こんにちは、海運と経済をつなぐメディアLanesです。(Twitterはこちら)今日のテーマは先日バイデン米大統領が署名したことで話題となった、S.3580 Ocean Shipping Reform Act of 2022(2022年の海上輸送改革法)について触れていきたいと思います。本法案によって今後どのような影響があるでしょうか。

2022年の海上輸送改革法とは

【海運業への監督強化】バイデン米大統領が署名したS.3580とは

バイデン大統領は2022年6月16日、不当な海運価格高騰を取り締まり、消費者の負担を削減することを目的として、S.3580 Ocean Shipping Reform Act of 2022(2022年の海上輸送改革法)に署名しました。

本法によって以下の内容が施行されます。

・FMCが新たに必要とする規則制定において決定する、国際海運業者による米国産貨物の不当な引き下げを阻止する。

・FMCに対し、外航船社のビジネス慣行を自主的に調査し、強制措置を適用するよう指示する。

・競争条件を公平にし、FMCの執行能力を向上させるため、「Demurrage and Detention」料金と呼ばれる特定の料金の過払いに関する立証責任を原告から国際海上輸送業者に移行する。

・国際海運会社に対し、空のコンテナがどれだけ輸送されているかをFMCに報告するよう義務付けることにより、米国の農産物およびその他の輸出品の輸送の透明性を向上させる。

・国際海運会社による輸出業者や輸入業者への報復を阻止する。

・FMCに支援を求める米国企業の苦情と調査プロセスを改善するため、FMC消費者問題・紛争解決サービス室を正式に設立する。

・運輸統計局にシャーシの滞留時間に関するデータ収集を許可し、シャーシ管理のベストプラクティスに関する全米科学アカデミーの調査を開始することにより、海上コンテナの陸上輸送に使用される特殊トレーラーであるシャーシの管理を改善する。

・FMCに緊急混雑時のデータ収集のための一時的な緊急権限を与えるなどの改善を行う。

米国上院通商科学運輸委員会のリリースより機械翻訳

細かい施策が複数記載されていますが、端的に記載すると、

米国民が不当なコストを支払うことがないように、(外国)船社の運賃を監視する

ということを謳った法律となります。

バイデン大統領の狙いは?

まず、バイデン政権の置かれている環境でいうと、行き過ぎたインフレへの対応を取らないといけないこと、また、昨今の支持率の低下もあり、2022年11月の中間選挙に向けてポジティブな材料を作っておきたい思惑もあるかと思います。

リリースでも「外資系運送会社」「大手国際海運会社」という記載もあり、国内と国外の対立構造的にこのテーマを取り扱っているのも分かりやすいですね。

高騰した海上運賃

本法を提唱したキャントウェル上院議員は以下のようにコメントしています。

「今日は、港の混雑と海運の課題を解決するための我々の活動が大きく前進したことを示すものだ。「消費者は日常品に高い値段を払うことに疲れ、農家は高騰する輸送費にうんざりしています。バイデン大統領の署名により、Ocean Shipping Reform Act は、大手国際海運会社と農産物輸出業者との間の競争条件を公平にし、干し草からリンゴまで、すべての製品が港で足止めされることがなくなるでしょう」

米国上院通商科学運輸委員会のリリースより機械翻訳

上記から分かる通り、本法の議論のベースとなるのが、現在高騰している海上運賃のコストを荷主(消費者含む)が支払っているという主張になります。

【海運業への監督強化】バイデン米大統領が署名したS.3580とは
CCFI(日本郵船Webページより)

上記は中国輸出コンテナ運賃指数(CCFI)になりますが、コロナ禍になって以後、急激に高騰していることがわかります。このコストを荷主(消費者含む)が支払っており、海運企業が儲けていることを是正したいという意図ですね。

この価格には2つ側面があります。一つは需要と供給の問題です。事実、コンテナ需要はここ数年で高まっており、需要に対してコンテナの供給が間に合っていないことから、運賃が高騰しているという側面があります。これは市場が決めることですので、需給関係が変わらない限りは運賃自体は高騰することになります。

もう一つの側面で、バイデン政権が槍玉に挙げているのは、海運各社が値上げを示し合わせて反競争的行為に走ったのではないかという疑いです。バイデン大統領は3月1日の一般教書演説の中で、適切な価格競争が行われていないということで、海運各社を批判、取り締まると発表しました。

海運業界はアライアンスと呼ばれる、大手コンテナ企業同士での協定があり、主要な企業同士でシェアの大半を占めているため、このような見られ方をしてしまう部分があります。長く運賃が安くなっている冬の時代を越えてきた船社としては、このような政策に異を唱えたくもなるでしょう。

また、ウォール・ストリートジャーナルの記事によれば、以下のようなコメントもあります。

農産物輸出業者は、海上輸送業者が農産物の輸送を断り、代わりに空のコンテナをより有利な東方向貿易ルートのためにアジアへ急がせたため、昨年は何十億ドルもの収入を逃したと述べている。輸入業者は、混雑した荷役施設がコンテナの取り扱いを拒否した日であっても、コンテナの引き取りと返却を怠ると高額の違約金を請求されたという。

ウォール・ストリートジャーナル

確かに、コンテナが不足しているという話題も良く耳にしました。CNBCの報告によれば、中国政府も関わるOOCLとCOSCOは他社と比較して最も多く、米国からの船積み輸出を拒否し、中国の輸出品を積むために空のコンテナを送り返していることが分かっています。

これを市場原理とみるかどうか、立場によって分かれるということでしょうか。

今後の見通しは?

具体的にプロセスで海運会社が監督されるかはこれから明らかになっていくでしょう。足元の運賃価格は少し落ち着きを取り戻しており、港の混雑等もピーク時から比べると緩和されてはいるものの、いずれも平時に比べると通常状態に戻ったとは言えない状況です。

直近は各種インフレ対策の強化の結果、アメリカ国内の貨物需要の弱まりも見通されており、サプライチェーンの混乱も少しずつ落ち着いていく見通しもありますが、それが純粋な市場の動きなのか、政策の結果なのかは冷静に見ないといけません。

また、本法はあくまでもアメリカ国内の動向であるため、国際的な需給の状況には目を光らせる必要があるでしょう。