こんにちは、海運と経済をつなぐメディアLanesです。(Twitterはこちら)今回は、好況に沸いた2021年〜2022年のコンテナ市況を振り返り、この好況を経て海運会社の積載能力がどう変化したのかを分析していきたいと思います。この記事をご覧いただくことにより、好況時の海運会社の動きや、今後のコンテナ市場の見通し把握の参考にしていただくことができます。

具体的には、運賃の高騰とそれによる海運会社の収益性の向上により、コンテナ各社の船舶投資と積載能力がどのように変化したのか、また、海運会社の株価がどの様に推移したのかを取り扱っており、

  • コンテナ好況の影響を理解されたい方
  • 海運会社の今後について知りたい方

に喜んでいただける記事になっています。それでは詳細を見ていきましょう。

好況だったコンテナ市況が、海運会社にもたらした変化とは?

コンテナ上位100社の積載能力と運賃相場を時系列で見る

2021年、海運業界はサプライチェーンの混乱と物流需要の高まりによる運賃高騰で大きな変化を伴う1年となりました。長くボトムだった海運市況の中で、結果的に海運企業に取っては大きな利益をもたらした年とも言えるでしょう。

一方で2022年運賃は下降線を辿り、わずか2年で運賃相場は元のボトムの水準に逆戻りとなりました。これからはまた厳しい市況が予測されています。ここで得た利益をどの様に使っていくのか、海運企業に取っては、各社の色が出る部分であり経営力が試されます。

今回はコンテナ会社に着目し、この好況時でどの様に各社が投資をし積載能力を変化させているか分析していきます。全体的な傾向と共に、各社の動きを見ていきましょう。

出所:Alphaliner TOP 100(船舶データ) / Freightos(運賃データ)

上図はAlphalinerから参照した、コンテナ上位100社の所有船TEU、用船TEU、既に発注済みの船舶のTEUの時系列情報に、Freightosが発表しているコンテナ運賃指数(Freightos Baltic Index (FBX): Global Container Freight Index)の時系列情報を重ね合わせたグラフとなっています。

(※コンテナ運賃の水準はCCFI(中国輸出コンテナ運賃指数)が参照されることが多いですが、マクロ観点での動向把握を主旨として今回はFreightosのデータを採用しています。)

このグラフから、以下の様なポイントが読み取れるのではないでしょうか。

  • (2020年まで)運賃指数が入手可能な2017年から2020年初頭まで運賃水準は低迷。所有船/用船を合わせた合計の積載能力は少しずつ上昇。低迷期は資産の効率的な運用やリスク回避の視点から所有船よりも用船の比率が高い。
  • (2020年末〜2021年初頭)コンテナ運賃は2020年の夏頃から上がり始めている。2020年末から2021年の頭にかけて急激に運賃指数の傾きが上向く。それと同時にオーダーブックも増え始める。
  • (2021年中期)今回はデータを取っていないため推測だが、2021年の中頃には中古船の調達によるものなのか、自社船による積載能力が伸び始める。一方で用船の積載能力は全体として下降トレンドに入る。
  • (2021年後期)運賃水準がピークを迎える。オーダーブックの伸びが少し穏やかになり始める。
  • (2022年初頭)運賃がピークを超えて下降トレンドに入り始める。所有船と用船の比率が逆転し所有船比重が高まる。
  • (2022年中期〜後期)急激に運賃相場が落ち込み2020年の水準に戻る。一方で所有船比重の上昇およびオーダーブックの増加は引き続き続いており、今ピークを迎えているまたは、まだピークを迎えていない可能性がある。

2020年までの水準では、常に発注残が250万TEUほどあり、所有船のTEUが1000万TEU程で維持されていたため、船隊のリプレース含めてバランスが取れていたと仮定すると、2023年1月現在、既に市況が2020年までと同水準に戻ったならば、現状の650万TEUと250万TEUの差分である400万TEU分は大雑把な計算でも過剰な供給余白として残ってしまう可能性が示唆されます。

そして、このリスクを回避するために従来であれば用船契約の比重を厚めにする傾向があったところを、直近ではその比率が逆転しているため、運賃が下がる程、ダイレクトに船の資産運用効率(ひいては経営効率)が悪化する可能性を孕んでいます。また、当然ながら更に拡大する船余りは運賃相場を更に悪化させる要因になるでしょう。

コンテナ各社の積載能力はどう変化したか

出所:Alphaliner TOP 100(単位:TEU)
出所:Alphaliner TOP 100(船舶データ)

主要な各社の所有船/用船比率を見ていきたいと思います。2016年8月と2023年1月の個社毎のデータから、各社の所有船の積載能力と用船の積載能力の変化を表と散布図でそれぞれ表現しています。

まずは表のOwned/Charterd比率に注目していただきたいのですが、2016年8月時点ではマースクを除く4社は用船比率を高めた船団構成になっています。それが2023年1月時点においては、5社共に所有船比率が高まっており、中でも用船比率が高かったCOSCOとONE(2016年はNYK/MOL/K-LINEのデータを合算して、便宜的にONEとして取り扱っています。)は2023年1月現在では所有船の積載能力が用船を上回っているという状況です。

面白いのはマースクと最近マースクを抑えて積載能力世界トップに躍り出たMSCの比率の違いです。マースクは2016年から所有船比率が高く、2023年ではそこから更に所有船比率を伸ばしています。MSCはトータルの積載能力増加率は圧倒的であるものの、ここで取り上げた5社の中では用船比率が最も高い構成になっています。

これは各社の戦略の違いが表れている部分と言えるでしょう。グローバルインテグレーターを目指すマースクは、所有船の比率を高めることにより、より柔軟にサプライチェーンの変化に合わせた船の配置を可能にする意図があるのかもしれません。MSCは積極的に船団を大きくしている様に見えて、用船比率を高めることで、今後の市況悪化に対するヘッジをしている様にも見えます。

散布図を見て目立つのが、COSCOが大幅に所有船の積載能力を増加させていることと、ONEが所有船の積載能力を増加させるのに加えて、用船を減らしているという変化です。これから想定される運賃が下がっていく市況の中で、特に自社所有船比率の高い海運会社がどのような戦略をとるのかには注目していきたいところです。

今後の注目ポイント

ここまでを振り返り、今後のコンテナ市場を注視ポイントは以下ではないかと考えています。

  • 海運好況をきっかけに、海運企業の有する船の所有/用船比率が逆転したが、運賃水準が悪化した後の影響はどうか。
  • 2023年1月現在でオーダーブックはまだピークをつけていない可能性がある。
  • 海運各社の所有船/用船比率がそれぞれ特徴を持って異なっており、今後の業績への影響に注視。
  • 各社の好況時に得た利益の投資用途

本記事を執筆した少し前に、2Mアライアンスの解消が大きなニュースとして取り上げられました。市況の変化と各社それぞれの投資方向性が出てくる今後、海運業界構造も変化していくのではと想像しています。

番外編)運賃の変化に対して、海運会社の株価はどう振れていたのか

最後に市場はどう見ているのでしょうか。コンテナ運賃相場の変化と海運会社の株価の変化についても振り返りたいと思います。以下はGlobal Container Freight Indexと日本郵船およびマースクの株価の変化を比較したグラフになっています。

出所: Freightos(運賃データ)
出所: Freightos(運賃データ)

Global Container Freight Indexのピークは2021年9月9日に記録した$11,137となります。日本郵船の株価のピークは2022年03月18日の4,133円(分割後水準)、マースクの株価のピークは2022年01月13日の24,800デンマーククローネとなっています。

日本郵船はコンテナ運賃指数のピークから約6ヶ月後、マースクは約4ヶ月後に株価のピークがきています。日本の3大船社はほぼ同じ動き方をしている一方、ハパッグロイドは2022年4月27日に、COSCOは2021年5月31日に株価のピークを取る等、海外においてはばらつきがある結果でした。

特徴的なのは、運賃水準は既に好況前と同じ水準のボトムに差し掛かっているのに対し、株価は下降トレンドに入っているものの、その下落率は鈍いという状況です。これは海運業界の動向のみならず、米国の利上げが徐々に落ち着いていている等、全体的な投資環境の変化にも影響されるものですが、市場の海運企業に対する見方の一つとして参考までに触れました。