こんにちは、海運と経済をつなぐメディアLanesです。(Twitterはこちら)今回は、海運業界の脱炭素化:「国際的な枠組み」と「政策」についてまとめていきます。海外ではIMOが策定した2050年のGHG削減目標を目指し、積極的に業界と国が連携しイニシアティブを取っています。日本でも具体的な投資や技術開発が動き出しているため、是非本記事をチェックして今の動向を押さえていきましょう。
グローバル動向
グリーン海運回廊(Green Shipping Corridors)
グリーン海運回廊の概要
グリーン海運回廊はGetting to Zero Coalitionが提唱している温室効果ガスを排出しないゼロエミッション船の運航を目指す特定航路を立ち上げるという目標になります。
Getting to Zero Coalition とは
Getting to Zero Coalitionは、世界海事フォーラムと世界経済フォーラムが共同で設立したものです。海運のバリューチェーン全体から意思決定者を集め、エネルギー部門、政府、IGOの主要なステークホルダーが参加しています。この活動は、UCLエネルギー研究所、環境防衛基金、エネルギー移行委員会などのナレッジパートナーの支援を受けています。
Global Maritime Forum
この目標が掲げられた背景は、以下記事の「3.3.1 脱炭素」に記載がある通り、海運業界は大きなCO2排出削減目標に取り組まなくてはならず、政府や政府間組織、業界団体等が横断的に連携すべきテーマとなっているためです。
グリーン海運回廊は2021年10月31日から2021年11月13日にかけてグラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)でも議題としてあがり、グリーン輸送回廊に関するクライドバンク宣言として現在24の国々が署名しています。(後述)
グリーン輸送回廊のポイント
Getting to Zero Coalitionは「The Next Wave Green Corridors」というレポートをリリースしており、gardによるグリーン海運回廊の開設に必要な4つのポイントでは以下の様に示されています。
1,バリューチェーン横断型の連携:グリーン海運回廊を開設するには、脱炭素化にコミットし、ゼロエミッション輸送実現のために需要・供給の双方からバリューチェーン横断型の新しい形の連携を進んで模索していくようなステークホルダーが必要です。
2,実用性のある燃料路線:ゼロエミッション燃料の入手しやすさとゼロエミッション船への供給インフラが重要な要素となります。
3,顧客からの要望:エコな輸送を求める顧客からの要望を総動員し、回廊でのゼロエミッション輸送を拡大させるような状況を整える必要があります。
4,政策と規制:化石燃料とのコストの差を縮め、安全対策を進めるためには、政策インセンティブと規制が必要になります。
gard (COP 26を終えて – 海事産業の脱炭素化の進展状況 / After COP 26)
海運は複数の国に跨る性質のある世界単一市場の業界であるため、各国機関の協力が不可欠であり、かつ、リーズナブルなコストで運用できる技術が不可欠です。また、サプライチェーン全体での調整も必要となるでしょう。
4番目については、今現在に置いてもLNGの高騰により結局化石燃料が使われているという現状があります。
クライドバンク宣言
クライドバンク宣言の概要
クライドバンク宣言は先述の通りCOP26で署名された「グリーン海運回廊を推進するための各国間合意」です。イギリス政府が公開しているポリシーペーパーによれば、2022年4月現在、オーストラリア/ベルギー/カナダ/チリ/コスタリカ/デンマーク/フィジー/フィンランド/フランス/ドイツ/アイルランド/イタリア/日本/マーシャル諸島共和国/モロッコ/オランダ/ニュージーランド/ノルウェー/パラオ/シンガポール/スペイン/スウェーデン/イギリスおよび北アイルランド/アメリカ合州国の22カ国が署名しています。以下の通りLanesのTwitterでもアメリカのファクトシートを取り上げていましたね。
クライドバンク宣言のポイント
クライドバンク宣言のミッションステートメントを見てみましょう。(原文を機械翻訳したものとなります。)
ミッションステートメント
この宣言の署名者は、2つ以上の港を結ぶゼロエミッションの海上輸送ルートであるグリーン航路の確立を支援することである。
この10年の半ばまでに、少なくとも6つのグリーン航路の設立を支援することが我々の目標であり、次の年には、より多くの航路、より長い航路、同じ航路をより多くの船舶が利用することを支援し、活動を拡大することを目指している。そして、2030年までにさらに多くの航路が開設されることを目指します。私たちは、この10年の半ばまでにこれらの目標を評価し、緑の回廊の数を増やすことを視野に入れています。
これらの目標を達成するために、附属書Aに示されたアプローチに基づき、署名者は以下を誓う。
海運部門と燃料供給の脱炭素化を加速するため、港湾、運航会社、その他バリューチェーンの関係者が参加する パートナーシップの確立を、グリーン船舶回廊プロジェクトを通じて促進する。
グリーン回廊の形成に対する障壁に対処するための行動を特定し、検討する。これは、例えば、規制の枠組み、インセンティブ、情報共有、インフラを対象とすることができる。
国家行動計画の策定または見直しに、緑の回廊のための規定を含めることを検討する。
緑の輸送回廊を追求する際に、環境への影響と持続可能性についてより広い配慮がなされることを確実にするための作業。
英国政府(Policy paperCOP 26: Clydebank Declaration for green shipping corridors
Updated 13 April 2022)
発表を見る限り、グリーン海運回廊を各国各機関の協力を得ながら強力に推進していく座組みであること、また、そのためのインセンティブの設計や新たなビジネスチャンス、社会経済的なメリットを作っていくことがこの宣言の大きな目的であると言えます。今後もこの取り組みには注目していきます。
クライドバンク宣言については、公益財団法人 地球環境戦略研究(IGES)からもブリーフィングノートが出ておりますのでご関心があればご覧ください。
ポセイドン原則(Poseidon Principles)
ポセイドン原則の概要
ポセイドン原則とは、2019年6月に船舶融資を手がける欧州の金融機関主体で設立された、「船舶や船舶融資に関わる気候変動に対する評価および開示のためのフレームワーク」であり、GHGの削減に寄与する取り組みとなります。
ポセイドン原則には、海運ポートフォリオを持つ貸し手、貸し手、および金融保証人が署名者になることが可能です。現在は、ABN Amro / BNP Paribas / Bpifrance / Citi / CIC / Crédit Agricole / Credit Suisse / Danish Ship Finance / DanskeBank / DBJ / DNB / Eksfin / Finnvera / ING / MUFG / Nordea / OCBC / SACE / SEB / Shinsei / Société Générale / SpareBank 1 / Sparebanken Vest / Standard Chartered / SMBC / SMFL / SMTB の27行が署名しています。
ポセイドン原則のポイント
ポセイドン原則の概要をみると以下の4つの原則から成り立っています。
原則1:気候変動の評価
署名企業は、毎年、ポセイドン原則で確立された方法を用いて、自社の船舶ポートフォリオの炭素強度を測定し、気候変動との整合性(確立された脱炭素化の道筋に対する炭素強度)を評価します。
原則2:説明責任
署名機関は、気候変動に関する評価と報告に使用される偏りのない情報を提供するために、船級協会またはその他のIMOが承認した組織とIMOが定めた強制的な基準に頼ることになる。
原則3:エンフォースメント
高品質なデータへのアクセスを確保するため、新規事業活動において標準的な特約条項を契約化する。
原則4:透明性
ポートフォリオの気候変動との整合性に関するスコアを、年次で公表する。
Poseidon Principles(Aligning ship finance with society’s goals)を機械翻訳
ポセイドン原則に署名することにより、年に一度、船舶融資に関わるポートフォリオがIMOが掲げる削減目標に適合しているかを評価、公表することとなります。この公開に対して何か明確なメリットが享受できる訳ではありませんが、最近話題になっている気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)等の動きもあり、こういった情報開示は避けて通れなくなるでしょう。
肝心の評価の公開ですが、ポセイドン原則の公式ページResourcesに掲載されているAnnual Disclosure Reportから確認することができます。Portfolio climate alignment scoreという指標で表現されていますが、詳細はまた別の機会に触れたいと思います。
海上貨物憲章(Sea Cargo Charter)
海上貨物憲章の概要
海上貨物憲章とは、2020年10月に荷主や海運会社主体で設立された、「世界中の船舶用船活動に関わる気候変動を評価および開示するためのフレームワーク」であり、GHGの削減に寄与する取り組みとなります。先に紹介したポセイドン原則の荷主版と言っても差し支えないでしょう。
海上貨物憲章には、すべての傭船者が参加する資格があります。現在は、ADM / AMAGGI Switzerland / Anglo American / Bunge / Cargill Ocean Transportation / Chevron / COFCO International / Copenhagen Commercial Platform (CCP) / Diamond Bulk Carriers / Dow / Eagle Bulk / Enviva / Equinor / Global Chartering / Golden-Agri Maritime / Gunvor Group / Holcim Trading / K+S Minerals and Agriculture GmbH / Klaveness Combination Carriers / Louis Dreyfus Company / Maersk Tankers / Navig8 Group / Norden / Nova Marine Carriers / NYK Bulkship (Atlantic) NV / Rubis Energie / Shell / Tata Steel Group / Torvald Klaveness / TotalEnergies / Trafigura / Viterra Chartering B.V.の32社が署名しています。
海上貨物憲章のポイント
海上貨物憲章の概要をみると以下の4つの原則から成り立っています。
原則1:気候変動との整合性の評価
署名者は、毎年、GHG排出強度とGHG総排出量を算出し、海上貨物憲章で定められた方法を用いて、自社の船舶運航活動の気候変動への適応度(確立された脱炭素化軌道に対する炭素強度)を評価するものとする。
原則2:説明責任
署名者は、公平な情報を提供するために、検証メカニズムが重要な役割を担っていることを認識する。気候変動との整合性を評価する各段階において、署名者は、技術ガイダンスで特定されたデータの種類、データ源、 サービス提供者にのみ依存する。
原則3:実施
高品質なデータへのアクセスを確保するため、新規事業活動において、推奨されるチャーターパーティ条項を契約化する。
署名者は、新規の用船活動において、契約上の手段により、海上貨物輸送憲章の遵守を確保することを約束する。署名者は、船主、荷主、ビジネスパートナーと協力し、炭素集約度や総GHG排出量の計算、気候変動との整合性を評価するために必要な情報を収集・処理することに合意する。
原則4:透明性
署名者の適格な認証活動に関する気候変動への適応度を、年1回公表する。
Sea Cargo Charter(Aligning chartering activities with society’s goals)を機械翻訳
ポセイドン原則とほぼ同じですね。なお、荷主/傭船者については、自社のSustainable Reportの中でその適応度を公表することになっており(事務局からも発表あり)、最初の公表は2022年6月15日とまさに”これから”となります。