こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回はアメリカの貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。

アメリカの貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。

  • アメリカの産業は公務等社会事業が生み出す付加価値が最も高く、鉱業・製造業・公益事業の成長は鈍化し、情報通信・金融・保険・専門・科学・技術サービス業が成長しています。
  • 時価総額のTOP10には1位から6位までアップル、エヌディビア、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタと巨大IT関連企業が独占しています。
  • アメリカの収支で黒字となっている項目は第88類航空機および宇宙飛行体が13兆円と黒字幅では最大。また、米国も産油国なので、第27類鉱物製燃料が8兆円弱の黒字に。赤字の要因は第85類電気機器と第84類機械類がそれぞれ64兆円台と合わせて130兆円近くにまで輸入金額が膨らんでいます。
アメリカの国際貿易統計概要
アメリカの国際貿易統計概要

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。

※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。

アメリカの基礎情報

基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。

アメリカマップ
アメリカマップ(『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年)

人口

合計: 341,963,408人

男性: 168,598,780人

女性: 173,364,628人 (2024推定)

気候

北西部の冬の気温は低いが、1月と2月にロッキー山脈の東斜面から吹く暖かいチヌーク風によって改善されることがある。

注:アメリカ最高峰のデナリは、標高の高さと北緯63度という亜寒帯の位置の組み合わせから、多くの人が世界で最も寒い山とみなしている。山の75%以上が永久に雪と氷に覆われ、長さ45マイル、厚さ3,700フィートにも及ぶ巨大な氷河が麓から四方八方に突き出ている。

天然資源

石炭、銅、鉛、モリブデン、リン酸塩、希土類元素、ウラン、ボーキサイト、金、鉄、水銀、ニッケル、カリ、銀、タングステン、亜鉛、石油、天然ガス、木材、耕地
注:米国は世界最大の石炭埋蔵国であり、その埋蔵量は4,910億トンで、世界全体の27%を占める。

実質GDP(購買力平価)

24兆6,620億ドル(2023年推定)
24兆5,100億ドル(2022年推定)
23兆5,940億ドル(2021年推定)

農産物

トウモロコシ、大豆、牛乳、小麦、サトウキビ、テンサイ、鶏肉、ジャガイモ、牛肉、豚肉(2022年)注:トン数ベースの農産物トップ10

産業

石油、鉄鋼、自動車、航空宇宙、電気通信、化学、エレクトロニクス、食品加工、消費財、木材、鉱業。

輸出入パートナー

輸出
カナダ 16%、メキシコ 15%、中国 8%、日本 4%、英国 4% (2022)
注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国)

輸入
中国 18%、カナダ 14%、メキシコ 14%、ドイツ 5%、日本 4% (2022)
注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国)

港湾総数: 666 (2024)
大規模: 21
中規模: 38
小規模: 132
非常に小規模: 475
石油ターミナルのある港湾: 204
主要港湾:ボルチモア、ボストン、ブルックリン、バッファロー、チェスター、クリーブランド、デトロイト、ガルベストン、ヒューストン、ロサンゼルス、ルイジアナ沖石油港 (LOOP)、モービル、ニューオーリンズ、ニューヨーク市、ノーフォーク、オークランド、フィラデルフィア、ポートランド、サンフランシスコ、シアトル、トライシティ港

ワシントン DC のホワイトハウスの芝生と南側のファサード
ワシントン DC のホワイトハウスの芝生と南側のファサード(『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年)

アメリカの産業が生み出す産業別付加価値

アメリカにおける産業別付加価値の推移
アメリカにおける産業別付加価値の推移
2021年アメリカにおける産業別付加価値の比率
2021年アメリカにおける産業別付加価値の比率

上の二つの図は過去から現在までにおけるアメリカの産業別付加価値の推移と2021年における産業別付加価値の比率を示したものになります。

アメリカの生み出す付加価値はグラフで集計されている1997年以後、2021年に至るまで急速に成長しています。1997年のおよそ8.3兆ドルから2021年には22.5兆ドルとおよそ2倍に成長しました。

2021年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。

21.4% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
16.5% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
14.4% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
12.2% M:専門・科学・技術サービス業
12.0% L:不動産業
8.6% K:金融・保険業
7.5% J:情報通信業
4.2% F:建設業
2.3% S:その他のサービス業
1.0% A:農業・林業及び漁業


大きく区分すると一次産業は1.0%、鉱業・採石業・建設業を含む二次産業は約18.6%とこの2つの産業は付加価値全体19.6%程度であり、残り80.4%はサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。

アメリカにおける産業別付加価値比率の推移
アメリカにおける産業別付加価値比率の推移
直近数年のアメリカにおける産業別付加価値の変化率推移
直近数年のアメリカにおける産業別付加価値の変化率推移

続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。

アメリカにおけるA:農業・林業及び漁業B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1997年には25.4%程ありましたが、2022年は19.6%程と20%を割り込み減少しています。

アメリカの産業において大きな割合があるのは、O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業で1997年から2021年まで20%程度の比率を維持しています。約20年間で比率を伸ばしているのは、M:専門・科学・技術サービス業K:金融・保険業 J:情報通信業でそれぞれ2%程度増加している一方で、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理は5.5%程度と大きく減少しており、絶対値としては2倍程度成長しているものの、他の産業の加速度的な成長に対しては遅れをとっています。

直近5年間の変化率では見ていくと、コロナ禍の2020年と2021年のA:農業・林業及び漁業を除けば基本的にどの産業も右肩上がりとなっています。 J:情報通信業は4年間継続して増加傾向にあり、M:専門・科学・技術サービス業K:金融・保険業も総じて増加傾向にあります。

アメリカ企業の時価総額ランキング

アメリカ企業時価総額ランキング
アメリカ企業時価総額ランキング (引用:TradingView https://jp.tradingview.com/markets/stocks-usa/market-movers-large-cap/(2025/1/21取得))

アメリカ企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP10には1位から6位までアップル、エヌディビア、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタと巨大IT関連企業が独占しています。20位までのランキング全体を見ると金融もそうですが、ウォルマート、コストコ、ホームデポといった小売企業も名を連ねています。

一方で製造業という観点で見ると、電池やEVを製造するテスラや消費財のP&Gくらい(製薬も含めればイーライリリーも)しか20位以内には入っておらず、産業別の付加価値の構造が企業の時価総額ランキングにも表れています。

アメリカの貿易収支の傾向

アメリカの貿易収支金額20年推移
アメリカの貿易収支金額20年推移

アメリカの財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。

2023年の貿易収支はおよそマイナス162兆円(輸出およそ283兆円、輸入およそ445兆円)で世界で最も貿易赤字の大きな国となっています。

アメリカの2023年貿易収支黒字TOP5

2023年におけるアメリカの品目別黒字収支TOP5
2023年におけるアメリカの品目別黒字収支TOP5

2023年のデータにおいて、アメリカで最も黒字金額が大きいのは[第88類:航空機および宇宙飛行体]でおよそ13兆円の黒字です。これはアメリカはボーイングが本拠地を構えているため、輸出が強く、産業としては黒字が大きい項目です。

2位は[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ8兆円の黒字です。アメリカも産油国であるため、黒字幅が大きくなっています。

3位は[第12類:採油用の種及び果実]でおよそ4兆円の黒字です。中でもHS1201大豆が黒字を大きくしています。4位は[第10類:穀物]でおよそ3兆円の黒字HS1005とうもろこしHS1001小麦が牽引しています。

アメリカの2023年貿易収支黒字比率

2023年におけるアメリカの品目別貿易収支黒字シェア
2023年におけるアメリカの品目別貿易収支黒字シェア

貿易収支黒字の比率を見ると、[第88類:航空機および宇宙飛行体][第27類:鉱物製燃料および鉱物油]で黒字品目の50%以上を占めています。この2つの品目が米国の主要な産業と呼べるでしょう。

アメリカの輸出金額の傾向

アメリカの2023年輸出金額TOP5

2023年におけるアメリカの品目別輸出金額TOP5
2023年におけるアメリカの品目別輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、アメリカで最も輸出金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ45兆円です。アメリカは産油国として鉱物製燃料の輸出金額も世界有数となっています。

2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ33兆円の輸出です。特にHS8471パーソナルコンピュータ4.3兆円HS8486半導体製造装置2.8兆円が主要な項目です。

3位は[第85類:電気機器]でおよそ28兆円の輸出です。特にHS8542集積回路6.1兆円HS8517通信機器(スマホ等含む)5.2兆円が主要な項目です。

アメリカの2023年輸出金額比率

2023年におけるアメリカの品目別輸出シェア
2023年におけるアメリカの品目別輸出シェア

輸出金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第85類:電気機器][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第88類:航空機及び宇宙飛行体]で輸出金額の50%以上を占めています。しかし収支黒字の中に、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第85類:電気機器][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]が含まれていなかったことから、これらの品目は輸入も多く、アメリカとして黒字を生み出すような特徴的な産業とまでは言えないでしょう。

アメリカの輸入金額の傾向

アメリカの2023年輸入金額TOP5

2023年におけるアメリカの品目別輸入金額TOP5
2023年におけるアメリカの品目別輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、アメリカで最も輸入金額が大きいのは[第85類:電気機器]でおよそ65兆円です。アメリカにおける消費の大きさや生産プロセスに必要な電気機器を輸入しています。特にHS8517通信機器(スマホ等含む)16兆円HS8542集積回路5兆円が主要な項目です。

2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ64兆円の輸入です。特にHS8471パーソナルコンピュータ15兆円HS8473パーソナルコンピュータ用の部品4.5兆円が主要な項目です。

3位は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ53兆円の輸入です。特にHS8703自動車29兆円HS8708自動車部品12兆円が主要な項目です。

アメリカの2023年輸入金額比率

2023年におけるアメリカの品目別輸入シェア
2023年におけるアメリカの品目別輸入シェア

輸入金額の比率を見ると、[第85類:電気機器][第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品][第27類:鉱物製燃料および鉱物油]で輸入金額の約50%以上を占めています。[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類][第85類:電気機器][第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]は輸出金額のランキングにも含まれていましたが、このように輸入金額もかなり大きいことから、国内の産業規模は大きいものの付加価値が十分ではなく海外との競争が激しいため、収支としては赤字になってしまっています。