ33兆円の輸出です。輸出金額も収支同様にHS8421遠心分離機、液体または気体のろ過・精製用機械の2.4兆円やHS8481タップ、コック、バルブ、および類似の装置の2.1兆円が輸出金額として牽引しています。
3位は[第85類:電気機器]でおよそ27兆円の輸出です。特にHS8542集積回路3.1兆円、HS8536電気回路の開閉、保護、または接続用の装置2.4兆円、HS8537電気制御または配電用のパネル、コンソール、デスク、キャビネット1.8兆円が主要な項目です。
ドイツの2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第85類:電気機器]、[第30類:医療用品]で輸出金額の50%以上を占めています。しかし収支黒字の中に、[第85類:電気機器]が含まれていなかったことから、ドイツの自動車や機械類を生み出す部品として輸入が押し上げられているのが要因でしょう。
ドイツの輸入金額の傾向
ドイツの2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、ドイツで最も輸入金額が大きいのは[第85類:電気機器]でおよそ31兆円です。ドイツにおける工業製品市場の大きさを感じさせ、生産プロセスに必要な電気機器を輸入しています。特にHS8517通信機器(スマホ等含む)3.8兆円、HS8542集積回路3.5兆円が主要な項目です。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ25兆円の輸入です。特にHS8471パーソナルコンピュータ3.5兆円、HS8411ガスタービンエンジン2.1兆円が主要な項目です。
3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ22兆円の輸入です。特にHS8703自動車11兆円、HS8708自動車部品6.6兆円が主要な項目です。
ドイツの2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第85類:電気機器]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第30類:医療用品]で輸入金額の約50%以上を占めています。