今回は、商船三井の近年の環境への取り組みを2022年1-3月期に配信されたプレスリリースの内容を整理してご紹介していきます。ウインドチャレンジャーに関する動向やバイオ燃料の投資、風力発電事業への投資が直近の動向として見えてきています。早速紹介していきましょう!

商船三井の事業・船舶・技術への投資

商船三井における、事業・船舶・技術に関する投資のリリースは、以下の22件となります。数が多いので項目を分けて見ていきましょう。

事業投資

洋上風力発電への投資

商船三井も洋上風力発電事業への投資を加速しています。1-3月の間でも3件のリリースが発表されました。まずは台湾への事業投資、こちらは東邦ガス、北陸電力との共同で台湾での洋上風力発電参入を目的とし、フォルモサワン・インターナショナルインベストメントへ25%の株式取得で合意しました。3社とも海外での洋上風力発電発電の参入は初めてとのこと。

フォルモサワン・インターナショナルインベストメントは100%出資する、フォルモサワン・ウィンドパワー社を子会社として持ち、以下の様な発電能力を有しているとのことです。

対象会社は、100%出資する Formosa I Wind Power Co., Ltd.(フォルモサワン・ウィンドパワー。以下、「FWPC」)を通じ、台湾苗栗県の沖合で発電容量 12.8 万 kW の洋上風力発電所(以下、「フォルモサ 1」)の運営を行っています(参考②)。フォルモサ 1 は台湾における初の商用規模の洋上風力発電所であり、固定価格買取制度(FIT)に基づく台灣電力股份有限公司への 20 年間にわたる売電を、フェーズ 1(0.8 万 kW)では 2017 年 4 月に、フェーズ 2(12.0 万 kW)では 2019 年 12 月に開始しています。

商船三井プレスリリースより

ちなみに、フォルモサへの日本からの事業参画は本件が初めてではなく、JERAが2019年から関わっているようですね。

また、北海道に本社を置き、風力発電のメンテナンス事業を主業とする株式会社北拓とは国内における洋上風力発電事業への投資を目的に100億円規模のファンドを設立しました。

東洋建設とは「洋上風力発電関連作業船の協業検討」を目的として覚書を締結したと発表されました。海洋ゼネコン業界は五洋建設、東亜建設工業、東洋建設が代表格とされ、その1社と今回は提携関係を結んだとことになります。東洋建設のリリースからも、洋上風力発電事業への投資を加速しており、さらなる事業拡大の期待は高まります。

東洋建設国内取り組み1
東洋建設の洋上風力事業への取り組み(2021年3月期決算説明会資料より
東洋建設国内取り組み2
東洋建設の洋上風力事業への取り組み(2021年3月期決算説明会資料より

その他のリリースは以下の通りです。

船舶投資

新造LNG船の長期傭船契約7隻

まずは、中国海洋石油集団、および三井物産との新造LNG船定期傭船契約締結のリリースがありました。それぞれ6隻/1隻の新規契約となります。

前者は中国船舶集団有限公司(本社:中国)の傘下の広船国際有限公司(本社:中国)が建造を請負、後者の建造元は公開されていません。(※三井物産とのLNG船長期用船は本件が4隻目でこれまでのリリースでは、2隻は川崎重工業が、1隻は三菱重工業が造船を請け負っています。)

昨今の脱化石燃料の流れからLNG船需要の勢いを感じます。前者の中国海洋石油集団との契約では商船三井の豊富な中国での実績が要因となったということです。


ArcticLNG2へでの定期傭船契約の締結

1件気になるのが、ロシアのArctic LNG 2プロジェクトに関わる砕氷プロダクトタンカー1隻の定期傭船契約を締結したリリース、本プロジェクトへはこれまでも、砕氷LNG船3隻の定期傭船契約を締結しており、今回のウクライナ情勢でビジネスの撤退等の影響がないか今後の動きを注視する必要がありそうです。

4月1日時点での報道では、萩生田光一経済産業相より「「アークティック2」も撤退しない方針」であるという発言がなされているため、今回の投資が忽ち全く無駄になるということはなさそうです。日本国におけるエネルギー安全保障にも関わる意思決定に注視が必要となります。


その他のリリースは以下の通りです。

技術投資

ウインドチャレンジャープロジェクトの動向

大島造船所と共同で実施しているウインドチャレンジャープロジェクト(硬翼帆式風力推進装置を搭載する大型ばら積み貨物船の導入計画)についても立て続けにリリースが出ています。

3月23日には本プロジェクトが、国交省創設の「海事産業強化法に基づく特定船舶導入計画認定制度」に認定され、資金調達や税制優遇を受けることになりました。本船は今年10月に竣工予定ということで、まもなく来る実証の結果に注目です。


バイオ燃料への投資

バイオ燃料に関する実証の話題が続いています。1件は商船三井テクノトレードが保有する燃料供給船テクノスターがバイオディーゼル燃料の運航に成功し、日本で初めてMARPOL条約等における排出規制を満たしていることが日本海事協会により認証されたとのこと。

もう1件は大型フェリーでのバイオディーゼル燃料実証試験航行を成功させたという事例です。前者は油藤商事が、後者はユーグレナがバイオ燃料を供給しており、特にユーグレナが発起人となっている『GREEN OIL JAPAN』に商船三井も賛同しているとこにも、バイオ燃料への力の入れ様が伺えます。


無人運航船への投資

商用コンテナの無人運航実験についてもリリースがでました。本実証では、事前に策定したルートに沿った自立操船制御運航と、自動離着桟、係船作業までを世界で初めて実証したということで、詳細は日本財団のリリースも含めて確認いただけます。


メタン・アンモニアへの投資

船舶運航の脱炭素化だけでなく、今後のアンモニア需要の高まりも見据えた上で、商船三井もアンモニア燃料供給船やアンモニアFSRUの検討を進めているようです。日本はアンモニア燃料に関する取り組みが多い印象がありますが、諸外国とのコンセプトの違いや取り組みの違いは、一度別記事でまとめたいと思っています。


波力発電装置メーカーへの出資

波力発電企業への出資の動きもありました。リリースによるとBombora社は「波力発電装置および 洋上風力発電装置を波力発電装置と一体化させた構想(以下「InSPIRE(読み:インスパイヤ)」、図1)の技術開発を進めている企業」とのことで、先に記載している洋上風力発電とも結びついてきそうです。なお、BomboraへはenzenやTechnipFMCも出資やパートナーシップを締結しています。

商船三井と関係機関との連携

海運業界事業提携2

商船三井における、関係機関との連携に関するリリースは、以下の4件となります。

技術投資のリリースではアンモニアに対する動きを主に紹介しましたが、こちらではメタノールに対する動きが見えてきました。まず、主要な内航船社とともに、「国内初のメタノールを燃料とする内航タンカー開発に関する戦略的提携に合意」しています。各社の役割は以下の通りです。

本業務提携における各社役割

また、世界最大のメタノールサプライヤーであるMethanexとのパートナーシップはさらに強化されています。詳細については昨年のプレスリリースも併せてご覧ください。

商船三井の進む方向性

ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度であるJブルークレジットに参画したニュースもリリースされています。日本においてもこういった制度を通じて環境への取り組みが加速する流れを感じます。

まとめ

商船三井の1-3月期のリリースを見ていきましたが、洋上風力やバイオ燃料、ウインドチャレンジャープロジェクトの投資等、特徴的な動きが見られました。一方で全体を俯瞰してみると、大手企業として、アンモニア、メタノールも含め、各領域に満遍なく戦略的な提携を進めていることも確認できました。3ヶ月間ではありますが、各領域において動きを見せている商船三井の今後に、更に注目して行きたいと思います。