はじめに

貿易とは、国際的に物やサービスを売り買いすることを指します。貿易を通じて、日本は海外から原料やエネルギーを輸入し、製品や技術を輸出してきました。貿易の結果は経済に大きく影響し、貿易統計は日本経済の健康状態を把握する重要な手がかりとなります。たとえば近年では、輸入エネルギー価格の高騰などにより日本の貿易収支が大きな赤字になる年が続いています(2024年は5兆4712億円の赤字)。本記事では、高校生にもわかりやすい言葉で、貿易統計の基礎知識を整理し、その見方や最新の動向を解説します。

貿易統計とは

貿易統計は、財務省(税関)がまとめる国際貿易に関する統計です。日本から輸出された物品(金額や数量)や、外国から輸入された物品について、品目別・国別に集計されています。毎月、税関に通関したデータを集めて速報値・確報値が発表され、輸出総額や輸入総額、貿易収支などが公表されます。たとえば令和7年3月の速報では、輸出額9兆8478億円、輸入額9兆3038億円、輸出入差引額(輸出額―輸入額)は5441億円の出超(黒字)となっています​。こうした統計を通じて、どの国や地域・どの品目が増減しているかを把握し、貿易の状況を分析することができます。

貿易統計の基本用語

  • 輸出(ゆしゅつ):日本から海外へ物やサービスを売って出すこと。たとえば日本で作った車を外国に売ると、それは輸出になります。
  • 輸入(ゆにゅう):海外から日本に物やサービスを買って入れること。たとえば外国から原油や農産物を買ってくると、それは輸入です。
  • 貿易収支(ぼうえきしゅうし):一定期間(通常は月次・年次)における日本の輸出総額から輸入総額を差し引いた金額です。輸出額-輸入額で計算し、プラスなら貿易黒字(※)、マイナスなら貿易赤字(※)となります。
  • 黒字(くろじ):ここでは貿易収支がプラスの状態を指します。輸出額が輸入額を上回り、日本が海外に「売る額」が「買う額」を超えている状態です。
  • 赤字(あかじ):貿易収支がマイナスの状態で、輸入額が輸出額を上回っています。つまり日本が海外から買う額のほうが売る額より大きい状態です。
  • 主要品目別動向(しゅようひんもくべつどうこう):どの品目が輸出入の中心になっているかを示す動きのことです。日本の場合、輸出では自動車や電機部品など工業製品が多く、輸入では原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギー資源が大きな比率を占めます​。
  • 主要国別動向(しゅようこくべつどうこう):どの国・地域との貿易額が多いかを示す動きのことです。たとえば日本はアメリカ、中国、韓国などとの貿易額が大きく、アメリカとは輸出超過(黒字)、中国とは輸入超過(赤字)になる傾向があります​。

貿易収支とは

貿易収支は「輸出額-輸入額」で計算されます。たとえば輸出額が10兆円で輸入額が8兆円なら、貿易収支は+2兆円(黒字)になります。逆に輸出額が8兆円で輸入額が10兆円なら、貿易収支は-2兆円(赤字)です。貿易収支がプラスになると、外国から日本へより多くお金が入るということになり、逆にマイナスだと多くお金が外国へ流出することになります。日本は資源が少ない国なので、原油や食料などの輸入にお金を使わねばならず、長期的には貿易赤字になることが多い傾向があります。

近年では、日本の貿易収支は赤字が続いています。2024年の貿易統計(確々報)によれば、輸出額は過去最高の107兆879億円を記録した一方、輸入額も112兆5591億円となり、貿易収支は5兆4712億円の赤字となりました。この4年連続の赤字の背景には、原油や液化天然ガスなどエネルギー価格の上昇が大きく影響しています。また同年の輸出増加要因としては、半導体製造装置の中国向け輸出増加や、自動車輸出の価格上昇や円安による増加が挙げられています。貿易収支は経済全体を示す重要な指標の一つで、毎月の統計発表で輸出・輸入の動向を確認することができます。

品目別・国別の動向

日本の貿易を品目(カテゴリー)ごとに見ると、輸出では工業製品が多くを占めます。具体的には「自動車」「半導体関連部品(電子部品)」「鉄鋼」「自動車部品」「半導体製造装置」などが主力品目です​。特に自動車は日本の輸出を長年支えてきた代表的な産業であり、輸出額も大きい品目です。輸入では、エネルギー関連品目が目立ちます。たとえば「原油や粗油」「液化天然ガス(LNG)」「医薬品」「通信機器」「衣料品」などが日本の主要輸入品目です​。原油やLNGは発電や燃料のため、主に中東諸国やオーストラリアから大量に輸入しています​。

自動車輸出イメージ
自動車輸出イメージ

日本の代表的な輸出品目である自動車の輸出風景(イメージ)。自動車産業は長年にわたって日本の輸出を支えてきました。

貿易の相手国別で見ると、日本はアメリカ、中国、韓国などとの貿易額が大きいです。2024年のデータでは、アメリカとは日本の輸出超過(黒字)が続いており、8兆6281億円の黒字でした。一方、中国とは6兆4430億円の赤字となっており、対中国は輸入が多い状況です。これは、日本からアメリカへ自動車や機械を多く輸出し、アメリカからは半導体やパソコンなどの輸入が増えているためです。また中東諸国との貿易も赤字です。たとえばサウジアラビアやアラブ首長国連邦とは、原油やLNGの輸入が多いため貿易赤字になります。一方、アジア諸国との貿易では日本から機械部品や自動車部品を輸出し、相手国で製品を組み立てるケースが多く、国別で見るとアジア向け輸出が全体の9割を占めています。こうした品目別・国別の構造から、世界の経済状況や為替(円安・円高)の動きが貿易に大きな影響を与えることがわかります。

日本の最近の貿易収支事例

最新の統計を例に、日本の貿易収支を見てみましょう。令和7年(2025年)1月の速報によると、日本の輸出額は7兆8637億円(前年同月比7.2%増)、輸入額は10兆6225億円(同16.7%増)となり、輸入増加が輸出増加を上回ったため、貿易赤字は2兆7588億円に拡大しました。一方、2025年3月の速報では輸出額9兆8478億円、輸入額9兆3038億円、輸出入差引額は5441億円の出超(黒字)となりました。特に3月は、自動車や半導体製造装置などの輸出が伸び、6か月連続で輸出増加となりました。また、為替相場の平均で1ドル約149.55円と円安基調だったことも輸出増に寄与しています​。このように月ごとに輸出入額は変動し、赤字と黒字を行き来しますが、通年では2024年まで4年連続の赤字が続いています。統計の見方としては、年度ごとの推移だけでなく、品目別や国別、月次の動きにも注目すると、何が原因で黒字・赤字になっているのか理解しやすくなります。

まとめ

貿易統計は、日本が海外とどれだけ物を売買したかを数値で示すものです。高校生にもなじみ深い「輸出・輸入」という言葉が登場し、その合計の差(貿易収支)が国の経済状態に影響を与えます。本記事では基本用語をできるだけ簡単に説明しつつ、主要品目(自動車、電機部品、石油製品など)や主要国(アメリカ、中国など)ごとの動向を解説しました。最近の日本では、輸出額は過去最高水準にある一方で、エネルギー価格高騰などから輸入も増え、貿易収支は赤字になっています。データを見るときは、輸出と輸入のどちらが増えているのか、どの品目・国との取引が大きいのかに注意して読み解くと、経済の仕組みがより理解しやすくなるでしょう。