こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はオランダの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
オランダの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- オランダの産業は公務等社会事業や小売・サービス業が生み出す付加価値が最も高く、鉱業・製造業・公益事業の成長は鈍化し、情報通信・不動産業が直近では成長しています。
- 時価総額のTOP10には半導体製造装置で世界的に著名なASMLやPROSIS、ADYEN、WOLTERS KLUWERといったテクノロジー企業が上位に位置しています。
- オランダの特徴は輸出入共に金額の1位が[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]となっており、ヨーロッパ市場の玄関口としてユーロポート(ロッテルダム港)に原油が集まり、ライン川やドナウ川を通じて石油製品がヨーロッパ中に輸出されるという構造があります。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。
オランダの基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。


人口
合計: 17,772,378人
男性: 8,844,100人
女性: 8,928,278人 (2024年推定)
気候
温帯、海洋性、夏は涼しく、冬は穏やか
天然資源
天然ガス、石油、泥炭、石灰岩、塩、砂利、耕作地
実質GDP(購買力平価)
1 兆 2,400 億ドル (2023 年推定)
1 兆 2,380 億ドル (2022 年推定)
1 兆 1,870 億ドル (2021 年推定)
農産物
牛乳、テンサイ、ジャガイモ、豚肉、玉ねぎ、小麦、鶏肉、トマト、ニンジン/カブ、ヤギミルク(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
農産業、金属およびエンジニアリング製品、電気機械および装置、化学薬品、石油、建設、マイクロエレクトロニクス、漁業
輸出入パートナー
輸出
ドイツ19%、ベルギー14%、フランス9%、英国6%、イタリア5%(2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
ドイツ14%、中国12%、米国9%、ベルギー9%、英国5% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
合計港数: 18 (2024)
大規模: 2
中規模: 4
小規模: 5
非常に小規模: 7
石油ターミナルのある港: 12
主要港:アムステルダム、ドルドレヒト、ユーロポート、ロッテルダム、テルヌーゼン、フリシンゲン

オランダの産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるオランダの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
オランダの生み出す付加価値はグラフで集計されている1993年以後、2022年に至るまで急速に成長しています。1993年のおよそ3,200億ドルから2021年には9,200億ドルとおよそ3倍近くまで成長しました。
2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
20.8% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
20.7% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
17.0% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
14.8% M:専門・科学・技術サービス業
8.2% L:不動産業
5.1% K:金融・保険業
5.0% J:情報通信業
4.7% F:建設業
2.0% S:その他のサービス業
1.7% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は1.7%、鉱業・採石業・建設業を含む二次産業は約21.7%とこの2つの産業は付加価値全体23.4%程度であり、残り76.6%はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
オランダにおけるA:農業・林業及び漁業、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1993年には30.2%程ありましたが、2022年は23.4%程と減少しています。
オランダの産業において大きな割合があるのは、 G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業及びO,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業で1997年から2021年まで20%程度の比率を維持しています。約20年間で比率を伸ばしているのは、M:専門・科学・技術サービス業4.5%、 J:情報通信業1.9%でそれぞれ増加している一方で、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理は4.3%程度と大きく減少しており、絶対値としては2倍程度成長しているものの、他の産業の加速度的な成長に対しては遅れをとっています。
直近5年間の変化率では見ていくと、コロナ禍のサービス業を除けば基本的にどの産業も成長傾向にあります。 J:情報通信業とL:不動産業は5年間継続して増加傾向にあり、M:専門・科学・技術サービス業は直近2年間でそれぞれ10%程度成長しています。
オランダ企業の時価総額ランキング

オランダ企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10には半導体製造装置で世界的に著名なASMLやPROSIS、ADYEN、WOLTERS KLUWERといったテクノロジー企業が上位に位置しています。また20位までのランキング全体を見ると金融、消費財、小売、素材と様々な業種業態の企業が名を連ねており、産業としての幅の広さを感じさせます。
オランダの貿易収支の傾向

オランダの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそプラス10.8兆円(輸出およそ104兆円、輸入およそ93兆円)で収支が黒字となっています。人口がそれほど多くないオランダは世界の輸出金額ランキングでも4位に入るほど貿易が盛んな国ですが、その背景は地理的な要因があります。
オランダは輸出入ともに[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]が第一位となっています。これはオランダが産油国という訳ではなく、2022年頃まではロシアからの、2023年以降はアメリカからの原油をヨーロッパ中に流通させる窓口として機能しているためです。

上記写真のユーロポートは原油を輸入し、またその周辺には石油製品を生産するためのプラントが結集しています。また、ロッテルダムからは、ライン側ーマイン川ードナウ川と国際河川がつながっており、日本では馴染みの少ない船を使った河川輸送が盛んで、石油製品がヨーロッパ各国へ流通してきます。
こういった地理的な背景もあり、オランダは世界有数の貿易国となっています。
オランダの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、オランダで最も黒字金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ3.7兆円の黒字です。特にHS8486半導体製造機械及び関連装置がおよそ2.4兆円と牽引しています。
2位は[第06類:生きている樹木その他植物]でおよそ1.4兆円の黒字です。特にHS0602植物がおよそ6,000億円、HS0603切花がおよそ5,300億円の黒字を作っています。伝統的に花卉産業が発達しているだけでなく、機械化が進み生産性が高く高付加価値な植物輸出で1兆円以上の黒字を作っています。
3位は[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]でおよそ1.3兆円の黒字です。中でもHS9021義肢、義足、資格補助具、ペースメーカーなどの矯正器具及び補助器具が4,700億円の黒字と特徴的な産業が発達しています。
オランダの2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、5,000億円以上(およそ全体の4%)の収支をもつ分類が8分類あり、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]の比率が高いものの、様々な産業が発達した上で、10兆円もの貿易黒字を作っているというバラエティに富んだ構成になっています。「半導体」、「植物や花」、「義肢・義足」といった他国ではあまり登場しない品目が並んでいるのも特徴的であると言えるでしょう。
オランダの輸出金額の傾向
オランダの2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、オランダで最も輸出金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ18兆円です。特にHS2710石油製品およそ11兆円が全ての製品の中でダントツの輸出額を誇っています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ14兆円の輸出です。特にHS8486半導体製造装置3.4兆円、HS8471パーソナルコンピュータ2.2兆円が主要な項目です。半導体関連ではASMLという著名な企業があり、EUV露光装置を世界で初めて開発した企業として知られています。
3位は[第85類:電気機器]でおよそ9兆円の輸出です。特にHS8517 通信機器(スマホ含む)3.0兆円、HS8517通信機器(スマホ等含む)5.2兆円が主要な項目です。
オランダの2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第85類:電気機器]、[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]、[第30類:医療用品]で輸出金額の50%以上を占めています。
オランダの輸入金額の傾向
オランダの2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、オランダで最も輸入金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ20兆円です。特にHS2709原油およそ7.7兆円、HS2710石油製品およそ4.5兆円、HS2711液化天然ガス等がおよそ3.6兆円が輸入金額TOP3を占めています。
2位は[第85類:電気機器]でおよそ10兆円の輸入です。特にHS8517 通信機器(スマホ含む)3.4兆円、が主要な項目です。
3位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ10兆円の輸入です。特にHS8471パーソナルコンピュータ2.3兆円、HS8486半導体製造装置1.0兆円が主要な項目です。
オランダの2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第85類:電気機器]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]、で輸入金額の約50%以上を占めています。輸出と構成がほぼ変わらないのも特徴的です。