こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はハンガリーの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。

ハンガリーの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。

  • ハンガリーの産業は製造業・インフラ業の生み出す付加価値が高いことが特徴です
  • ハンガリーの時価総額のTOP20には金融企業が9社と多く名を連ねており、時価総額上位企業は公共性の高いインフラ企業が並んでいます。
  • ハンガリーの収支は2023年でプラス1.3兆円の黒字となっており、20年間の大きなトレンドとしては概ね黒字を推移しています。ハンガリーの収支で黒字となっている項目は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]の自動車産業が1.8兆円と黒字幅では最大です。
ハンガリーの国際貿易統計概要
ハンガリーの国際貿易統計概要

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。

※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。

ハンガリーの基礎情報

基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。

ハンガリーロケーターマップ
ハンガリーロケーターマップ(『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年)
ハンガリーマップ
ハンガリーマップ(『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年)

人口

合計: 9,855,745人

男性: 4,812,668人

女性: 5,043,077人 (2024年推定)

気候

温暖、冬は寒く曇り、湿気が多い、夏は暖かい

天然資源

ボーキサイト、石炭、天然ガス、肥沃な土壌、耕作地

実質GDP(購買力平価)

3,889 億 600 万ドル (2023 年推定)
3,924 億 6,800 万ドル (2022 年推定)
3,752 億 6,800 万ドル (2021 年推定)

農産物

小麦、トウモロコシ、牛乳、大麦、ヒマワリの種、菜種、テンサイ、豚肉、ブドウ、リンゴ(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物

産業

鉱業、冶金、建設資材、加工食品、繊維、化学薬品(特に医薬品)、自動車

輸出入パートナー

輸出
ドイツ 24%、イタリア 6%、ルーマニア 5%、スロバキア 5%、オーストリア 4% (2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国

輸入
ドイツ21%、中国7%、オーストリア7%、スロバキア6%、ポーランド6%(2022年) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国

ハンガリーのドナウ川のペスト側にある国会議事堂
ハンガリーのドナウ川のペスト側にある国会議事堂(『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年)

ハンガリーの産業が生み出す産業別付加価値

ハンガリーにおける産業別付加価値の推移
ハンガリーにおける産業別付加価値の推移
2022年ハンガリーにおける産業別付加価値の比率
2022年ハンガリーにおける産業別付加価値の比率

上の二つの図は過去から現在までにおけるハンガリーの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。

ハンガリーの生み出す付加価値は2001年以後大きく伸長し始め、2008年のリーマンショック後しばらく停滞しますが、2016年から2022年まで再び上昇局面に入っています。

2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。

22.6% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
17.3% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
16.7% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
11.7% L:不動産業

10.2% M:専門・科学・技術サービス業
6.3% F:建設業
5.0% J:情報通信業
3.8% A:農業・林業及び漁業
3.7% K:金融・保険業
2.7% S:その他のサービス業

大きく区分すると一次産業は3.8%、鉱業・採石業・製造業・建設業含む二次産業は約28.9%とこの2つの産業は付加価値全体の32.7%を占めており、残り67.3%がサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。

ハンガリーにおける産業別付加価値比率の推移
ハンガリーにおける産業別付加価値比率の推移
直近数年のハンガリーにおける産業別付加価値の変化率推移
直近数年のハンガリーにおける産業別付加価値の変化率推移

続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。

ハンガリーにおけるA:農業・林業及び漁業B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1995年には39.0%あり、2022年は32.7%と30年間で6.3%比率が下がっています。

ハンガリーの産業において最も大きな割合があるのは、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理で1995年の25.5%から2022年の22.6%まで30年間最比率が高くなっています。またそれに続き、O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業が大きな比率を構成しており、前者が1995年の18.8%から2022年の16.7%へ、後者が前者が1995年の17.0%から2022年の17.3%へと比率を変化させています。

直近5年間の変化率においてハンガリーは、コロナ禍で一時的に成長率がマイナスになるも、2021~2022年は多くの産業で10%前後の成長基調にあります。特にJ:情報通信業は2018年から5年間継続して成長しており、M:専門・科学・技術サービス業も直近2年間は10%を超える高い成長性を示しています。

ハンガリー企業の時価総額ランキング

ハンガリー企業時価総額ランキング
ハンガリー企業時価総額ランキング

ハンガリー企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP20には金融企業が9社と多く名を連ねており、他は各セクターから代表的な企業がランクインしています。

特に時価総額が大きいTOP5は1位と2位にOPT BANKとMKB BANKの金融機関2社がランクインしています。OPT BANKはハンガリー最大の商業銀行であるだけでなく、中央・東ヨーロッパにおいても最大の規模を誇ります。MKB BANKはハンガリー外国貿易銀行であり、その名の通り対外貿易に関する金融取引管理を目的に設立されました。
3位のGEDEON RICHTERは中央・東ヨーロッパ最大の製薬会社として著名であり、4位のMOLはハンガリー石油ガス公社でありこちらも社名の通り石油・ガスの流通を事業としています。5位のMagyar Telekomはハンガリーの大手電気通信サービスプロバイダーの一つでドイツテレコムの子会社です。

上記の通り、ハンガリーの時価総額上位企業は公共性の高いインフラ企業が並んでいます。

ハンガリーの貿易収支の傾向

ハンガリーの貿易収支金額20年推移
ハンガリーの貿易収支金額20年推移

ハンガリーの財の貿易収支はこの20年間で概ね黒字を推移しています。

2023年の貿易収支はおよそプラス1.3兆円(輸出およそ22.1兆円、輸入およそ20.9兆円)で黒字となっていますが、前年はウクライナ-ロシア戦争の影響もあり、ロシアからの天然ガスの輸入金額が前年の4倍ほどに膨れ上がったため単年度ではありますが赤字となっています。

ハンガリーの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年におけるハンガリーの品目別黒字収支TOP5
2023年におけるハンガリーの品目別黒字収支TOP5

2023年のデータにおいて、ハンガリーで最も黒字金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ1.8兆円の黒字です。ハンガリーは1990年頃より西欧諸国と比較して安価な労働コストや、ドイツへのアクセスが容易なことから、トヨタやスズキといった自動車メーカーが相次いで進出したことが、自動車産業発展の背景にあります。

2位は[第85類:電気機器]でおよそ1.3兆円の黒字です。詳細を見ると、HS8507電気式蓄電池(バッテリー)が1.2兆円と突出した黒字を生み出しています。これも上記の自動車産業の文脈であり、ハンガリーではGSユアサと韓国のSK InnovationがそれぞれEV用のリチウムイオン電池工場を建設する等、EV産業が集積し、中国のEVメーカーの進出も盛んになっています。背景にはハンガリー政府による積極的なEV産業誘致と補助金や税制優遇があるためです。(出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング

ハンガリーの2023年貿易収支黒字比率

2023年におけるハンガリーの品目別貿易収支黒字シェア
2023年におけるハンガリーの品目別貿易収支黒字シェア

貿易収支黒字の比率を見ると、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第85類:電気機器]で黒字品目の63%を占めています。ハンガリーのものづくりで対外的に稼ぎが大きいのは、「自動車」「バッテリー」で、この2つが黒字を牽引していると言えるでしょう。

ハンガリーの輸出金額の傾向

ハンガリーの2023年輸出金額TOP5

2023年におけるハンガリーの品目別輸出金額TOP5
2023年におけるハンガリーの品目別輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、ハンガリーで最も輸出金額が大きいのは[第85類:電気機器]でおよそ5.7兆円です。主にHS8507電気式蓄電池(バッテリー)1.58兆円HS8517通信機器6,300億円です。

2位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ3.9兆円の輸出です。特にHS8703自動車2.2兆円HS8708自動車部品1.4兆円が主要な項目となっています。

3位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ3.2兆円の輸出です。特にHS8471コンピュータ6,700億円HS8407ピストン式内燃エンジン5,200億円が主要な項目です。

ハンガリーの2023年輸出金額比率

2023年におけるハンガリーの品目別輸出シェア
2023年におけるハンガリーの品目別輸出シェア

輸出金額の比率を見ると[第85類:電気機器][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]で輸出金額の50%以上を占めています。その中でも先述の通り特定の品目で構成されていると言えるでしょう。

ハンガリーの輸入金額の傾向

ハンガリーの2023年輸入金額TOP5

2023年におけるハンガリーの品目別輸入金額TOP5
2023年におけるハンガリーの品目別輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、ハンガリーで最も輸入金額が大きいのは[第85類:電気機器]でおよそ4.4兆円です。内訳を見るとHS8517通信機器7,100億円HS8542集積回路6,200億円が大きな比率を占めています。

2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ2.9兆円の輸入です。特にHS8471コンピュータ3,200億円HS8409内燃機関の部分品2,900億円が主要な項目です。

3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ2.1兆円の輸入です。HS8708自動車部品1.1兆円HS8703自動車5,600億円が主要な項目です。

その他[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ2.0兆円の輸入と続いています。

ハンガリーの2023年輸入金額比率

2023年におけるハンガリーの品目別輸入シェア
2023年におけるハンガリーの品目別輸入シェア

輸入金額の比率を見ると、[第85類:電気機器][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、で輸入金額の約50%強を占めており、2023年においては鉱物製燃料の全体における比率はそこまで高くない状況となっています。