Lanesでは世界各国の海運企業における環境関連の取り組みや投資の動向を整理してお伝えしています。今回は、A.P.Moller Maersk(以下マースク)の近年の環境への取り組みを2021年下期に配信されたプレスリリースの内容を整理してご紹介していきます。

※本記事で紹介するリリースのタイトルや内容は、機械翻訳をかけて日本語で記載しています。

マースクの事業・船舶・技術への投資

マースクにおける、事業・船舶・技術に関する投資のリリースは、以下の7件となります。

タイトルを見るだけでも、メタノール燃料を中心とした技術投資が盛んであることが明らかです。初期的な取り組みとして、マースクの子会社で曳船会社であるSvitzerは世界初のグリーンメタノールを燃料とした燃料電池タグボートを2024年第1四半期までにヨーロッパ地域で運航を開始する予定と発表しています。

同様に、メタノールで運航できる16,000TEU外航コンテナ8隻を同じく2024年第1四半期に導入する予定も発表されています。これは現代重工業(HHI)により建造され、2025年に4隻を追加発注するオプションが含まれています。本船は旧型船の代替船となり、年間約100万トンのCO2排出量を削減することができるとのことです。本船はデュアルフューエルエンジンを搭載しています。従来の低硫黄燃料に加え、メタノール燃料での運航を可能にするデュアルフューエル機能のための追加資本支出(CAPEX)は、総価格の10~15%の範囲となり、マースクは、カーボンニュートラルなソリューションを拡大し、コンテナ物流の脱炭素化をリードするという取り組みにおいて大きく前進することが可能になります。

Copenhagen – In the first quarter of 2024, A.P. Moller – Maersk will introduce the first in a groundbreaking series of 8 large ocean-going container vessels capable of being operated on carbon neutral methanol. The vessels will be built by Hyundai Heavy Industries (HHI) and have a nominal capacity of approx. 16,000 containers (Twenty Foot Equivalent – TEU). The agreement with HHI includes an option for 4 additional vessels in 2025. The series will replace older vessels, generating annual CO2 emissions savings of around 1 million tonnes. As an industry first, the vessels will offer Maersk customers truly carbon neutral transportation at scale on the high seas.

マースク公式リリースより

また、シリコンバレーを拠点とする新興企業Prometheus Fuelsにも少額出資を実施しています。Prometheus Fuelsでは、CO2を空気で直接回収して炭素ベースの電気燃料を製造する、革新的な技術を開発している企業であり、メタノール燃料意外にも、技術的なポートフォリオを広げる動きの1つとなります。

また、マースクは米州とアジアでグリーンバイオメタノール生産を開発するWasteFuel社にも出資をしています。上記の通り、具体的なメタノール船舶への投資が明らかになっているため、燃料調達能力の拡大へもしっかりと投資をする動きが伺えます。

マースクと関係機関との連携

マースクにおける、関係機関との連携に関するリリースは、以下の3件となります。

マースクは2021年11月4日のリリースで”First Movers Coalition“に創設参画したことを明らかにしています。First Movers Coalitionは国連気候変動会議(COP26)において設立され、航空、海運、鉄鋼、トラック輸送を対象とした、2050年までのネット・ゼロ・エミッションを目指す企業グループとなります。

また、中国船級協会(CCS)とは、カーボンニュートラルに関する技術・企画について、技術的な発展を狙いとした提携を結びました。先述の通り、マースクの環境に対する技術投資は盛んであり、CCSのもつ研究能力を上手く活用していくという目線のようです。

さらに、香港のビジネスセクターによって設立された、慈善会員制組織であるHong Kong Business Environment Council (BEC)の”Low Carbon Charter“にも署名をしました。マースクは重要なハブである香港での脱炭素化へもコミットしていく姿勢を明らかにしています。

マースクの進む方向性

マースクにおける、企業の進む方向性を示すリリースは、以下の1件となります。

マースクはメタノールで運航できる外航コンテナ8隻の建造資金を調達するために、同社が最近発表した”グリーンファイナンスフレームワーク”に基づいて、5億ユーロ(約650億円)のグリーンボンドの募集に成功しています。応募は実に7倍以上の37億ユーロ(約4,760億円)の注文があり、注目の高さが伺えます。また、この取引により、10年債の年利は0.75%とマースクにとって過去最低の利率となっているようです。

グリーンボンドについては、日本の場合環境省からガイドラインが出ているため、詳細はそちらをご覧ください。

まとめ

2021年下期のマースクにおける環境関連のリリースを見てきましたが、かなり具体的な投資を加速していることが明らかになりました。メタノールで運航できる16,000TEU外航コンテナ8隻2024年第1四半期に導入する予定を発表しており、その建造費用を捻出するための、大型のファイナンスやメタノール燃料を製造するスタートアップの出資等、積極的な投資が目につきます。

また、海運業界としての脱炭素のグローバルリーダーとして、公的機関との積極的な連携の姿勢も見て取れます。今後のマースクの動きはきっと、多くの海運企業のベンチマークとなるでしょう。