こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はメキシコの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。

メキシコの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。

  • メキシコの産業は小売・サービス業と製造業・インフラ業の生み出す付加価値が高いことが特徴です。
  • メキシコの時価総額のTOP20にはマクロ傾向と同様、全体的に小売や消費財の企業が並ぶ一方、情報通信系は1社のランクインに留まっています。
  • メキシコの収支で黒字となっている項目は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]の自動車産業が13.3兆円と黒字幅では最大で2位と比較しても圧倒的に黒字を作り出しています。その一方で赤字となっているのは主要な輸出品目である、[第85類:電気機器]でおよそ17.0兆円を、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]もおよそ13.4兆円を輸入しており、それぞれの輸出金額分を相殺していることで、他の輸入中心の品目の赤字を受けきれていないことが要因です。
メキシコの国際貿易統計概要
メキシコの国際貿易統計概要

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。

※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。

メキシコの基礎情報

基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。

メキシコマップ
メキシコマップ

人口

合計: 130,739,927

男性: 63,899,138

女性: 66,840,789人 (2024年推計)

気候

熱帯から砂漠まで様々

天然資源

石油、銀、アンチモン、銅、金、鉛、亜鉛、天然ガス、木材

実質GDP(購買力平価)

2 兆 8,730 億ドル (2023 年推定)
2 兆 7,830 億ドル (2022 年推定)
2 兆 6,780 億ドル (2021 年推定)

農産物

サトウキビ、トウモロコシ、牛乳、オレンジ、ソルガム、トマト、鶏肉、小麦、唐辛子/ピーマン、レモン/ライム(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物

産業

食品・飲料、タバコ、化学薬品、鉄鋼、石油、鉱業、繊維、衣料、自動車、耐久消費財、観光

輸出入パートナー

輸出
米国77%、カナダ4%、中国2%、台湾1%、韓国1% (2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国

輸入
米国56%、中国17%、ドイツ3%、韓国3%、日本2% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国

港湾総数: 35 (2024)
大規模: 0
中規模: 7
小規模: 10
非常に小規模: 14
規模不明: 4
石油ターミナルのある港湾: 21
主要港湾:アカプルコ、エンセナダ、マンサニージョ、マサトラン、タンピコ、トゥスパン、ベラクルス

ピラミッド、エル・カスティーヨ
ピラミッド、エル・カスティーヨ

メキシコの産業が生み出す産業別付加価値

メキシコにおける産業別付加価値の推移
メキシコにおける産業別付加価値の推移
2022年メキシコにおける産業別付加価値の比率
2022年メキシコにおける産業別付加価値の比率

上の二つの図は過去から現在までにおけるメキシコの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。

メキシコの生み出す付加価値は1995年以後大きく伸長し、大きなトレンドとしては2022年まで右肩上がりに成長しています。後退した局面は2009年がリーマンショック、2015年がチャイナショック、2020年はコロナウイルスが影響しています。1993年のおよそ5,000億ドルから2022年には1.4兆ドルと3倍近くに成長しました。

2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。

30.7% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
28.7% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
9.8% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
8.7% L:不動産業

6.4% F:建設業
4.3% K:金融・保険業
4.1% A:農業・林業及び漁業

3.6% M:専門・科学・技術サービス業
2.0% S:その他のサービス業

1.8% J:情報通信業

大きく区分すると一次産業は4.1%、鉱業・採石業を含む二次産業(建設業含む)は約35.1%とこの2つの産業は付加価値全体の39.2%を占めており、残り60.8%がサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。

メキシコにおける産業別付加価値比率の推移
メキシコにおける産業別付加価値比率の推移
直近数年のメキシコにおける産業別付加価値の変化率推移
直近数年のメキシコにおける産業別付加価値の変化率推移

続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。

メキシコにおけるA:農業・林業及び漁業B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1993年には39.5%あり、2022年は39.2%とその比率を維持しています。

メキシコの産業において最も大きな割合があるのは、G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業の30.7%とB,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理の28.7%前者で1993年から2022年まで4%比率を伸ばしており、後者は30年間水準を維持しています。G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業は他の産業と比較しても30年間で最も比率を伸ばしています。一方で最も比率を落としているのは L:不動産業であり、11.6%から8.7%に3%程比率を減らしています。

直近5年間の変化率では、コロナ禍では各産業ともマイナス成長となっていますが、2021~2022年は多くの産業で回復基調にあります。特にJ:情報通信業は2020年を除けば継続して成長している一方で、3.6% M:専門・科学・技術サービス業はコロナ以後も大きくマイナス成長が続く状態となっています。

メキシコ企業の時価総額ランキング

メキシコ企業時価総額ランキング
メキシコ企業時価総額ランキング

メキシコ企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP20にはマクロ傾向と同様、全体的に小売や消費財の企業が並びます

1位はアメリカでもトップの小売企業であるウォルマート、5位と6位には「コカ・コーラ」商標の飲料流通を手がけるFEMSAとアルカコンチネンタルがランキングしています。3位のグルポ・メヒコはメキシコ最大の鉱山会社であり、銅の産出で世界でも著名な企業の一つです。

一方メキシコの時価総額トップ企業には、アメリカ・モービルという通信企業が2位にランクインしている以外は、情報通信系の企業がTOP20に見当たらないのも産業的な特徴と言えそうです。

メキシコの貿易収支の傾向

メキシコの貿易収支金額20年推移
メキシコの貿易収支金額20年推移

メキシコの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。

2023年の貿易収支はおよそマイナス7,700億円(輸出およそ83.1兆円、輸入およそ83.9兆円)です。20年間のトレンドとしても、収支ゼロ付近を推移する傾向にあります。

メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)の一員であり、アメリカとの貿易面でのつながりが特徴的です。特に自動車、電気製品、機械設備といった製造業は、多くの割合をアメリカに輸出しています。

上記に関わる重要なポイントとして「マキラドーラ」制度があります。この制度は、1960年代から始まった輸出加工地域のことであり、最終的に製品をアメリカ等海外に輸出されるまでの、部品や原料の輸入に対する関税免除や、輸出企業における減免、輸出税制優遇がされる制度です。現在のマキドーラ制度はIMMEX(輸出加工産業支援プログラム)に統合されており、現在運用されています。

一方昨今は、労働コストが増加傾向にあり、中国やベトナム等、アジア諸国との国際的な競争が激化していますが、ニアショアリングや中国のデリスキングの動きもあり、改めて生産拠点としてのメキシコが見直されつつあります。

メキシコの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年におけるメキシコの品目別黒字収支TOP5
2023年におけるメキシコの品目別黒字収支TOP5

2023年のデータにおいて、メキシコで最も黒字金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ13.3兆円の黒字です。これは純粋に自動車の生産工場が集積しているだけでなく、自動車事態の産業としての付加価値も他産業に対して高いこと示しています。

2位は[第90類:光学機器、精密機器及び医療用機器]でおよそ1.5兆円の黒字です。詳細を見ると、HS9018医療機器、手術器具、獣医器具、歯科用具およびその関連機器で1.1兆円と大きな黒字を牽引しています。

一方で、[第85類:電気機器][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]はこの後出てくる輸出・輸入共に金額面でランクインをしていますが、メキシコにおける収支は赤字となっており、利益を生み出す産業にはなれていません。

メキシコの2023年貿易収支黒字比率

2023年におけるメキシコの品目別貿易収支黒字シェア
2023年におけるメキシコの品目別貿易収支黒字シェア

貿易収支黒字の比率を見ると、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]で黒字品目の56.6%を占めています。メキシコのものづくりで対外的に稼ぎが大きいのは、「自動車」であると言えるでしょう。

メキシコの輸出金額の傾向

メキシコの2023年輸出金額TOP5

2023年におけるメキシコの品目別輸出金額TOP5
2023年におけるメキシコの品目別輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、メキシコで最も輸出金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ22兆円です。主にHS8703自動車8.0兆円HS8708自動車部品5.8兆円となっています。

2位は[第85類:電気機器]でおよそ14兆円の輸出です。特にHS8544電線およびケーブル、光ファイバーケーブル(光ファイバーバンドルや電気伝導体を含む)2.5兆円HS8517通信機器(スマホ等含む)2.0兆円HS8528モニターおよびプロジェクター、テレビ受像機1.7兆円が主要な項目となっています。

3位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ13兆円の輸出です。特にHS8471パーソナルコンピュータ4.1兆円HS8418冷蔵庫9,700億円HS8415エアコン9,500億円が主要な項目です。

メキシコの2023年輸出金額比率

2023年におけるメキシコの品目別輸出シェア
2023年におけるメキシコの品目別輸出シェア

輸出金額の比率を見ると[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第85類:電気機器]で輸出金額の50%以上を占めています。

それ以外でも[第27類:鉱物性燃料及び鉱物油]の様に石油製品も輸出していることや、収支でもランクインしていますが工業製品の繋がりで[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]も上位に入ってきています。

メキシコの輸入金額の傾向

メキシコの2023年輸入金額TOP5

2023年におけるメキシコの品目別輸入金額TOP5
2023年におけるメキシコの品目別輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、メキシコで最も輸入金額が大きいのは[第85類:電気機器]でおよそ17兆円です。内訳を見るとHS8542集積回路がおよそ3.4兆円HS8536電気回路の開閉、保護、または接続用の装置がおよそ1.1兆円HS8544電線およびケーブル、光ファイバーケーブル(光ファイバーバンドルや電気伝導体を含む)がおよそ1.1兆円という構成になっています。

2位は[第84類:機械類]でおよそ13兆円の輸入です。特にHS8473パソコン付属品1.5兆円HS8471パーソナルコンピュータ1.4兆円が主要な項目です。

3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ8.6兆円の輸入です。HS8708自動車部品4.5兆円HS8703自動車2.5兆円が主要な項目です。

その他[第27類:鉱物性燃料及び鉱物油]でおよそ6.1兆円の輸入[第39類:プラスチック及びその製品]でおよそ4.3兆円の輸入と続いています。

メキシコの2023年輸入金額比率

2023年におけるメキシコの品目別輸入シェア
2023年におけるメキシコの品目別輸入シェア

輸入金額の比率を見ると、[第85類:電気機器][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第27類:鉱物製燃料および鉱物油]で輸入金額の約50%を占めています。比率は違えど、輸入と品目構成がほぼ同じというのが面白い特徴です。