こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はイタリアの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
イタリアの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- イタリアの産業は小売・サービス業と製造業・インフラ業の生み出す付加価値が高いことが特徴です。
- 時価総額のTOP10にはフェラーリやステランティスといった自動車メーカーやエニやテナリスといった石油・ガス資源系の会社、金融・保険会社が複数ランクインしています。
- イタリアの輸出金額は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]が圧倒的に大きくおよそ16兆円、続いて[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ7.5兆円となっています。一方輸入金額は[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]が最も大きくおよそ13兆円を輸入しており、続いて[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]がおよそ8.6兆円の輸入となっています。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。
イタリアの基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。


人口
合計: 60,964,931人
男性: 29,414,065人 (
女性: 31,550,866人(2024年推定)
気候
主に地中海性気候、極北は高山性、南部は暑く乾燥している
天然資源
石炭、アンチモン、水銀、亜鉛、カリ、大理石、重晶石、アスベスト、軽石、蛍石、長石、黄鉄鉱(硫黄)、天然ガスおよび原油埋蔵量、魚類、耕作地
実質GDP(購買力平価)
3 兆 9,700 億ドル (2023 年推定)
3 兆 6,800 億ドル (2022 年推定)
2 兆 9,510 億ドル (2021 年推定)
農産物
牛乳、ブドウ、小麦、トマト、トウモロコシ、リンゴ、オリーブ、オレンジ、ジャガイモ、豚肉(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
観光、機械、鉄鋼、化学、食品加工、繊維、自動車、衣料、履物、陶磁器
輸出入パートナー
輸出
ドイツ12%、米国11%、フランス10%、スペイン5%、英国4%(2022年)注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
ドイツ14%、フランス8%、中国8%、オランダ5%、スペイン5%(2022年)注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
合計港数: 123 (2024)
大規模: 12
中規模: 11
小規模: 71
非常に小規模: 28
規模不明: 1
石油ターミナルのある港: 33
主要港:ブリンディジ、チビタベッキア、ジェノバ、ジョイア タウロ、ラ スペツィア、リヴォルノ、メッシーナ、ナポリ、ポルト ディ リド ヴェネツィア、シラクーサ、ターラント、トリエステ

イタリアの産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるイタリアの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
イタリアの生み出す付加価値は2002年以後大きく伸長しましたが、2007年以後2022年までは横ばいになっています。1993年のおよそ9,300億ドルから2022年には1.9兆ドルと2倍以上に成長しました。
2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
21.2% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
21.1% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
16.1% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
12.9% L:不動産業
9.8% M:専門・科学・技術サービス業
5.4% F:建設業
4.4% K:金融・保険業
3.6% J:情報通信業
3.5% S:その他のサービス業
2.0% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は2.0%、鉱業・採石業を含む二次産業(建設業含む)は約26.5%と、この2つの産業は付加価値全体の28.5%程度であり、残り71.5%はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
イタリアにおけるA:農業・林業及び漁業、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1993年には33%強ありましたが、2022年は28.5%程とやや減少しています。
イタリアの産業において大きな割合があるのは、G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業およびB,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理で1993年から2022年まで20%程度の比率を維持しています。30年間で比率を伸ばしているのは、 L:不動産業で3%程度増加している一方で、、A:農業・林業及び漁業、F:建設業、K:金融・保険業はそれぞれ1%程度減少しています。
直近5年間の変化率では見ていくと、コロナ後の2年間についてはF:建設業、G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業が10%~20%1年間で付加価値を増加させており、次いで J:情報通信業、M:専門・科学・技術サービス業も5%前後伸びてきています。
逆に、A:農業・林業及び漁業やK:金融・保険業は数%程度ではあるものの付加価値を減少させています。
イタリア企業の時価総額ランキング

イタリア企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10にはフェラーリやステランティスといった自動車メーカーやエニやテナリスといった石油・ガス資源系の会社、金融・保険会社が複数ランクインしています。
20位までを見ても傾向は変わらず、金融企業が多数ランクインしているのに加えて、テルナやスナムといった送電網やガスパイプラインを持つインフラ企業が名を連ねています。
イタリアの貿易収支の傾向

イタリアの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそプラス5.2兆円(輸出およそ95兆円、輸入およそ90兆円)で2012年頃を境に黒字トレンドへ転換しています。
2012年頃から収支が改善している大きな理由としては、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]の自動車関連産業が1兆円を超える貿易赤字だったのが、この年を境に黒字に転換し現在まで輸出規模を拡大しています。また、2022年はロシアーウクライナ戦争により再び石油価格が高騰して一時的に収支が悪化しています。
イタリアの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、イタリアで最も黒字金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ8.2兆円の黒字です。第84類の黒字収支TOP3は、HS8422包装機械や食洗機のおよそ9,100億円、HS8481バルブやパイプのおよそ8,500億円、HS8419加熱、冷却、蒸留、乾燥などを行う機械のおよそ5,800億円となっており、ニッチですが付加価値の高い機械類を世界に輸出していることがわかります。
2位は[第30類:医療用品]でおよそ2.5兆円の黒字です。詳細を見るとHS3004医薬品が2.4兆円とその大半を占めます。
3位は[第73類:鉄鋼製品]でおよそ2.0兆円の黒字です。特にHS7306、「鉄鋼製のその他の管(溶接されているか、シームレスかを問わない)」が5,500億円 と収支を牽引しています。イタリアにはヨーロッパにおいて最大級である鉄鋼会社Acciaierie d’Italiaがあることもその背景にあります。
イタリアの2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第30類:医療用品]、[第73類:鉄鋼製品]、[第94類:家具、寝具、マットレス]でおよそ50%を占めています。イタリアのものづくりで対外的に稼ぎが大きいのは、「機械類」「医薬品」「鉄鋼製品」「家具」の4つであると言えるでしょう。
イタリアの輸出金額の傾向
イタリアの2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、イタリアで最も輸出金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ16兆円です。主にHS8481バルブやパイプ1.3兆円、HS8422包装機械や食洗機1.0兆円が良く輸出されています。
2位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ7.5兆円の輸出です。特にHS8703自動車の2.9兆円、HS8708自動車部品2.3兆円が主要な項目となっています。
3位は[第30類:医療用品]でおよそ7.0兆円の輸出です。特にHS3004医薬品が5.2兆円で主要な項目です。
イタリアの2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]をはじめとして、輸出の上位50%を7つに渡る品目で構成しています。イタリアは輸出製品の幅が広く、特に機械や自動車を中心とした工業製品の輸出が発展していると言えます。
それ以外にも[第62類:衣類]、[第94類:家具、寝具、マットレス]、[第64類:靴、履き物]、[第42類:革製品]といった特徴的な項目がそれぞれ輸出の2.0%程度を占めており、産業としても存在感を示しています。
イタリアの輸入金額の傾向
イタリアの2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、イタリアで最も輸入金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ13兆円です。内訳を見るとHS2709原油がおよそ5.4兆円、HS2711液化天然ガス等がおよそ4.6兆円、HS2710石油製品がおよそ1.6兆円、HS2716電気エネルギーがおよそ1.0兆円という構成になっています。電気エネルギーを直接輸入しているのが欧州らしい特徴です。
2位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ8.7兆円の輸入です。特にHS8703自動車の5.1兆円、HS8708自動車部品1.5兆円が主要な項目です。
3位は[第84類:原子炉、ボイラー及び機械類]でおよそ8.2兆円の輸入です。HS8471パーソナルコンピュータ8,400億円、HS8481バルブやパイプ4,000億円が主要な項目です。
イタリアの2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第85類:電気機器]、[第30類:医療用品]、[第29類:有機化学品]で輸入金額の約50%弱を占めています。