こんにちは、海運と経済をつなぐメディアLanesです。(Twitterはこちら)今日のテーマはEU-ETSの改正とその中に含まれている海運業界の取り込みについてです。6月に入り大きな動きが立て続けに起こりました。

Lanesのツイッターでも取り上げましたが、EU-ETSの改革案は欧州議会にて6月8日に一度否決され、6月22日に再度決議の上、可決されたという怒涛の展開となっています。一体何が起こっていたのか紐解いてみましょう。

Fit for 55と今回のEU-ETSの改革案とは

【欧州議会で一転可決】海運を含めた「Fit for 55」におけるEU-ETS改革とは

そもそも、今回のEU-ETSの改革案について海運業界では、「外航海運版EU-ETSが2024年から開始する」というポイントで語られていますが、今回の改革案には海運以外にも様々なテーマが含まれています。

議論の大元となっているのは、2030年までに排出量の55%を削減するという目標を達成するためのパッケージ「Fit for 55」です。「Fit for 55」についてはジェトロが分かりやすくまとめているのでそちらをご覧ください。

2021年7月に発表された「Fit for 55」には5つの新しい立法案と、既存の欧州規格の改定案が8つ含まれており、この中の一部議題を6月7日と8日の欧州議会で決議するというものです。

「Fit for 55」内容は次のようなものです。この内、2,3,6,7,8,12が今回の議会で取り扱われました。

新しい立法案

1. EUの新森林戦略

2. 炭素国境調整メカニズム(CBAM)、いわゆる「炭素税」

3. 気候変動対策のための社会的手段(社会気候基金)

4. 持続可能な航空燃料に関する提案「ReFuelEU Aviation」

5. FuelEU Maritime – ヨーロッパの海域のグリーン化

既存の欧州規格の改定

6. EU排出権取引制度(EU ETS)の改正

7. 土地利用・土地利用変化・林業(LULUCF)規制の改定

8. Effort Sharing Regulation (ESR)の改訂

9. 再生可能エネルギー指令(RED)の改正

10. エネルギー効率化指令(EED)の改正

11. 代替燃料インフラ指令(AFID)の改訂

12. 自動車とバンのCO2排出量規制の変更

13. エネルギー課税指令の改正

Clima, che cosa contiene il pacchetto di leggi ‘Fit for 55’ EURACTIV Italia を機械翻訳して引用

海運についてはこの中の5.で取り扱われるものになります(海運に関する新規則案の原本はこちら)が、実は注目されているEU-ETSの外航海運への拡大は、6.のEU排出権取引システム(EU-ETS)の改訂がこれに当たります。

否決を経ての可決は何が起こっていたのか

6月8日の動き

さて、今回何が起こったのかの本題に入って行きたいと思います。欧州議会は6月8日ETS改革案を否決しました。賛成265票、反対340票、棄権34票という結果となり、環境委員会へ差し戻しとなりました。この否決で反対票を投じたのは右派の保守党と改革派、緑の塔、社会民主党と言われています。

背景として、提出されたETSに関する立法案ではEPPと中道派の妥協案を反映した、2030年までの対象部門炭素排出量を2005年比で63%削減する目標となっており、これは欧州委員会の提案目標61%よりはましであるが、議会環境委員会の目標67%からは大幅に低い目標となっていること。また、欧州の産業会に与えられていた無料の排出枠撤廃についても、2034年まで維持することを要求しており、加えて道路交通と暖房からの排出に課税する計画も議論を呼んでいる模様です。

これにより、「Fit for 55」の全体的な承認スケジュールが遅れることが危惧されていました。

6月22日の動き

一転、6月22日にはEU-ETSの改革案が欧州議会で承認されました。これには主要政党間の懸命な妥結交渉があったと言われており、22日の採決はほぼ形式的なものであったと報じられています。今回の投票ではETS改革に対し439人の賛成票が集まりました。

争点となっていた妥協的な目標については、短期的には野心的な目標ではないものの、2030年までにより高い全体的なCO2排出量削減提案を持って理事会と交渉することを前提として合意に至ったということです。

議会で承認された妥協案は、単独で可決できるだけの票を持つ3大政党が、緑の党の協力を得て、猛スピードで練り上げたものになります。ただ、欧州議員のコメントによれば、「今回の合意は気候変動対策に関する最低基準を守ることを意味している」ということで、コメント全体を見ると、むしろ野心的な目標を引き下げたことに怒りすら覚えているようです。このコメントだけでも欧州の環境に対する意識の高さが伺えます。

今後の見通しは?

6月8日の否決により、当初新たな本会議の審議は早くとも9月以降になると言われていましたが、2週間の早期妥結で決着することになりました。これにより大きなスケジュールの遅延がなければ、2023年から適用が進み、2026年以降は排出量の100%が対象となっていく予定です。ただ、まだ次の交渉の場も残っており、6月28日の理事会でも予定通り採択されるかが注目されます。