こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)2025年4月2日アメリカのトランプ大統領が大統領令を発し、世界各国への相互関税が適用されることになりました。本記事ではその内容について、事実をベースにまとめを整理していきます。
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今回の大統領令の内容
今回2025年4月2日に発令されたのは、Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficitsという大統領令となります。日本語に翻訳すると「相互関税による輸入規制と、米国の恒常的なモノの貿易赤字に寄与する通商慣行の是正に関する大統領令」となります。
以下の記事がその全文日本語訳となります。是非一度内容を確認してみてください。
大統領令のポイントを挙げるとすれば以下となります。
- 国家的緊急事態の宣言
恒常的かつ大規模な財貨貿易赤字により、米国の製造業や防衛産業基盤が衰退し、国家安全保障上の脆弱性が高まっていると認定。
こうした状況を受けて、米国の国家安全保障と経済に対する「国家的緊急事態」を正式に宣言。
- 問題の原因
二国間貿易関係における相互性の欠如(外国の不均衡な関税率・非関税障壁など)。
貿易相手国が国内賃金や消費を抑制する政策をとり、自国製品の競争力を人為的に高める一方、米国からの輸出需要を減らしている。
これらの累積的影響により、米国内の製造業・防衛産業への悪影響が拡大。
- 追加関税(相互関税政策)の導入
まず、2025年4月5日以降に輸入されるすべての品目に対し「10%の追加関税」を適用する。
2025年4月9日以降は、別途定める「付属書I(Annex I)」に記載された国に対して、国別の従価税率(10%を超える場合も想定)を適用。
これらの追加関税は、米国の貿易相手国が非互恵的な通商慣行を是正するまで継続。
追加関税は既存のあらゆる貿易協定の対象商品にも原則として上乗せされるが、「付属書Ⅱ(AnnexⅡ)」は除外品目。
発表された相互関税表(Reciprocal Tariffs)
メディアで報じられたタリフについては上記のXで投稿されている様な全ての国を網羅したものになっていますが、実際に大統領令に紐づいている「付属書I(Annex I)」は10%関税の国々を除く国々となっています。
また、「付属書Ⅱ(AnnexⅡ)」に記載されている品目については、既に品目別の関税が適用されているものが主になっているため、今回の国別従価税率は免除になっています。免除という言葉はありますが、既に課税済みと捉えると良いでしょう。
トランプ関税一覧
上表は今回各国の関税率と2024年における対米国との貿易収支(千ドル単位)となりますので、是非各国の関税率と実態の収支を照らし合わせて見るのにご活用ください。リストは発表されたタリフリストの順になっていますが、貿易収支の赤字順に並べていただくと、何故あの国の相互関税率が高いのかも理解いただけるかと思います。
国別の関税措置
元データはTax Foundationのこちらの記事より引用
IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく国境安全保障およびフェンタニル関税
トランプ大統領は2025年2月1日、IEEPAの権限に基づき、カナダおよびメキシコに25%、中国に10%の関税を課す3つの大統領令に署名し、これらは2月4日から発効されました。
中国
中国からの全輸入品に対する10%の関税は、2025年2月4日に発効。
2月27日、トランプ大統領は3月4日からさらに10%引き上げると発表し、これは実施済みです。
カナダ
カナダに対する関税は30日間の猶予期間を経て3月4日に発効。
3月5日、大統領は自動車の輸入に対して4月2日までの関税免除を発表。
さらに3月6日には、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に基づく輸入(カナダからの輸入の約38%)に対し、4月2日までの免除を決定。
同時に、USMCAに該当しないカリ肥料(ポタッシュ)に対する関税は10%に引き下げ。
4月2日、これらの免除措置は無期限に延長されました。
3月11日には、カナダの報復に対して鉄鋼・アルミニウムに課している関税を25%から50%に倍増すると発言したものの、同日中に撤回されました。
メキシコ
メキシコに対する関税も30日間の猶予期間を経て3月4日に発効。
3月5日、大統領は自動車の輸入を4月2日まで免除。
さらに3月6日には、USMCAに基づく輸入(メキシコからの輸入の約49%)に対し、4月2日までの免除を決定。
4月2日、これらの免除は無期限に延長されました。
相互関税
2025年2月13日、トランプ大統領は他国の関税・税制・為替政策・不公正な商慣行に対する米国の報復措置として関税を引き上げる計画の作成を命じる大統領覚書に署名。
提言の提出期限は4月1日で、大統領は4月2日から発効させる意向を示していました。
この「相互関税」は、鉄鋼・アルミニウム・自動車・自動車部品などの個別関税が既に課されている製品や、一部のエネルギー関連製品などを除き、ほぼすべての貿易相手国からの輸入品に適用されます。
- 4月2日、大統領は一律10%の関税を発表し、さらに米国との貿易収支に応じて最大50%まで関税を引き上げる方針を発表。
- 4月7日、中国による報復措置を受けて、大統領は中国に対してさらに50%の関税を4月9日から課すと表明し、結果的に「相互関税」下で中国への関税率は125%に達しました。
- IEEPAに基づく国境安全保障・フェンタニル関税を含めると、中国からの大半の輸入品には145%の関税が適用されていることになります。
- 一律10%の関税は4月5日に発効し、4月9日には中国を除くすべての国に対して90日間の適用停止(凍結)が発表されました。
ベネズエラ産石油への関税
トランプ大統領は2025年3月24日、ベネズエラおよびベネズエラ産の石油・天然ガスを購入する国々に対して25%の追加関税を課す大統領令に署名しました。
欧州連合(EU)
トランプ大統領は2025年2月26日、EUからの輸入品に25%の関税を課す計画を発表。
この関税を課す法的根拠は明示されていませんが、4月2日、大統領はEUからの輸入品に対する「相互関税」率を20%に設定しました。
製品固有の関税措置
元データはTax Foundationのこちらの記事より引用
半導体及び医薬品
トランプ大統領は2025年1月27日、コンピューターチップ、半導体、および医薬品に新たな関税を課す方針を発表しました。
2月18日には、半導体および医薬品に対する関税率は「25%以上になる」と発表しました。
なお、これらの関税を課すための権限はまだ明示されていません。
鉄鋼及びアルミニウム
トランプ大統領は2025年2月10日、鉄鋼およびアルミニウムに関する現行の「セクション232」関税措置を拡大する2本の大統領布告に署名しました。
この命令により、これまでの免除措置はすべて終了し、対象となる派生品のリストが拡大されるとともに、アルミニウムに対する関税率は10%から25%に引き上げられました。
これらの変更は2025年3月12日に発効しました。
自動車
トランプ大統領は2025年2月14日、2025年4月2日より自動車の輸入に関税を課す予定であることを発表しました。
また2月18日には、自動車の関税率は「おおよそ25%」になり、半導体および医薬品の関税率は「25%以上」になると述べました。
さらに2025年3月26日には、自動車および一部の自動車部品に対してセクション232に基づき25%の関税を課す大統領布告に署名。
この措置は、自動車については4月3日から、自動車部品については5月3日までに発効される予定です。
カナダおよびメキシコからの一部の輸入品については、米国内コンテンツを条件に免除されます。
銅
トランプ大統領は2025年2月25日、銅の輸入について「国家安全保障に関するセクション232調査」を開始するよう商務省に指示しました。
この調査報告書は2025年11月22日までに提出される予定です。
木材
2025年3月1日、トランプ大統領は木材、製材、およびその派生製品の輸入に関して、セクション232に基づく国家安全保障調査を開始するよう商務省に指示しました。
調査報告書は2025年11月26日までに提出される予定です。
農産物
2025年3月3日、トランプ大統領は「外部の」農産物に対する関税を4月2日から開始すると投稿しました。
報復関税
元データはTax Foundationのこちらの記事より引用
中国
- IEEPAフェンタニル報復措置:
2025年2月10日から、米国の輸出品139億ドル(農業機械や石油などを含む)に対し10%および15%の関税を発動。
2025年3月10日から、195億ドル相当の米国の輸出品(農産品などを含む)にも10%および15%の関税を発動。 - IEEPAユニバーサル報復措置:
2025年4月4日、中国は米国からの全輸出品(1,440億ドル相当)に対して34%の関税を発表。
4月9日には、すべての米国製品に対する報復関税を84%に引き上げ、
4月11日には、報復関税を125%にまで引き上げた。
カナダ
IEEPAフェンタニル報復措置:
2025年3月4日から、208億ドル相当の米国製品に対して25%の関税を発動。
2025年3月23日には、867億ドル相当の米国製品に対する25%の関税が予定されている。
また、オンタリオ州から米国への電力輸出に対する25%の課税案も計画されているが、現在は一時停止中。
セクション232(鉄鋼・アルミ)報復措置:
2025年3月13日から、207億ドル相当の米国製品に対して25%の関税を発動。
セクション232(自動車)報復措置:
305億ドル相当の米国製自動車に対して25%の関税。
欧州連合(EU)
セクション232報復措置:
以前に一時停止されていた関税を解除し、最大50%の関税を課す予定。
2025年4月1日から80億ドル相当の米国製品(ウイスキーを含む)が対象。
さらに、4月13日から追加で200億ドル相当の米国製品にも関税を拡大予定。
米国の製品別貿易収支(赤字の大きい製品は何か)
上表はHSコード4桁で見る、製品別の米国貿易収支金額となります。製品別に赤字金額の大きい項目で並んでいますので、米国がどういった製品の赤字を解消したいと考えているのかを個別に確認することができます。
貿易赤字の金額を見ると、自動車関連製品の輸出(米国にとっての輸入)が、なぜここまで槍玉に上がっているのかが理解できます。
トランプ大統領が関税を有効とした根拠
ホワイトハウスがリリースしているTariffs Work — and President Trump’s First Term Proves Itをご覧いただくと、米国政府がどのような根拠を元にこの関税施策を推し進めているのかが垣間見えます。以下にその根拠となる論述を列挙します。主に前回の在任期間を検証した論述が多くなっています。
- Economic View: Tariffs Have Strengthened the U.S. Economy:JEFF FERRY
- 2024年に行われたトランプ大統領の第一期関税政策の影響に関する研究では、これらが『米国経済を強化し』、製造業や製鉄業などの産業分野において『大幅な国内回帰をもたらした』ことが示されている。
- Economic Impact of Section 232 and 301 Tariffs on U.S. Industries:米国国際貿易委員会
- 2023年に米国国際貿易委員会が発表した報告書では、トランプ大統領によるセクション232および301条関税が3,000億ドル超の米国輸入品に及ぼす影響を分析した。その結果、これらの関税は中国からの輸入を減少させ、該当商品の米国内生産を効果的に増加させ、下流産業の価格にはごく軽微な影響しか及ぼさなかったことが明らかになった。
- Tariff increases did not cause inflation, and their removal would undermine domestic supply chains:エコノミック・ポリシー・インスティテュート(EPI)
- 2018年にセクション232措置が導入された後、2020年に世界経済が落ち込むまでの間に、米国の鉄鋼生産、雇用、設備投資、財務状況はすべて改善した。特に米国の鉄鋼メーカー各社は、既存施設のアップグレードや新規建設に157億ドル超を投資し、少なくとも3,200人の新規直接雇用を創出する計画を発表しており、その多くがまもなく稼働準備に入っている。
- US Tariffs on Mexico:アトランティック・カウンシル
- アトランティック・カウンシルによる分析では、『関税を導入することで、米国の消費者が米国製品を購入する新たな動機を生む』と指摘している。
- Global Trade At A Crossroads: Trump Tariffs Forge Better Credit Quality For U.S.-Based Steel And Aluminum Producers With A Protectionist Stance:S&P Global
- 「世界貿易の岐路:保護主義的な姿勢によって、トランプ関税が米国の鉄鋼・アルミニウム製造業者の信用力を改善」
ホワイトハウスのページには更に参照している引用元がありますが、どうでしょう、下の文献に行くほどメディア記事的な物も目立ち、論拠として語るにはやや弱い物もありそうです。
米国関税の時系列変化
最後にこれまでの関税に関する時系列の動きを整理しています。元データはTax Foundationのこちらの記事です。本記事よりも詳細まとまっておりますので、こちらも是非ご覧ください。
- 2025年4月11日
- 米国の輸出に対する中国のより高い報復関税率を反映した加重平均関税率に関する新たなチャートを掲載
- 2025年4月10日
- ほぼすべての米国の貿易相手国に適用されるいわゆる相互関税の引き上げを90日間凍結する措置および中国に対する相互関税率を125%に引き上げる決定を反映
- 2025年4月9日
- 中国からのすべての輸入品に 50 パーセントの追加関税を反映
- 2025年4月4日
- 中国とカナダによる新たな報復関税を反映
- 2025年4月3日
- 4月2日の包括的関税に関する免除リスト(4月3日公開)を反映
- 2025年4月3日
- トランプ大統領による国家経済緊急事態に関連した新関税を反映
- 60の貿易相手国に個別税率
- その他の国には10%
- 非USMCAのカナダ・メキシコからの輸入には12%(IEEPAフェンタニル関税終了後)
- 自動車・鉄鋼・アルミニウム関税も再調整
- トランプ大統領による国家経済緊急事態に関連した新関税を反映
- 2025年4月1日
- セクション232に基づく自動車および自動車部品関税の詳細を追加
ベネズエラおよび同国から石油を輸入する貿易相手国に対する関税措置を反映
- セクション232に基づく自動車および自動車部品関税の詳細を追加
- 2025年3月25日
- ベネズエラおよびその石油・ガス購入国への「二次的」関税の脅威を追加
- 2025年3月21日
- EUによるセクション232関税への報復措置に関するタイムラインを追加
- 2025年3月12日
- IEEPA関税の変更およびセクション232鉄鋼・アルミニウム関税の影響についての税収・経済試算を反映
- 2025年2月(具体日付なし)
- カナダ・メキシコ・中国への新関税を正式発動
- 米国が3大貿易相手国に対して包括的な貿易制限措置を導入
- 2025年1月~2月
- 木材および農産品への関税の検討を反映
- EU向け25%関税および中国向けの税率引き上げに関する新たな試算
- 2025年における貿易戦争のタイムラインと自動車・鉄鋼・アルミニウム関税の分析を追加
- トランプによる鉄鋼・アルミニウム関税の拡大措置に関する分析を反映
- 関税に伴う税収データを更新
- 中国による報復関税とその影響額の試算
- de minimis制度の終了による税収効果の追加
- 所得分布と関税の経済的影響の歴史的検証を反映
- カナダ産エネルギー資源に対する10%関税を反映
- カナダ・メキシコへの25%関税の可能性(2月1日以降)についての試算
- 2023年までの輸入・関税データを反映したモデルの更新
- 関税対象品目リストに2022年データ列とTRQ制度の影響を追加
- 2023年2月
- 洗濯機への関税が終了(3年間+2年間延長の満期)
- 太陽光パネルの一部輸入に対する関税免除(東南アジア4か国)を反映
- 2022年〜2023年
- EU・英国・日本とのTRQ協定により鉄鋼・アルミニウム関税を代替
- 該当国からの派生品への関税を撤廃
- 報復関税も終了
- 輸入量の変化を可視化する新表を追加
- 2021年夏
- ボーイング・エアバス紛争に関するEU製品への関税を5年間停止
- タイムライン表示を再構成
- 2020年8月16日
- 米国がカナダ産アルミニウム25億ドル相当への関税を再導入
- カナダが報復関税を発動
- 2020年9月以降
- 米国がアルミ関税を撤回
- 2019年12月
- 米中「フェーズ1合意」
- リスト4bに対する15%関税の実施を延期
- リスト4a関税を15%から7.5%に引き下げ
- 2019年9月1日
- リスト4a(1120億ドル相当)への15%関税が発動
- 2019年8月
- リスト4b(1600億ドル相当)への15%関税の実施日(12月15日)を設定
- 当初予定の10%→15%に引き上げ
- 2019年5月
- リスト3(2000億ドル)への関税を10%から25%に引き上げ
- 2018年7月〜9月
- セクション301に基づき中国製品に段階的に関税を導入
- 7月:リスト1(340億ドル)に25%
- 8月:リスト2(160億ドル)に25%
- 9月:リスト3(2000億ドル)に10%(後に25%へ)
- セクション301に基づき中国製品に段階的に関税を導入
- 2018年3月
- セクション232に基づき鉄鋼(25%)・アルミ(10%)に関税を導入
- 同盟国には一時的免除措置が適用
- 2018年1月
- セクション201に基づき、洗濯機(3年間)・太陽光パネル(4年間)に関税を導入