こんにちは、国際貿易動向を伝えるメディアLanesです。(Xはこちら)今回は日本の貿易収支傾向とそこから見る主要産業を紹介します。この記事をご覧いただくことにより、産業としての強みや財の貿易で稼ぐ力が見えてきます。
日本の貿易収支の傾向と主要な産業をまとめると以下の通りです。
- 日本の産業は製造業・インフラ業と小売・サービス業の生み出す付加価値が高いことが特徴です。
- 時価総額のTOP20には製造業・通信・金融企業が多く見られます。
- 日本の収支は2023年でマイナス9兆円の赤字となっており、20年間の大きなトレンドとしては赤字幅が拡大しています。日本の収支で黒字となっている項目は[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]の自動車産業が18.6兆円と黒字幅では最大。その一方で赤字となっている要因は[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ27兆円を輸入しています。

※本来はドルベースでの比較が良いと思いますが、今回は分かりやすいように日本円に変換しているため、時系列データは為替の影響を含むものになっています。数字の増加や減少傾向はそちらを考慮の上捉えていただければと思います。
※本記事で取り扱っているのはモノの貿易の側面のみとなります。本来的な国の経常収支ではありませんのでその点もご了承ください。
日本の基礎情報
基礎情報の項目はすべて『ワールドファクトブック2024』ワシントンD.C.:中央情報局、2024年の情報に基づいています。


人口
合計: 123,201,945人
男性: 59,875,269人
女性: 63,326,676人 (2024年推定)
気候
南部は熱帯性、北部は冷温帯性である。
天然資源
鉱物資源、魚類はごくわずか
注: 天然エネルギー資源がほとんどないため、日本はほぼ完全に輸入エネルギー源に依存している。
実質GDP(購買力平価)
5 兆 7,610 億ドル (2023 年推定)
5 兆 6,520 億ドル (2022 年推定)
5 兆 5,990 億ドル (2021 年推定)
農産物
米、牛乳、テンサイ、野菜、卵、鶏肉、ジャガイモ、キャベツ、サトウキビ、豚肉(2022年)
注:トン数に基づく上位10の農産物
産業
自動車、電子機器、工作機械、鉄鋼・非鉄金属、船舶、化学薬品、繊維、加工食品
輸出入パートナー
輸出
米国19%、中国19%、韓国7%、台湾7%、タイ4%(2022) 注:輸出シェアに基づく上位5カ国の輸出相手国
輸入
中国 22%、オーストラリア 10%、米国 10%、UAE 5%、サウジアラビア 4% (2022) 注:輸入シェアに基づく上位5カ国の輸入相手国
港
総港数: 163 (2024)
大: 11
中: 26
小規模: 54
極小: 71
規模不明: 1
石油ターミナルのある港: 99
主要港:川崎港、神戸港、三河港、長崎港、名古屋港、尾道糸崎港、大阪港、東京港、若松港、和歌山下津港、横浜港

日本の産業が生み出す産業別付加価値


上の二つの図は過去から現在までにおけるに日本の産業別付加価値の推移と2021年における産業別付加価値の比率を示したものになります。
日本の生み出す付加価値は1994年以後停滞しており、2021年に至るまで横ばいの状況です。大きなトレンドとしては、2012年にピークを迎えた後、2013~2015にかけて大きく落ち込んでしまいました。その後アベノミクスで持ち直すも、25年前とほぼ同水準という状況です。
2021年における産業別付加価値の比率を見ると、以下の順で付加価値を生み出しています。
23.4% B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理
19.2% G,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業
17.0% O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業
12.0% L:不動産業
8.8% M:専門・科学・技術サービス業
5.5% F:建設業
5.1% J:情報通信業
4.3% K:金融・保険業
3.8% S:その他のサービス業
1.0% A:農業・林業及び漁業
大きく区分すると一次産業は1.0%、鉱業・採石業・製造業・建設業含む二次産業は約28.9%とこの2つの産業は付加価値全体の29.9%を占めており、残り70.1%がサービス業を中心とした構成になっていることが分かります。


続いて各産業別付加価値比率の経年推移と直近数年間の変化率を見ていきます。
日本におけるA:農業・林業及び漁業、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理及びF:建設業を加えた、一次産業+二次産業の比率は1994年には36.6%あり、2021年は29.9%と6.7%その比率を下げています。
日本の産業において最も大きな割合があるのは、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理で1994年の26.8%から2021年の23.4%と、3.4%程比率を落としながらも維持しています。
続いてG,H,I:卸売・小売業並びに修理業・運輸・保管業・宿泊・飲食サービス業が、1994年の22.1%から2021年の19.2%と、こちらも2.9%程比率を落としながらも上から2番目の比率です。
そんな中で比率を伸ばしているのは、O,P,Q:公務及び国防・義務的社会保障事業・教育・保健衛生及び社会事業が1994年の12.3%から17.0%へ4.7%増加、M:専門・科学・技術サービス業が1994年の4.5%から8.8%へ4.3%増加しています。
直近4年間の変化率では、コロナ禍では各産業ともマイナス成長となっていますが、K:金融・保険業とJ:情報通信業がコロナ禍にも関わらず成長を見せているのと、B,C,D,E:鉱業・採石業、製造業、電気・ガス・空調供給、水道・下水処理・廃棄物管理も2021年に大きく回復しています。
日本企業の時価総額ランキング

日本企業の時価総額ランキングを見ていきます。時価総額のTOP20には製造業・通信・金融企業が多く見られます。
製造業ではトヨタ自動車が1位に輝いており、それにつづき3位にソニー、4位に日立、5位にキーエンスとTOP5にものづくりを軸にした企業が並んでいます。また、通信では10位NTT、18位KDDI、20位ソフトバンクと大手通信キャリア3社がランクインしています。更に金融では2位、三菱UFJフィナンシャルグループ、8位三井住友フィナンシャルグループに続き、9位のソフトバンクグループも投資会社としての側面が強いと言えるでしょう。
日本の貿易収支の傾向

日本の財の貿易収支はこの20年間で赤字の傾向が拡大するトレンドになっています。
2023年の貿易収支はおよそマイナス9.3兆円(輸出およそ101兆円、輸入およそ110兆円)で2023年に初めて輸出が100兆円を超えたものの、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]の輸入金額が膨らみ、赤字幅は長期トレンドでは大きくなってきています。
2011年には東日本大震災が発生し、その後数年間は赤字が進みました。2013〜2014年にかけて米国のシェールオイル開発で石油がダブつき、石油価格が大幅に下落したことで2015年頃から収支が大きく回復しましたが、直近2年はロシアーウクライナ戦争により再び石油価格が高騰して収支が悪化しています。
日本の2023年貿易収支黒字TOP5

2023年のデータにおいて、日本で最も黒字金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ18.6兆円の黒字です。これはトヨタをはじめとする自動車産業が世界各国への輸出を牽引すると同時に、産業としての付加価値も自動車は高いこと示しています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ8.5兆円の黒字です。詳細を見ると、HS8486半導体製造機械及び関連装置で3兆円弱、HS8429自走式土工機械(ブルドーザーやショベルカー等の建機)で2兆円弱の黒字を作り出していました。
一方で、[第85類:電気機器]はこの後出てくる輸出・輸入共に金額面でランクインをしていますが、日本における収支は赤字となっており、国際的な競争の激化と共に、日本における電気機器の付加価値が弱まっている現状を示しています。
日本の2023年貿易収支黒字比率

貿易収支黒字の比率を見ると、[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]と[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]で黒字品目の59%を占めています。日本のものづくりで対外的に稼ぎが大きいのは、「自動車」「半導体製造装置」「建機」の3つであると言えるでしょう。
日本の輸出金額の傾向
日本の2023年輸出金額TOP5

2023年のデータにおいて、日本で最も輸出金額が大きいのは[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]でおよそ22兆円です。主にHS8703自動車15.5兆円、HS8708自動車部品3.8兆円でこの金額を構成しています。
2位は[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]でおよそ18兆円の輸出です。特にHS8486半導体製造装置3.5兆円、HS8429建設用機械1.9兆円が主要な項目となっています。
3位は[第85類:電気機器]でおよそ14兆円の輸出です。特にHS8542集積回路4.3兆円、HS8541半導体デバイス1.1兆円が主要な項目です。
日本の2023年輸出金額比率

輸出金額の比率を見ると[第87類:鉄道用及び軌道用以外の車両並びにその部分品]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、[第85類:電気機器]で輸出金額の50%以上を占めています。
それ以外でも[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]、[第72類:鉄鋼]、[第39類:プラスチック及びその製品]が上位に入ってきており、これらむ自動車産業の一部に含まれる製品群が輸出を構成していると言えるでしょう。
日本の輸入金額の傾向
日本の2023年輸入金額TOP5

2023年のデータにおいて、日本で最も輸入金額が大きいのは[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]でおよそ27兆円です。内訳を見るとHS2709原油がおよそ11兆円、HS2711液化天然ガス等がおよそ7.4兆円、HS2701石炭がおよそ5.9兆円という構成になっています。日本は世界でのも有数のLNG供給網を構築しているため、比率が大きくなっています。
2位は[第85類:電気機器]でおよそ16兆円の輸入です。特にHS8542集積回路4.0兆円、HS8517 通信機器(スマホ含む)3.7兆円が主要な項目です。
3位は[第84類:原子炉、ボイラー及び機械類]でおよそ9.7兆円の輸入です。HS8471パーソナルコンピュータ2.1兆円、HS8411ジェットエンジン等1.1兆円が主要な項目です。
その他[第30類:医療用品]でおよそ4.3兆円の輸入、[第90類:光学機器、精密機器および医療用機器]でおよそ4.0兆円の輸入と続いています。
日本の2023年輸入金額比率

輸入金額の比率を見ると、[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]、[第85類:電気機器]、[第84類:原子炉、ボイラーおよび機械類]、で輸入金額の約50%弱を占めており、日本における市場規模の大きさを表しています。中でも[第27類:鉱物製燃料および鉱物油]単体で全輸入金額のおよそ25%を占めており、金額的に負担が大きいことが貿易赤字の原因になっていることが見て取れます。