こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はイギリスの主要産業をデータから解説していきます。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
イギリスの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- イギリスの産業は金融・保険や不動産業が発達して付加価値の比率が高いのが特色です。
- イギリスの企業で時価総額TOP10には様々な業種の企業がランクインしていますが、中でもシェル、リオティント、BPといった石油や資源メジャーが複数ランクインしているのが特徴的です。
- イギリスの収支で黒字となっている項目はゴールドを中心とした第71類で2.5兆円と黒字幅では最大です。一方で機械製造品を中心とした産業自体は軒並み赤字であり、全体の貿易収支もマイナス38兆円と赤字が膨らんでいます。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
イギリスの基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。

人口
合計: 68,459,055人
男性: 34,005,445人
女性: 34,453,610人 (2024年推定)
気候
温帯;北大西洋海流の南西風により穏やか;1日の半分以上が曇り
天然資源
石炭、石油、天然ガス、鉄鉱石、鉛、亜鉛、金、錫、石灰岩、塩、粘土、白亜、石膏、カリ、珪砂、粘板岩、耕地
実質GDP(購買力平価)
3 兆 7,280 億ドル (2023 年推定)
3 兆 7,150 億ドル (2022 年推定)
3 兆 5,440 億ドル (2021 年推定)
農産物
牛乳、小麦、大麦、テンサイ、ジャガイモ、鶏肉、菜種、オート麦、豚肉、牛肉(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
工作機械、電力設備、自動化設備、鉄道設備、造船、航空機、自動車及びその部品、電子通信設備、金属、化学薬品、石炭、石油、紙及び紙製品、食品加工、繊維、衣料、その他消費財
輸出入パートナー
輸出
米国13%、オランダ9%、ドイツ9%、中国8%、アイルランド7%(2022年) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
中国 12%、ドイツ 10%、米国 10%、ノルウェー 8%、オランダ 5% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
港湾総数: 185 (2024)
大規模: 7
中規模: 24
小規模: 67
非常に小規模: 86
規模不明: 1
石油ターミナルのある港: 67
主要港:アバディーン、バロー・イン・ファーネス、バリー、ベルファスト、ブライス、ブリストル、カーディフ、ダンディー、ファルマス港、グラスゴー、グリノック、グリムスビー、イミンガム、キングストン・アポン・ハル、リース、ラーウィック、リバプール、ロンドン、ロンドンデリー、リネス、マンチェスター、ミルフォード・ヘイブン、ニューポート、ピーターヘッド、プリマス、ポートランド港、ポーツマス港、サウサンプトン、サンダーランド、ティーズポート、タインマス

イギリスの産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるイギリスの産業別付加価値の推移と2022年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
イギリスの生み出す付加価値は2000年以後大きく伸長しています。1993年のおよそ9,400億ドルから2022年には2.8兆ドルと約3倍に成長しました。
2022年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
19.0% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
17.1% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
13.3% M:専門・科学・技術サービス業
12.5% L:不動産業
12.4% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
9.0% K:金融・保険業
6.5% J:情報通信業
6.2% F:建設業
3.2% S:その他のサービス業
0.9% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は0.9%、鉱業・採石業を含む二次産業(建設業含む)は約18.6%とこの2つの産業は付加価値全体の2割弱であり、8割はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
イギリスにおいて、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理の二次産業は徐々に比率を減らしており、成長分野で言えばM:専門・科学・技術サービス業が徐々に比率を上げつつあります。
直近5年間の変化率では、J:情報通信業が継続的に成長しており5%ずつ成長しています。その他の産業は軒並みコロナ禍の2020年にマイナス成長していますが、2021~22年にかけてゆり戻しの回復傾向にあります。
イギリス企業の時価総額ランキング

イギリス企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10はバラエティに富んでおり、様々な業界・業態の企業が並んでいます。1位のアストラゼネカは製薬企業、3位HSBCは金融、4位ユニリーバは消費財の企業で日本でも名前を聞く企業です。
2位のシェル、5位のリオティント、7位のBPはそれぞれ資源を取り扱っている企業であり、こういった企業がイギリスに多いのも特徴と言えるでしょう。大英帝国時代から植民地の資源にアクセスしてきた歴史があり、また、産業革命を経て資源需要が高まった背景もあります。また、北海油田を有していることも世界的な資源メジャーに押し上げた要因と言えるでしょう。
イギリスの貿易収支の傾向

イギリスの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそマイナス38兆円(輸出およそ73.0兆円、輸入およそ111兆円)で貿易赤字となっています。
イギリスの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、イギリスで最も黒字金額が大きいのは[第71類:天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属]でおよそ2.48兆円の黒字です。イギリスで有名な金(ゴールド)はロンドンにおいて古くから金の市場があるだけでなく、ワールドゴールドカウンシルという世界の主要金鉱山会社40社がメンバーとなって設立されている非営利組織があり、唯一収支で2兆円と1兆円を超える黒字を出しています。
2位は[第97類:美術品、収集品及びこつとう]でおよそ3,500億円の黒字です。美術品が集まることもイギリスの特徴的な側面と言えるでしょう。
3位は[第49類:印刷した書籍、新聞、絵画]でおよそ1,700億円の黒字です。これも上記の美術品同様の特徴であり、世界から美術品同様に価値の高い絵画等が集まっていることを示しています。
イギリスの2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、[第71類:天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属]で黒字品目の66.6%を占めています。黒字の大半が金で作られているという実態があります。
イギリスの輸出金額の傾向
イギリスの2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、イギリスで最も輸出金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラー及び機械類]でおよそ12.1兆円です。HS8411ガスタービンエンジン5兆円が主要な項目になります。
2位は[第71類:天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属]でおよそ11兆円の輸出です。特にHS7108ゴールドで9兆円が主要な項目で第71類の大半を占めます。
3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部品]でおよそ7.0兆円の輸出です。これはHS8703自動車5兆円が主要な項目であり、ランドローバーやジャガー等が思い浮かぶのではないでしょうか。
イギリスの2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると、[第84類:原子炉、ボイラー及び機械類]、[第71類:天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部品]に加えて、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]で輸出金額のおよそ半分を占めていることが分かります。
イギリスの輸入金額の傾向
イギリスの2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、イギリスで最も輸入金額が大きいのは[第84類:原子炉、ボイラー及び機械類]でおよそ13.6兆円です。特にHS8411ガスタービンエンジン3.4兆円、HS8471パーソナルコンピュータ2.4兆円が主要な項目です。
2位は[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ13.0兆円の輸入です。特にHS2709原油4.7兆円、HS2710石油製品4.1兆円が主要な項目です。
3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部品]でおよそ12.6兆円の輸入です。特にHS8703自動車8.6兆円が主要な項目です。
イギリスの2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]に加えて、[第85類:電気機器]、[第71類:天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属]で輸入金額の約50%以上を占めています。